36. いつまでも

 ライアス様と婚約してから半年ほど。

 ようやく貴族らしい生活にも慣れてきて、王城受けている妃教育も殆ど終えることが出来ている。


 妃教育は一年かかると言われていたけれど、今日の試験で合格すれば終わりになるらしいのよね。

 今は結果を待っている状況なのだけど、試験を受けている時よりも緊張してしまう。


 ライアス様はいつでも王位を継げるようにと陛下と共にまつりごとに関わるようになっているから、彼の手を握りたくても叶わないのよね。

 それに、


「お待たせいたしました。

 エリシア様、今日の試験も合格でございます」


 しばらく待っていると、今日の試験官をしてくれた先生が入ってきて、そう口にした。


「ありがとうございます」


「まさか半年で合格されるとは思いませんでした。エリシア様なら、良き王妃様になられると思います。

 王家の将来を楽しみにしております」


「先生の教え方がお上手なお陰ですわ。本当にありがとうございました」


 私の妃教育を受け持ってくれていた方は全員王家に使えている人達だから、妃教育が終わっても関わることがあると思う。

 だから、しっかりお礼を言ってから部屋を後にした。




 それから少しして、私はライアス様と約束している場所……王宮の前に向かった。

 妃教育がある日はいつも夕方に会っているから、ここを歩くのはもう何度目か分からない。


「試験お疲れ様。結果はどうだった?」


「ライアス様もお疲れ様です。

 無事に合格を頂けましたわ」


「それは良かった。もう全部合格するとは、流石だよ」


 そう口にしながら、軽く私を抱き締めてくれるライアス様。

 ここはまだ王宮の外だから人目もあって少し恥ずかしいけれど、こうしている時間は幸せなのよね。


 王宮の中庭に入れば人目は少なくなるから、ライアス様に何をされても恥ずかしくは無いけれど……。


「ずっと一緒に居るから実感が湧かないが、最初に会った時から随分と背が伸びたな」


「まさかここまで伸びるとは思いませんでしたわ。

 いつの間にかレティを抜いていて、悔しがられました」


「一気に抜かれたら悔しくもなるだろうな。俺はエリーの背が伸びて嬉しいよ」


 ライアス様は背が高いから、今の私でも頭一つ分くらいの身長差がある。

 これくらいの差だと抱きしめられた時に彼の胸に顔を埋められるから、丁度良いのよね。

 最近は殆ど背が伸びていないから、これからはずっとこの身長差になると思う。


 農場で強制労働をしているコリンナが見たら悔しがると思うけれど、もう二度と顔を合わせる気は無い。エルウィンは鉱山送りになったのだけど、三日で身体を壊して働けなくなったみたいで、今は王国で一番厳しい農場で強制労働に就いているらしい。

 農場に移動になった理由は、鉱山のままだと命を落としそうだったからなのだけど、お陰で今も苦しんでいるみたいだから、この判断を下した人には感謝している。

 

「ありがとうございます。でも、もう伸びないと思いますわ」


「ヴァイオレット嬢の背を抜いたのなら、十分だろう。

 今の背丈なら抱き締めやすいし、このままで大丈夫だ」


 彼がそう口にした時、ふわりと足が地面から離れる。

 抱き抱えられていると理解した時には視線がいつもよりも高い場所にあって、同じ場所を移動しているはずなのに違う景色に見えた。


 でも、なんだか怖いからライアス様を抱き締めて落ちないようにする私。

 そうしているうちに王宮の中庭に着いたみたいで、芝生の上に下ろされた。


「これを敷いて」


「ありがとうございます」


 ライアス様が大きな布を広げてくれて、その上に座る私達。

 すると、彼が少し言いにくそうにしながら、こんなことを口にした。


「バードナ家についてだが、爵位の格下げが決まった。

 不祥事が続いたこともそうだが、跡継ぎが居ない状況では領地を任せられないという判断だ」


「賢明な判断だと思いますわ。残った領地はどうなりますの?」


 お父様とは縁を切っている状況だから、家が取り潰しになっても気にしない。

 私の味方で居てくれた使用人達はもう他も貴族の家で働いているから、その心配も無いもの。


「領地は王家の直轄領にすることに決まった。バードナ邸は取り壊すことになりそうだが、大丈夫だろうか?」


「ええ、大丈夫ですわ。むしろ早く取り壊して欲しいくらいですわ」


 お母様との思い出はあるけれど、それ以上に辛い思いでの方が多い場所だから、無くなっても気にしない。

 形見もお母様の実家――クロード侯爵邸に渡っているから、バードナ邸に心残りは無いのよね。


 つい声が大きくなってしまったけれど、ライアス様はいつもの笑顔で頷いてくれた。

 そんな時、見張り塔に遮られていた日の光が降り注いできた。


 綺麗な夕日だけれど眩しくて、つい横を向いてしまう私。

 ライアス様も同じタイミングで振り向いてきて、いつもよりもずっと近い距離で目があった。


「……こんなに近いと恥ずかしいですわ」


「そうか? 俺はもっと近くでも良いと思っている。

 エリー、愛しているよ。必ず幸せにする」


 きっと私の顔は赤くなっていると思う。

 でも、ライアス様の顔が赤くなっているところを見るのは初めてだから、視線は逸らしたくない。


 だから、ずっとこうしていても良い。そう思ったのだけど、ライアス様が恥ずかしさに耐え切れなかったみたいで、そのまま唇を重ねられた。


「私もライアス様のこと、絶対に幸せにしますわ」


 もう辛い日々には戻らない。

 ライアス様と一緒なら、いつまでも幸せでいられる。そんな風に思えた。




Fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にかけ令嬢は二度と戻らない 水空 葵 @Mizusora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ