封印から解かれたお狐さんは何をする

こおりねこ

本編


 はぁ、今日も暗いのう…。

 上も下も右も左もわからぬような暗闇に包まれた大岩の中の世界を

 彷徨い、ぼやく。


 儂は平安時代に安倍晴明に封印された九尾の狐。


 遥か昔、1人が寂しくて中国から日本に渡ってきて、よく遊んでくれる

 おじちゃんと政治のこと、この国の行く末について話してたら、いつのまにか

 おじちゃんを誑かし、国を滅びに導こうとした、とされ陰陽師の

 封印されてしまった。

 日本人の拡大解釈怖すぎる…。

 悪いことしてないのにのう…。

 さらに怖いのが、陰陽師の顔を思い出せないこと。

 仮にも儂を封印した存在じゃ。顔ぐらい覚えていそうなものだが…


 そんなことを考えながら、1人で当時儂を封印したものどもを罵りながら

 歩いていると、

 ふと光が差し込んでいる場所に気づいた。


「おや、光なんて見たのは何年ぶりじゃろうか」


 数えられぬほどの年月が経って、久方ぶりに目にした光。

 その光に導かれるようふらふらと光に近づくと、

 光の中からはかまぼこのような光板を見ている

 珍妙な格好をした人々、透明な板の奥に置かれた

 薄く大きい自然を映している板、手を繋いで歩いている

 つがい…


 けっ、リア充は死ねばいいのに


 まあそれは置いといて、儂のいた頃とは何もかもが違う

 世界があった。


 特に驚いたのは地面に刺さる細長い建物、リア充の多さだった。

 けっ、リア充は爆発すればいいのに…(本日 2回目)


 少しリア充が多いが、とても興味のそそられる珍妙不可解な世界が

 光の向こうに広がっていた。

 

 ああ、儂もこんな楽しそうな世界に生まれたかったのう…。

 

 何気なく光に触れてみると、光は明るく闇の世界を照らし、

 そして儂が千年近く過ごした世界をこ壊していった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 目が覚め、視界いっぱいに色彩が入り込んでくる。

 千年暗闇にいた儂は、まさに色彩の暴力とでもいうべき

 光景に目を見張る。

 夢じゃないのかの…。

 人のガワを被った邪鬼が作った結界に綻びが生じるとは思えん。

 そう思いほっぺたを引っ張ってみる。


「きゃん!痛いっ!のじゃっ!」


 自分の頬をつねってみても、痛みを感じる。

 夢ではなさそうだ。そもそも儂眠らんし。


「おお、儂は外に出れたのかの…?」


 1人はしゃいでいた儂はすっと冷静になり、

 周りを見渡してみると、そこは古い神社の境内のようだった。

 雑木林から聞こえるセミの声。

 山から吹き抜けてくる爽やかな風。

 照りつけるような太陽の日差し。

 外に出て初めての季節は、夏のようだった。


 光にあたり、細長く白い手足、赤に染まった真紅の双眸、

 一つにゆわれた白い髪、そして頭から生える白いもふもふな耳、

 白く透き通るような銀のしっぽがきらめく。

 心なしか、体が光に当たり喜んでいるようだ。

 地面に寝転がり、空を見上げ光を堪能していると、騒がしい足音が響いてきた。


「はぁっ、はあっ、誰かいるんですか!

 大丈夫ですかー!!」


 そう言って儂の視界に飛び込んできたのは、黒く長い髪をゆった、

 まっすぐな瞳をした女の子だった。


「って、誰か倒れてる!!??もぉ、こんな暑いのに出歩くから…!」


 そう言って近づいてくる娘。


 儂を視界に捉え、一言。


「し、しんでるっ!!??」


 いや、生きてるんじゃが。


 起き上がり、

 かくかくしかじか儂が寝転んでた理由を

 説明すると娘は、


「いやいや嘘はダメだよ。その耳はコスプレ?

 お母さんはどこ?おうちは?」


「舐めてるじゃろ小娘。儂はこれでも千歳は超えとるぞ。

 それに耳は飾りじゃなくて本物じゃ。」


 そうぴょこぴょこ動かしてみせると、娘は驚き、

 叫び声を上げた。


「ぎょえええええ!ほんとに、ほんっとうなの!!??」


「だからそう言っとるじゃろうが!!」


「そ、そうだったね、信じるしかないか…

 そういえば自己紹介まだだったね。私は莉奈。

 あなたは?」


「儂に名前などない。昔は狐とか子狐と呼ばれとったからの、

 好きなように呼ぶといい。」


 そう言ってまた寝転ぶと、また娘…莉奈は驚く。


「ええ!生きてて名前ないことなんてあるの!!??」


「あるじゃろ。げんに儂がそうじゃ。」


「そうだった…。でも狐じゃ寂しいよね…。

 そうだ!私が名前つけてあげる!」


 そう言って莉奈は頭を悩ませ始める。


「儂は狐でもいいのじゃぞ。そう無理せんでも…。

 それに、狐っていう名も気に入っておるし…。」


「いやだ!私が決めたいの!狐さんは静かに待ってて!」


 そう言って再び頭を悩ませ始める。


「銀……白……でも赤………?うーん、狐も入れたい…」


 怖い。のじゃ。

 莉奈の鬼気迫る様子を見てがくがくぶるぶるしていると、

 ハッと何かを思いついたように顔をあげた。


「きめた!あなた、今から白練しろねり奈白なしろね!」


「おお、意外と早く決まったの。結局白にしたのかえ?」


「うん!奈白ちゃん肌も髪も白くてイメージにピッタリだったから!!」


「せっかく決めてくれたんじゃ。

 ありがたく使うかの」


 そっけなく言ったつもりが、目尻が下がってきてしまう。

 思ってた以上に、誰かにつけてもらった名前が嬉しかったらしい。

 過去、封印され塞ぎ込んでいた時とは変われる、そんな気がした。


「奈白、これからどうするの?」


「ゆくあてもないしのう…。九尾の狐としての力を使えば、

 生きていけはするじゃろうが…、」


 そもそも、数時間前に現世に来たばかりなのだ。

 住む場所などあろうはずもなく、これからのことを考え途方に暮れていると、


「あ、やっぱり行くあてない感じ?

 じゃあさじゃあさ、私と一緒にこない!!??」


 私一人暮らししてるの!と顔を輝かせながら

 手を差し伸べてくる。

 莉奈の手を取り立ち上がると、儂はこう言った。


「ふんっ!まぁいいじゃろう!

 自分の家が持てるまでお世話になるとしようかの。」


 そうして、莉奈と儂の奇妙な同棲生活が始まった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ところ変わって莉奈の家。


「ふぉぉぉぉ!見たことないのがたくさんなのじゃ!

 なぁなぁりな、これはなんていう道具なのじゃ!!??

 これは!!??」


 もともと好奇心の強い奈白は、莉奈が引くほど質問をしまくった。

 というか、実際ドン引いてた。家にあるほぼ全てのものについて質問が終わった後、

 莉奈は思い出したように言った。


「そうだ!奈白の服を買わなきゃいけないんだよ!

 あんたいつまで和服で過ごしてるつもりなの!!??」


「や、いつまで、といわれてものう…儂これ以外着る服ないしのう…」


 がびーんという効果音がつきそうなほど莉奈は顔を

 しかめた。


「かびーん!」


 というか実際に言いやがったぞ此奴…。


「そうだった!奈白封印されてたんだった!!」


 忘れておったのか!!!!!


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 儂は莉奈のふくを貸し与えられ、都会?とやらの、しょっぴんぐ

 せんたー?とかいうところに連れてこられていた。

 昼時だと言うことでぶち込まれた料理店で

 莉奈を倣って注文をする。

 どうにもここではらーめんとやらが食べれるようだ。

 四角い箱の前で売券を買い、はちまきのようなものを

 まいた男のものに食券を渡し、莉奈がいえ、と言っていた呪文を唱える。

「ヤサイマシマシカラメマシアブラオオメニンニクマシマシ

 の全盛で」


 すると男は、


「おぉ!嬢ちゃん小さいのにやるねぇ。

 でも、お残しは厳禁だぜ?」


「まぁ、大丈夫じゃろ、何しろ隣の莉奈のおすすめじゃからの。」


 そういうと、男は引き攣った笑いを見せる。


「おおう、そっちの嬢ちゃん、なかなかえげつない性格してるねぇ…」


 そう聞き、莉奈は必死に笑いを堪えていた。

 実際に出てきたのは、儂の顔ほどありそうな野菜の山に、

 これまた儂の顔ほどありそうなどんぶりに入った料理が差し出される。

 こ、これを1人で食べろと…?

 そう思いとなりをみると、莉奈は隠しもせずに爆笑していた。

 この娘、一回しばいてやろうか…!

 結局何も頼んでなかった莉奈とらーめんを共有することにより

 食べ切ることに成功したが、しばらく莉奈の言うことは信じられそうにないな、

 と思った。

 店を出て、どこに行くのか改めて尋ねたところ、

 莉奈曰く、儂が光が差し込んでいた場所から見た人々が

 きていた服を買あるところに行くそうじゃが…。


 な に も わ か ら ん


 てか儂千年閉じ込められておったしぃー、

 封印される前は電気なんて存在しないしぃー

 てか、周りの奴らに見られておるしー

 特に男からの視線がひどい。上から下に舐め回すように見た後、もう一度下から上に

 舐め回すように見てくる。

 まさか儂が封印されていた間に男は全員小児愛者になったのか…?

 まぁさておき、服屋に着いたのだが…

 端的に言うと、儂の服を選ぶセンスは壊滅的、らしい。

 儂昔の人だからわからんけど。

 昔の人だからわからんけど!!

 と言うことで、早々に戦力外通知を受けた儂は

 当たりを見回しておった。相変わらず視線がつらい。

 休日なのじゃろうか。しょっぴんぐせんたーには

 大勢の人がおった。なぜだか萎びたように見える

 1人の男性、母にてを引っ張られる子供、並んで手を繋いで歩く

 つがい…


 けっ、リア充は爆発すればいいのに…(現世1回目)


 とまぁ、儂なりに楽しんでいたところ、一つの屋台が目に止まる。

 薄い狐色の紙のようなものに、白いふわふわした物体、赤い果実、

 茶色のソースがかけられたいかにも美味しそうな食べ物が売っていた。


 ふりかえり、一緒に歩いてた莉奈がいるであろう場所に向かって声をかける。


「莉奈!儂あれ食べたい!莉奈、莉奈!!…………ぇ、莉奈?」


 ついさきほどまでいた娘はもうおらず、かけた声も帰ってこなかった。

 心が荒れる。

 心臓が縮む。

 毛穴が開く。

 冷たい汗が吹き出す。

 いついなかった?

 どうしていなくなった?

 誰に狙われた?

 どこにいった?

 瞬時に流れる思考。

 その先に辿り着いたのは、心を染め上げる圧倒的な、


          赫怒。


 瞬間、その少女が設けていた楔は砕け折れ、

 理性は燃え尽きた。

 脳裏に、少女と出会ってからの光景が思い浮かぶ。

 誰がやろうと知ったことではない。

 どんな目的でやったかもどうでもいい。

 ただ、ただ一つ、彼女がいなくなったことだけが問題だった。

 儂の希望ヒカリだった彼女を、

 奪った愚か者がいるのが問題だった。


 めをとじ、ひらく。

 その刹那に甘えを捨て、殺気を宿す。

 彼女の匂いを、鼻でたどる。

 走り出す。人波を裂く。

 空を踏み躙り、その赤のめで愚か者を射止める。

 囁く。

  

   みつけた、おろかもの


 天を砕く。

 愚者に迫る。

 また囁く。


     首断


 首が落ちる。

 血潮をふく。

 膝をついて倒れる。

 千を超える時を生きる狐をおこらせた愚か者は、もういない。


「ひっぐ、ひぐ、うわああああああああああああん!

 怖かったよ奈白ぉぉぉお!たすけてぐれでありがとぉぉぉぉぉ!」


 奈白は、瞳を閉じ、また開く。晴れ晴れするような

 綺麗なあかの瞳が乗った顔を晴れ晴れと輝かせながら、

 顔に慈愛を浮かべ、莉奈を包み込む。


「大丈夫だよ莉奈。また何かあっても私が守る。

 もう、莉奈とは離れない。だから、安心して。、

 そして、おかえりない。私たちのいる平和な世界へ。」


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 帰路につき、家に向かう途中、莉奈に尋ねる。


「なんで襲われたのじゃ?」


「実は私の両親がめっちゃ金持ちで過保護だから…。」

 照れくさそうにえへへ、と笑う。


「なるほど…やはりいつの時代も人間は腐っておるの…。

 儂が切れたのも久しぶりじゃ…。」


「あの時の真白怖かった…。そのまま世界壊しちゃいそうだったもん。」


 苦笑い。


「あの時は外見を取り繕ってる暇などなかったのじゃ。

 せっかくできた友達を失いたくなくての。」


 いきなりの言葉に、莉奈はぽかーんとし、いきなり儂を殴り始める。


「い、いきなりそんなこというのずるいじゃん!

 心の準備できてなかった!」


「ははは、莉奈は面白いことを言うのう。」


「私にとってはなんも面白くないもん!」

 そう言ってまたポカポカしてくる。黄昏の刻に、笑い声が響く。

 なんの確証もないけど、この声は、明日に繋がっている気がした。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「はぁ、今日も暑いのう」


「そうだけど、我慢しなきゃだからね!」


 これは、1人の狐と、1人の少女が描いた、

 夏の思い出の話。











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