第五話/第八特区
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スエルニア共和国。
三大国家と呼ばれている大国の一角。
三大国家とその周辺国の中で最も
良くも悪くも、『戦線のアークトゥルス』の舞台である第八特区がある国と言う事もあり、三大国家の中では連邦に並んで開示されている情報が多い。
と、言っても俺の記憶にある国の情報もだいぶ擦れており、重要なところは一応ちらほら抜けはあるもののある程度憶えているが、国はだいぶ怪しい。
結果として、一番分かってるのは今生の生まれである帝国だ……。
「隊長、溜息出てるよ」
「今からでも帰りたくなってきたな」
「……怒られるよ」
しっかりと内容を憶えていればよかった、と思いながらため息を吐けば隣に立っていたフィオナに呆れたような声で釘を刺されるがそれを気にせず、眼を細める。
これが部屋の中で茶をしばいていたら、そこまで気にしなかったのかもしれない。なんて、考えたら部屋の片づけというか降車の準備をするのは少し早かったかもしれない気がする。
通路からもうほとんど見えている第八特区のクリーチャー用の外壁を眺めていれば、フィオナからの視線が刺さる。
「……ところで、隊長。第八特区での会談について何か聞いてたりしないの?」
「ウチの本家だからって、俺が知ってるわけないだろ」
いやまあ、『戦線のアークトゥルス』の本筋に関わってるから知ってるけども。それでも内容としてはその後に繋がる部分でしかないから、俺自身もがっつり覚えてるわけじゃない。
何度も言ってるし、フィオナも分かっているがあくまでオルグランフェ家の傍流でしかない俺は本家とはあまり関わり合いがない。
関わりがあるのは、それこそ俺を見出した本家の当主様もとい
オルグランフェ家の騎士団、その第三騎士隊を任される程度には重用されてはいるが、それだけで政治面に関してはノータッチだ。
「変に考えるなよ。
「了解……そう言えば、第八特区に駐屯してるの
「……
フィオナの質問に苦々しく返す。
オルグランフェ家の次期当主。
先ほど言った様に、当主の孫娘で年齢自体は俺よりか下だが、それでもその実力は騎士隊長を任されるだけあり、鋼衛士としては俺よりも上だ。
負けてやるつもりもないが……。
そんな彼女とは最後に会ったのは各々が騎士隊長に任じられた時だろうか。
「彼此……四、五年は会ってないな」
「まあ、
「お前な……帝国で他の貴族連中相手にするような第一騎士隊と、諸外国の政治に顔出させられる第二騎士隊に比べて
「多分、ウチの面子の誰に聞いてもこのままで、ってなるだろうね」
俺の質問に額に手を当てながら答えるフィオナを尻目に、列車が第八特区の外壁の進入路へと入っていく。
一瞬、通路が暗くなるがそれもほんの少しの時間。
すぐに通路は明るくなり、窓に見える光景は先ほどまでのモノから一変する。
山や丘ばかりの光景から石造りの外壁に囲われた都市───と言っても、実際にここから見えるのは貨物やらなんやらを置いておくための倉庫街。
俺たちの輸送してきた貨物もこの倉庫街にある駐屯軍用の区画に置かれるはずだ。
「それじゃあ、隊長。私はみんなに声かけてくるから」
「ん、任せた」
流石に第八特区へと入った以上はここでだらだらと話しているわけにもいかず、話を切り上げ後方車両へと向かっていく後ろ姿を軽く見送ってから、下車の準備の為に俺はが逆に前方車両に足を向ける。
「────」
後方車両、いや、それよりも後方から声が聴こえたのを無視して───
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「はい、お待ちしておりました。
「相変わらずな様で何よりだ」
第八特区・外郭部軍用駅に到着したユーリら第三騎士隊を迎えたのは一人の少女だった。
その身を包む灰と黒を基調とした制服は帝国騎士を示すもので、ユーリらと同じ帝国軍人なのは火を見るよりも明らか、なのだが……にこやかな笑みを浮かべて歓迎する彼女に対して、ユーリの表情は引き攣ったソレだ。
「悪いが、先に部下たちを動かしたい。そっちの準備は出来てるか?」
「はい、そちらの方は準備が出来ていますよ。あちらに第三騎士隊の方を待機させています」
「そうか。……フィオナ、そっちは……あー、いや、ザージバル、任せる」
「了解しやした、隊長」
傍らに立つフィオナ、ではなくその後ろで下車した兵士らを纏めている大柄な青年に声をかけて、ユーリは彼女の傍らに近づく。
蒼を帯びた黒髪を揺らしながら微笑む彼女にやはりなんとも言えぬ表情を浮かべつつ口を開く。
「流石に
「思ってたのに、来たのは第三騎士隊の枢幽騎士とは、ね」
「久しぶりですね、フィオナ」
「久しぶり、レシア」
互いに笑みを浮かべる女性陣を余所に、ユーリはため息を吐く。
彼女の名はレシア・ラムレイ。
このスエルニア共和国、第八特区に駐屯する
今回の第三騎士隊が第八特区に合流する為に先んじて少数の兵と共に第二騎士隊の下に来ていたのだ。さて、流石の二人も久しぶりに会うという事に僅かなりとも浮かれるところがある様で下手をするとこのまま雑談でも始めそうな二人へと視線を向ければすぐに彼女はその視線を感じ取りながらそこに込められた意味を察して頷く。
「ほら、さっさと行くぞ。俺らがいつまでもここで話してどうする。第二騎士隊隊長様に挨拶に行くぞ」
「……あー、了解」
「はい。それでは、第八特区帝国駐屯本部に御案内させてもらいますね」
ふふふ、と困った様な嬉しそうな反応を見せるレシアにやはりユーリは微妙な表情を浮かべつつもその口角は僅かに上がっているのはきっとフィオナの見間違いではないのだろう。
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硝煙戦線の魔剣使い @CheeseVanilla
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