もちろん、精神科ぽい検査もある

 前章では秒で終わった内科検診を話したが、我輩が入院しているサンロクは精神科の病院。もちろん、精神科ならではの検査もある。しかも、我輩が受ける検査は数が多く、三日間に分けて行われた。

 一日目のテストはゆる~く、割と楽な物ばかりである。

 先ずは紙を渡され、そこに書いてある質問に、自身の状態が何点か選んでいくテスト。テストと言うより、アンケートと紹介した方が正しくイメージが伝わるか。

 2つ目のテストは、A4の画用紙と鉛筆一本を渡される。

「何か、実のなっている木を描いてください。」

 と心理士からお題が。

 おっ!? お絵描きですか。絵は自信がある方だぞ。なんせ、我輩、ジャック・オ・ランタン(ハロウィンのカボチャのお化け)をモチーフにしたキャラクターを自分で描いて、SNSのアイコンにしているくらいだからな。(X:旧Twitter及びYoutubeもやってると、ここで宣伝しよう。)

 とまぁ、本筋から外れたが、今は木を描くテスト。時間もかけるのも大変だし、少ない線でお題を描き切ることを目標としよう。

 フサッ フサッ と葉を覆い茂らせ、スッと幹を描く。そしてバランスよくリンゴを配置すれば完成!

 早速、絵を見せると、この木の種類は? とか、この絵に点数を付けるなら何点ですか? とかいくつか質問を受けて終了。まぁ、絵に自信はあると言ったが、消しゴムが無いので気に入らない所が消せないのは難点。意外と難しく大変だった。

 続いてのテストもお絵描きで、今度は紙と油性ペンを渡される。鉛筆と違い、ペンだと一発勝負を強いられるが、さらに難易度がアップされる指示が。なんと、心理士が言った物を描いてはまた指示があり、それを絵に加えていくのを繰り返すのだ。なもんですから、だんだんと描くスペースは無くなり、バランスも悪くなる。苦心して、何とか風景画のようなものができた。まぁ、この条件では上出来だと自画自賛していたら新たな指示が。

「では、次に色を塗ってください。」

 と、24色の色鉛筆を出してくる心理士。

 何!? 色塗りだと!? 聞いてないぞ!!

 知っていたら描かなかった線とかあったのに…。

 と内心不満を持つも、ペン画に着色を始める。

 う~む、24色だと、欲しい色が無いなぁ…、と贅沢な悩みを抱えながら作業を進める。途中、心理士から我輩の経歴を聞かれ、手を止めることもあったが、色塗りを進めて無事完成だ! 自然豊かな景色が画用紙に広がっている。うむ、我ながら上出来。

 この後も絵に描いたものは何かとか、動物の種類とか、色塗りのポイントとか色々聞かれたが、まぁ、困ることもなく答えて検査終了。

 好きなことが出来て少々上機嫌になっていると、心理士から一時間以上時間が経っていることが伝えられる。そして少々休憩をはさんでから後半戦に入ることとなる。茶を飲んで少々リラックスして、一日目最後のテストに臨む。

 最後の検査は、絵を見て、何が描かれているか答えるテストだ。絵と言っても、犬や猫と言った簡単な物でも、ゴッホやピカソと言った名だたる画家達が描いた名作でもない。モチーフが無いというか、偶発的に出来物と言うか、何とも表現しがたい絵を一枚ずつ、計十枚も説明するのだ。しかも、それらの絵は水墨画のように黒一色の物もあれば、黒朱の二色、様々な色が使われた物まであり、統一性が無い。(後に知ったのだが、この十枚の絵、インクのシミらしい。道理で、左右の対称性はありつつも、完全に一致しないわけだ。)

 とまぁ、何というか、難解と言うか、不可解と言うか、不条理なテストだが、我輩も自称小説家。名も無き存在をどう見て、どう感じ、そしてどのように表現するか。それこそ物書きの真骨頂ではなかろうか。受けてたとう。

 やる気に満ちた我輩は一枚の絵に対し、抱いた印象や湧き出る感情を口にし、あるいは複数の見え方を述べ、総括をする。メモを取る心理士も忙しそうだが、手心を加えるつもりはない。矢継ぎ早、とまでは言わないが、頭の中に次々と浮かんでくる言葉を口にする。そして沸騰したやかんの火を止めるように頭が静かになると、絵を置き、そして新たな絵を手にする。そしたらまた間欠泉のように次々と湧き出る言葉を声にしていく。それを繰り返すのだから、一種の異種格闘戦を演じていたと表現してもいいかもしれない。それほど、熱いやり取りをしていたのだ。

 だが、その攻防も十回目で終了。一息ついたところで、心理士が口を開く。

「これから、先ほど説明していただいたことを、もう一度、私に説明していただけませんか。」

 どういう事かと言うと、例えば、我輩がある絵を見て、蜂に見えると言ったとする。では、絵のどこが蜂の頭で、どこがおしりなのかと言うことを具体的に(指をさしたりしながら)伝えるのである。どうやら、心理士のメモ用紙、と言うか所定の紙にはそれを描くスペースがある。

 なるほど、将棋では試合の後に、別の戦術を使っていたらどうであっただろうと、勉強会のようなものを行う感想戦と言うのがあるが、今回も似たようなものか。まぁ、我輩も頭が冷えた時に絵を見て、自身の言葉を振り返るのも一種の客観視のようで面白い。やりますか。

 と、もう一度、十枚の絵を一枚ずつ、丁寧に見返した。

 その後、自分を表すならどの絵? みたいな質問を何個か受け、検査は終了。総時間二時間四十分(休憩時間込み)の大イベントは終幕を迎えた。これほどの時間と熱をあげ、何かを成したのは、学生であった時の定期テスト以来ではないだろうか。いや、小説執筆がこれよりの時間と熱をあげてた。

 だが、まぁ、終わったと言ってもまだ一日目。次回の検査日を決め、我輩は診察室を後にした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3号棟F6 ~病棟と言う名の檻~ 白下 義影 @Yoshikage-Shirashita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ