03.封流士という職業がある(2)
くわん、と頭が意識ごと揺れる。そのまま意識を手放しそうになるのを気合いでこらえて痛いすごい痛いすごいちょっとまってものすごく痛い痛いからこそ気絶しなかったのかよかったなにもよくないほっぺたどころか首まで痛いんだけど。
「体重を完璧に乗せた見事なフルスイングなのです。きれいに吹き飛びましたね」
「ごめんちょっとなにが起こったのか把握できてない痛い首が痛い後ろ頭が痛い」
「このかたをハルキが情欲のままに押し倒したんですよ。なので平手打ちを」
「誤解があるし誤解しかない。じゃなくて、ええと!」
冗談抜きで地面に転がされていたらしい。あわててバネみたいに起き上がると。
「ううう~!」
目の前には、胸をかき抱くようにしてしゃがみ込んでいる女の子がいた。
少し外向きにクセのついた、青みがかったきれいな髪。
静かな海の底を思わせるような、引き込まれるような蒼い瞳。
真っ白な肌が形作る、童顔ぎみの愛らしい顔立ち。
つまりは、とてもかわいらしい女の子なんだけど。
「ちかん……へんたい……」
怒ってる。喜怒哀楽の『怒』の説明写真に使えそうなくらい、目がキっとなってる。
「待って。ぶつかったのは不注意だったし、そのあと押し倒したのも悪かったとは思うけど」
「触ったわよね……触られた……匂いまでかいでた……」
「誤解です。かばっただけです」
「誤解もなにも、胸に顔を埋めてそれはそれは幸せそうな顔をしていたじゃないですか」
「黙ってろ犬。だからええと、その……」
そこまで言ったところで、気づく。
――すぐ後ろまで迫っている、獣の足音と息づかいに。
「それより! ここって」
「ごめん話はあと! 走れる!?」
「走るって、ちょっと待っ――」
女の子の表情が固まり、絶句する。目を見開いたまま、あわあわと口を震わせて。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
女の子が見ている方向、つまり俺の後ろから聞こえる、暗く低いうなり声。
間違いない。すぐ後ろにい……もう行動に出てるなこれ!
直感で体をひねる。一瞬前まで俺がいた位置を、巨木のようなシルエットが通り抜けていく。
避けたのは、大きな爪の付いた巨獣の腕。獲物を捉えそこね、地面を叩いたそれは轟音とともにコンクリートを砕き飛ばした。
「きゃああっ!」
「うおお危ない! ああもうええと、ごめんね!」
悲鳴をあげ、へたり込む寸前の女の子の腰をつかむ。かつごうか抱えようか、一瞬だけ迷ったけど。
「あれ、あれ、ばけも……ひゃあっ!?」
いわゆるお姫様だっこの体勢で、その子をしっかりと持ち上げる。
「って軽っ! 羽根か!」
人の体とは思えないほどふわりと持ち上がってしまったことに、変な声を出してしまう。確かに見た目は細いけど、それでもこれは予想以上――
「って、羽根? え?」
ファー付きの上着でも着てるんだろうか。ふかふかした感触から、押し倒してしまったときにはそう思ったんだけど。
「来ますよ! そのまままっすぐ走ってください! あとの指示は出しますから!」
抱き上げるとわかる、その気持ちのいい感触の正体。目を落とすと、視覚がそれを裏付けてくれる。
「えと、あの、ちょっと!?」
あわてたように俺を見上げる、腕の中の女の子。彼女の背中には天使を思わせるような、それでいて聖職者を困らせるような――
一対の、黒い翼が生えていた。
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いろんなものが異世界転移『してくる』世界で、今日も仕事に励む俺です ~業務内容は転移者の保護・アイテム鑑定・モンスター退治・ダンジョン攻略などなど多岐にわたります~ くろばね @holiday8823
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