からつぽの鳥籠

押見げばげば

からつぽの鳥籠

まどかなる橋は鳥の名初山河


福水や木仏に木のたなごころ


人の日の人のこひしきひと日かな


うすらひは音叉のやうに鳴り初めぬ


杣人の手に早春のにほひかな


忘れ物市より蝶の飛び立ちぬ


猫の子やビッグイシューを売る足に


雲梯はペンキ塗りたて燕来る


囀のたとへば試し書くるるる


石鹸玉コピペばかりのひと日かな


雛の日や喘息薬のうすピンク


春昼やクレーンに吊る洗濯機


あたたかや一円玉に葉は八つ


受験期や吊革はみな同じ向き


春の雷コンビニのドア開くたび


亀鳴くや返してすぐに借りる図書


羊には羊の家族うららけし


薬袋の大きふりがな蝶の昼


ジャム瓶の影に凹凸花の冷え


春の夜をとけゆくスキムミルクかな


判捺すか否か暮春のドアひらく


釣り銭にひとのぬくもり余花の雨


廃橋は風の入りぐち麦の秋


白地図へ青のクレヨン愛鳥日


ウエハース色の装丁半夏雨


香水のにほふピエロとすれ違ふ


夏鴨に触れてさびしき瑠璃の雨


白靴の底なる貝のかけらかな


日曜の石蹴ればはや夕焼けぬ


荼毘所出て祭囃子のなかにゐる


風鈴のちりんと星は死にたまふ


ケーナ弾く指のやはらか秋の雲


コスモスを抜けて燈台守の葬


図書館の中庭まるし小鳥来る


枕木を靴音かろき月見かな


鉄橋をくぐる鉄橋水澄めり


石仏に石のまなじり西海子


母はいま雨滴となりぬ残り菊


菜箸のまあるく焦げて冬立ちぬ


お香炉の砂のなだらか石蕗の花


落葉掻く木鼻の龍の覚めぬやう


冬あふひ祖母に晩年なかりけり


表札のありし凹みや花八つ手


時雨傘うはくちびるに麻酔なほ


室の花挿して窓なき懺悔室


寒卵てのひらに診る母の息


息白き子らのにぎやかなる逮夜


深海魚みたい霜夜の父の靴


寒紅やかなしきときに笑ふひと


からつぽの鳥籠ポインセチア置く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

からつぽの鳥籠 押見げばげば @gebageba0524

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画