前世の記憶(にわとり)を持っている人狼女子彩音ちゃんは、モンスターの為の訳あり婚活パーティーに参加しました

もち雪

第1話

 今年もモンスターの為の婚活パーティーが開催された。しかもここ日本で!


 今日の婚活パーティで、主催主のO型の吸血鬼氏はオープニングスピーチでこう語る。


 「猫は飲み物さぁ飲むが良い」


 そう言って彼は、可愛い耳の折れ曲がった猫のお腹に顔を埋め、その匂いを堪能している。私も来てくれた黒猫ちゃんのお腹の匂いを少し嗅ぐと日向ひなたの匂いがした。彼と結婚すると毎日このお日様の匂いのする猫達と一緒に居られるなら、彼と結婚するのもいいかもしれない。


 私は婚活パーティー会場を見回す。世界の一枚裏側にある結婚式会場。その1室を借りて開催さえているが、会場は黒で統一され、とても落ち着く造りになっている。


 黒い衝立の前に立つ主催のO型の吸血鬼氏は、決して人間界での名前も姿もさらさない。日本画で書かれた猫のお面だけが、彼のアンデンティティー。


 私達、参加者は二人掛けの机の椅子に座り婚活会場の始まりを心静かに待っていた。


 しかしよく見ると、椅子になっている人が居た。スレンダーな美女が、黒のセクシーで、丈の長いドレスを着て椅子になっている。その上には液体度高めなスライムがいる。


 彼女の事を、名簿をで確認してみる。


 『実験体スライムとドM魔女』 あかつき、エスリル


 なるほど……。


 私のところはちゃんとなっているだろうか? 確認してみると、 『前世の記憶(にわとり)を持っている人狼』 彩音


 ……にわとりじゃなくて、名古屋コーチンだし、人狼じゃなくて人狼女子なんですけど……。普通のにわとりとは違うって事を何故、みんな理解しないのか。少し悲しくなり少し涙を流す。


 「これ、使いなさい。暁様からよ」


 スレンダーな美女の彼女が、私にハンカチを差し出した。スライムの方が暁って名前だったのか……。私はありがたく、ハンカチを受け取り涙を拭いた。


 そしてこの婚活パーティーのルールを思い浮かべる。それは『相手の個性を尊重する』だった。


 なので、私は使ったハンカチを、「ありがとうございます」と言って床に投げ捨てた。


 「アンッ」彼女はそう言うとハンカチを拾い、頬をピンク色に染めて帰って行った。その後ろ姿を見送り、目の合った? スライムの暁様に会釈えしゃくをした。


 そんな事をしていたら、自己紹介タイムになってしまっていた。そうすると、実験体スタイムは私達の輪から外れ、壁際歩いて行く。でも、それは、エスリルにはご褒美だったのだろうか? 彼女はとても嬉しそうだった。


 自己紹介は、さすがに訳ありモンスターばかりで凄かった。


 主催のO型の吸血鬼氏は猫愛を語り、私は名簿の訂正を求め名古屋コーチンは、「にわとりでくくられるものではない!」それ自体独立して語られるべきだと力説した。そもそもと猫好きは、偏見が多く人狼は猫を怖がらせると考える人が多く相容れない。


 それでもさすがO型の吸血鬼氏、人当たりがいいだけあって最後まで彼と私の間に、亀裂が起きず時間いっぱいまで話しきる事が出来た。


 名簿欄の彼の名前の横には、そっと〇を付けた。話せばいつかわかり合えるかもしれない、そう思えるものがあった。


 花婿至上主義の武士のお前は駄目だ。そもそも君は、モンスターではないし……。

 何故、自己紹介時間の間、ずっと結婚式は神社で挙げて、衣裳直しなどについても男性側に衣裳を合わせて欲しいって話から進まないのです?

 

「和装の衣裳も素敵ですよね」


「結婚式の衣裳を花嫁が望めば、男性側に合わせるのもいいと思います」


 自己紹介の時間中、この2つの言葉を繰り返し言っていた気がする。


 その後、バロメッツ、実として木になっていた過去果物系、羊は私を怖がって近寄っても来ない。


 「あぁ羊よお前も同じか」


 そう一人呟く。2回も続けて、無駄な時間を過ごす事になるとわかれば、そう言いたくもなる。一人座って居ると……。


 実験体スライムの暁様が、紅茶を二人分持ってやってきた。


 「こんにちは、ここに座ってもいいですか? 壁際に立っていたんですが、すっかり足が疲れてしまって」


 足が――。思わす私は、ふふと笑う。そうして暁様の頭の上の紅茶を机の上に乗せると、暁様は器用にそれを伸ばしたスタイムの手で、受け取り飲む。


「貴方は前世は、にわとりなんですか?」


「正確に言うと名古屋コーチンですけど」


「名古屋コーチンって美味しいですよね、あっと前世が名古屋コーチンの方に無神経でしたね」


「いえ、そんな事はないです。なんとなくわかってましたから……そうなる事が……でも、美味しく価値のある鶏だと養鶏場ようけいじょうのおじさんやおばさんが話しているのを聞いて……それだけが私の誇りだったので、美味しいって言われるのはそんなに悪い気持ちじゃないんですよ。私は今、人狼女子に生まれて、食べる立場になって名古屋コーチンの素晴らしさを再認識しましたし」


「あ――人狼女子さんなんですね。凄く興味がありますね――やっぱりもふもふとして可愛いんですか? 見てみたいな……」


「あの携帯に写真があるんですけど……」私は、少しもじもじしながらそう言った。


「見てみたいです。構いませんか?」

 

 そう言い暁様は紅茶を乗せて来た、おぼんを差し出す。


 「汚してしまわないように、携帯をこれに乗せてください」


 私が携帯を乗せると、暁様は器用におぼんを動かしながら携帯を見る。


「わぁ――可愛らしい、もふもふ狼なんですね」


 そう言って暁様は、笑った様な気がした。なんとなくそうわかって不思議だった。


「ありがとうございます」


「いえ」、そう言って携帯を受け取とるとそろそろ、ペアの交換の時間。


 司会者の「では、後3分で、男性は席を変わって貰います」と言う声がするとともに――。


「ありがとうございます、足はすっかり元気になりました」 そう言ってスライムの暁様は、器用に自分の紅茶を乗せ帰って行く……。


 わたしはそれをただ、見送っていた。それからは何を話していたのか覚えていない。ただ視線の先には暁様が、伸びたり、縮んだりしている様子が何度か目に入った。


 そしてトークタイム。


 何度か、魔女のエスリルが、スライムの暁様のもとへ行き、「こっちはいいから、真剣に恋愛出来る相手を探して来い」と言われ、その度に彼女は頬を赤らめていた。


 美人な彼女のそんな様子に、男性はひかれ彼女の周りに人だかりが出来る。それに比べ女性は、素敵な男性に一定以上集まれば入れ替わると、いう具合になっていた。


 オープニング時の衝立は外され、そこに軽食が置かれている。


 私もO型の吸血鬼氏とも話しては居たが、人数が増えて来たので、少し軽食のまわりにウロウロして、料理を皿に盛って椅子に座って食べたりしていたが……もう暁様は来てくれる事はなかった。


 前世は、名古屋コーチンだけれど、今はひっそり生きる人狼……。


 でも、今だけは昔のプライドを呼び起こさなくちゃ、絶対後悔する。私は食べた皿を指定の台の上に置くと、暁様の所まで歩いて行く。


「暁様!」


「何回、言えばいいんだ……」暁様は、私をエスリムと思ってたらしく固まった。


「どうしたんですか?」


「いや、駄目です。貴方も真剣に恋愛出来る相手を、探しにあっちに戻るべきです」


 暁様は、何かを感じ取ったのか、大胆過ぎる視線に気づいたのか、そう言った。


「だから、話に来たんです」


「……いいでしょう……話したらすぐ帰ってくださいね」


 私が、強情なのがわかったのか……暁様はあきらめた様だ……。


「わかりました」


「俺の話をしますね。俺はご存じの通り実験体スライムです。魔女の叡智の結晶であると言ってもいいでしょう……。でも、その叡智は今、ドM魔女エスリルを満足させる事のみに使われています。例えば魔法アイテムを一日30品作っておけ!とか、一週間の作り置き料理を低価格で作れ!とか俺は彼女の望む言葉を、毎日考えます。ある日……魔女はキラキラした目で私に言うのです。新メニューが欲しいと……なので、新しい料理のメニュー30品分作っておけと言ったら、次の日には、幸せな顔で寝ているエスリムと30品の分のレシピがありました。俺の仕事に、俺の叡智は関係ありませんでした……」


「はぁ……」


 私は、暁様の告白に戸惑っていた。


「エスリムがこの婚活パーティーで、成功しない限り誰かを巻き込む事になるのです……。そんなの俺には耐えられない……。だから貴方も、この婚活パーティーで素敵な方を見つけてください……」

 彼は、悲しそうに椅子から降り行こうとする。


「待って!」


 暁様は、とまって私を見る。たぶん……見ている。


「もし彼女がこの婚活パーティーで素敵な言相手をみつける事に成功したら、私の事も真剣に考えてくれますか?」


「彼女きっと告白に、Yesとは言わないでしょう、でも……いえ、希望を持つと後で辛いだけです。では、失礼します」


 暁様は行ってしまった。しかし私には「でも……」彼のこの言葉だけで十分だった。


 そして告白の時……。


 次々、カップルが決まって行く中、魔女エスリムに告白する者が現れた。


 数多くの者が彼女の前に、並ぶ……。その一番後列に私が並び、会場がざわざわとした。


「好きです」「付き合ってください」の他に、彼女の個性的に好む言葉を言った者も居る。私はその言葉に勝たねばいけなかった。私は人狼と名古屋コーチンの威厳をすべて出して、彼女の前に立つ。


「私は貴方のスライムが好きです。だから貴方の作った実験体スライムの付属物となって私と付き合ってください!」


 そう言って私が、手を出して下を向くと……。


 魔女エスリムの柔らかい手が、私に触れた。


「付属物の貴方の手が、じゃ満足できません!」と言ったら、彼女は少し倒れ込む様に座り「好き」と呟いた。


 その横を暁様が、歩いて来て……「君には、負けたよ。でも、お友達からね」


 ひんやり、でも、少し暖かい手で私の手を取りながらそう言った。


「カップル成立おめでとうございます!」


 会場にO型の吸血鬼氏の声が晴れやかに響いた。



              おわり

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