本当に嫌い 夢✕優しさ✕嫉妬
「小説家になりたい」
私は
そんな私がなりたいのは『小説家』。でも、中学二年生の私は知っていた。『小説家』になれるのはほんの一握りの人間だけだって。だからといって諦める理由にはならない。
文芸部に入って毎日沢山の本を読んだ。ジャンルを問わず古今東西さまざまなものを読んだ。そしてこっそりと小説を書いていた。
そしてある日、というか、満を持してある小説投稿サイトに公開したり、たくさんの公募に応募したりした。
でも、全然うまくいかなかった。心の何処かで、
「私ならいつの間にか有名な作家になってる! 」
と思っていたが、それはただの幻想に過ぎなかった。
ある日、同じ文芸部の仲間とある賞に応募する小説を書いていた。
「ねえこんなのどうかな? 」
「あ〜ここはね・・・・・・」
といった感じでみんなで意見交換ができるのが面白い。文芸部員は全部で五人しかいなく、ほのぼのと活動をしている。みんな仲が良いが、そんな中で私は一人だけ苦手な人がいた。
それは
波瑠の作品は本当に完璧なんだ。私が読んでも本当に美しい文を書いている。そして、その作品はいろいろな賞を取っている。
去年始めて波瑠の作品を読んだときに私は心の底から嫉妬した。そこにはどうやったってたどり着けない高みにいたからだ。
それから私は波瑠のことが嫌いになった。このどうしようもない嫉妬はいつまでも消えることがなかった。
そして、今も小説を書いている。だいたい書き終わったところでみんなで書いた小説の読み合いをするのだが、今日は波瑠とあたってしまった。
しぶしぶ波瑠の小説を読んでみると一瞬で物語の世界に引き込まれた。主人公の感情が私に伝わってきて本当に美しかった。非の打ち所がないほど素晴らしい作品を読むとこんなにもいい気分になれるのだと改めて感じた。それほどいい作品だったのだ。
それに比べて私の作品は全然だ。そう思って落胆していると感想戦になった。
「うん、良く書けてるよ。やっぱり翼は情景描写がうまいなぁ」
そんなことを波瑠は言ってくる。私の気も知らないで。
「特にこの部分、本当に好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間に私の感情のリミッターが外れた。
「もういいから」
「なにが? 」
「そんな同情や優しさなんていらない! 」
心のなかで「言ってしまった」と公開し始めたがもう止めることができない。
「いっつもいっつもそう、私に作品を見て優しくしてくる。本当はそんなこと思ってないんでしょ。いや、思ってるはずなんてないもん。私の作品。波瑠のに比べたら全然良くない。登場人物の心情の表現から何もかも。でも、勉強したって全然追いつけないんだよ。もう・・・・・・もう・・・・・・」
そこまで言うと私は力尽きてへたり込んでしまった。眼の前にいる波瑠を見ると目を見開いて銅像のように固まってしまっている。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
私は恥ずかしくなって教室を飛び出してしまった。階段のところまで行って座り込で深呼吸をすると少しだけ落ち着いた。
「おい、大丈夫か? 」
波瑠が優しく声をかけてきた。本当にこういうところが嫌いだ。優しすぎるんだから。
「もう、波瑠には勝てない。いいものが全然書けないんだよ」
「は? 何を言ってるのさ。この小説だって十分すごいよ」
「だからそういう優しさいらないんだって! 」
また大声を出してしまった。でも、私の声は震えているらしい。自分でもよくわかった。私は泣いているんだって。
「は〜あ、どうして自分の小説の良さをわかってないのかなぁ・・・・・・ 大丈夫。翼はすごいよ。僕には書けないキラキラを持っている。もっと自身を持っていいよ」
波瑠は本当に優しい顔で私の頭をポンポンしながらこう言った。本当に悔しいなんだかどんどん自分のことが惨めに思えてきて、悔しくて、悲しくて・・・・・・また泣いてしまった。
私は本当に泣き虫だ。でも、その間もずっと波瑠は私のそばにいてくれた。
少しして私が落ち着くと、
「ね、翼は大丈夫。一緒に頑張ろう、ね」
もう、こういう優しいところ、本当に嫌いだ。でも、この感情は嫌いを通り越して・・・・・・もう、もう! ・・・・・・いいや、考えてもしょうがない! もうやってやるしかない! こいつを最高の小説で見返してやる!
私は所謂逆ギレをして『小説家』の夢への一歩を踏み出した。
三題囃 ワンライ 功琉偉つばさ @WGS所属 @Wing961
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