約束と秋の実り

藤泉都理

約束と秋の実り




 耳が長く尖っていて長寿の種族であるエルフ。

 全身黒ずくめの装束で身元を隠し、身体能力が高い忍者。

 嘴は短く太く付け根がやや太い円錐形、雌雄同色、頭部が赤茶色、背中は褐色で翼に日本の細い白帯があり、「ホッピング」という両足を揃えてチョンチョンと飛び跳ねながら移動する歩き方をする雀。


 これら三種族それぞれの頂点に立つ三体の神々は永く争いを続けていた。

 梨、栗、柿の三種の秋の実りを独り占めする為に、三体の神々は争っていたのだ。

 争いを始めて幾年月が経過したのだろうか。


 おやめください、神様。

 エルフの神様。

 忍者の神様。

 雀の神様。

 もう、おやめください。

 この目を覆ってもなくならない惨状が見えませぬか。

 この耳を塞いでもなくならない悲鳴が聞こえませぬか。

 鼻を摘まんでもなくならない悪臭が嗅げませぬか。

 おやめにならないのであれば、わたくしどもが、梨も栗も柿もあらゆる世界から抹消します。

 懇願の声を聞いて猛省するよりも、脅しの声だと恐怖で震え上がった三体の神様は、渋々和解を結んだ。

 エルフの神様及び世界には梨、忍者の神様及び世界には栗を、雀の神様及び世界には柿を、一種族に一種類の果物を独占することにしたのである。


 こうして永き争いに終止符が打たれたのであった。











「何で仲良くみんなで等分に食べようってできないのかな?」


 エルフ種族である、竜胆りんどうは言った。


「神様は随分と欲深いらしい」


 忍者種族である、はぜのきは言った。


「いつまでこんなこそこそと会って、果物を分け合わなくちゃいけないんだろう」


 雀種族である、あけびは言った。


 三種族の神様が力を失って眠りに就く、星も月も出ていない真っ暗な夜、暗夜を迎えると、竜胆は箒に乗って、櫨は俊足で、あけびは飛翔して、三種族のどこの支配下にも属さないこの土地へやって来ていた。

 戦争で駆り出された際に、お互いに持っていた、梨、栗、柿を分け合って以降、戦争中でも戦争が終結してからも、こうして時々こっそりと会っては、梨、栗、柿を分け合っていたのだ。


「何で戦争中でも戦争が終わっても、わたしたち、こうしてこそこそ会わないといけないのかな?」

「神様たちが他種族に干渉したら自分たちが食べられない果物を欲してまた戦争を始めてしまうのでと、某たちの交流を禁止したゆえ」

「やってられないよね。神様は分け合うことはできなくても、僕たちはこうして分け合うことができるんだから」


 シャリシャリ、ほこほこ、パキッ。

 等分に分けた梨と栗と柿を食べながら、竜胆と櫨とあけびはどうしたらもうこそこそしなくていいんだろうと声を重ねて言った。


「私たちが神様になるとか?」

「某たちが神様に。それは頗る腕が鳴る任務である」

「でも。そうだよね。僕たちが神様になるか、僕たちが僕たちの意見を聴いてくれる神様になってくれる方を探すかだよね」

「「「………神様になっちゃう?」」」


 声を揃えた竜胆、櫨、あけびは、大笑い、もしくは忍び笑いをしてのち、真面目な顔を向かい合わせたのであった。


「「「なろう。神様に。こそこそ会わなくていい世界に。梨と栗と柿を分け合う世界にしよう」」」











(2024.10.3)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束と秋の実り 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ