30
クリスマスイブ。僕と陽希が向かったのは、海の側のショッピングモールだった。
エントランスに大きなツリーがあった。白い幹と枝葉に銀色の飾りがついた、お洒落なものだった。
「陽希、写真撮ってもらおうよ! 二人で写したことってなかったしさ」
「いいね」
付き合って一ヶ月が経っていた。平日は、登下校を共にして、陽希の部屋に行って。休日も、家族の予定がない限りは二人で会って。ということは……三十回以上はキスをしていた。
「おっ、よく撮れた。俺ホーム画面に設定しようっと」
「僕もする!」
それからピアッサーを買いに行った。針になっていて、耳に穴を開けるためのものだ。いくつか色があったが、サファイアみたいな青いものにした。
クリスマスらしく、ケーキを食べることは僕の中で確定していた。喫茶店に入るのは並んだが、陽希と一緒だから待ち時間すら楽しかった。
「僕、ブッシュドノエルがいい。クリスマスといえばやっぱりこれでしょ」
「でもこれ、けっこう大きいぞ? 二人で食べ切れるか?」
「大丈夫!」
喫茶店で向かい合って座って、ケーキが運ばれてくるのを待った。陽希が言った。
「なんか……まだ夢見てるみたい。こうして千歳と恋人としてデートできるなんて」
「夢じゃないよ。現実だよ」
ブッシュドノエルには、ふんだんにチョコクリームが塗られていて、サンタクロースや雪だるまなどの可愛らしい飾りがついていた。
「陽希、サンタ食べたい。あーんして」
「しょうがないなぁ。はい、あーん」
勢いがついてしまって、僕は陽希の指までくわえてしまった。
「千歳、がっつきすぎ」
「だってぇ」
付き合ってからも、静人と大我の態度は変わらない。オリジナル曲を作るという新たな目標ができたことで、僕たち四人の結束はさらに強いものになっていると思う。
そして、僕たちは高校を卒業してしまう。軽音部は永遠ではない。けれど、僕たちが音楽に懸けたという証が残せたのなら、これ以上の幸せはない。
「やべぇ、腹いっぱい。千歳、残り食べれる?」
「任せてよ」
ケーキを食べ尽くし、陽希の部屋に行った。陽希は消毒液などをすでに用意していた。まずは僕が陽希にピアッサーを刺すことになった。
「いくよ……」
カチン。すぐに反対側。こちらもカチン。
「陽希、どう?」
「思ってたより痛くなかった。次、千歳な」
僕にも刺してもらった。お揃いの青い石。僕たちが恋人同士であると刻まれた。
「なぁ、千歳……ちょっとごろーんってしよう」
「いいよ……」
僕たちは陽希のベッドに横たわり、ぎゅっと抱きしめ合った。陽希の長い腕の中にいると、落ち着くような、落ち着かないような、不思議な気分になる。
「陽希。好き。好き。大好き」
「そんなに言わなくてもわかってる」
「陽希は僕のこと好き?」
「好きだよ」
「僕も好き」
「このやり取り、終わんないじゃん」
「終わらなくてもいいよ?」
「一旦終わり」
陽希は僕の頭を撫でてきた。
「千歳、歌詞作りはどうよ?」
「手こずってる。書きたいこと、たくさんありすぎてまとまんない。でも、タイトルは決めたよ」
「へぇ、何ていうの?」
「僕の歌が君に響いたら」
そして、僕は陽希の頬をさすり、そっとキスをした。
了
僕の歌が君に響いたら 惣山沙樹 @saki-souyama
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