元素神
「元素神とはなんぞや」
私は顎を摩りながら言った。
「火や水、風や土などの様々な元素を司る神様の事です。それぞれ名称がありますが、それは割愛しますね。元素神は聖域に座しております。わたくしたちはその聖域における言語『聖域言語』を御借りして、元素神に助力を乞います。慈悲深き元素神は、その無償の愛を返礼として授け、それすなわち、聖術の行使というわけです。つまるところ、実際に聖術を発動させているのは元素神ということになりますね。わたくしたちは発動したい聖術を元素神にお伝えするメッセンジャーの役割を担っています。わたくしの聖術が弱いのは、風の元素神に祝福されなかったのを哀れに思った火の元素神が、その尊き御心で、慈悲を与えたことによるものだと結論付けられました。本来得られないはずの祝福を得てしまったがゆえ、その相性が悪いというわけでした」
「専門知識が多すぎる」
私はウンザリしながら顔を顰めた。
「これだから宗教信者は嫌いなんだ。意味分からん」
「ぶっ殺しますよ」
「やってみろ」
「…………」
リエッタは視線を逸らした。
「そもそも相性ってなんだ。聖術を行使しているのは、その元素神って奴らなんだろ。では相性も何もないではないか」
「わたくしの声が火の元素神に届きにくいのです。ゆえに力が曖昧に発現すると」
「ちなみに声が届けば、声が返ってくるのかね」
「元素神は下界への語り掛けを致しません。ただ力を返礼するのみ」
「眉唾だなあ。それを信じられる人間の気が知れん。どことなく、何だか絶妙に嚙み合ってないような気がするんだよ」
「聖教を馬鹿にするような発言は慎んでください」
「頭ごなしに宗教を否定するつもりもないがね。それが人を救うこともある。しかしながら永遠の探究者としては、そこに正当性があるのかどうかは重要なことだ。今の話が真実とは言うけど、それを立証する証拠がない。私はお前たちの使う聖術が、果たして神によって発現しているのかどうか、申し訳ないけど疑っている。それが正しいなら、そもそもお前は努力の余地なく無能ということだ」
「だから、どうにもならないんじゃないですか」
「そうなるのが嫌なんだ。まだ、色々試せることはある」
「試せること?」
「とりあえずの審議は置いておこう。兎に角、聖術発動の仕組みは理解した。やはりその聖域言語とやらが鍵だ」
「何をするつもりですか」
「検証に決まっている」
私の力と同じ源流を辿っていれば、火の玉を生み出すのに言語は不要だ。極めて自然的な力の前に文明は必要なかった。
一方でリエッタの体内に力の起こりはなかった。彼女は神との交信だと言い張っているが、事象を直接繋げると、聖域言語を発することで自然的なエネルギーに指向性を持たせることが出来るわけである。これは私のような存在からすると不自然だ。エネルギーを有していない存在が、言語を話しただけでそれを操れるというのは、ちょっと納得出来ない事象だった。
「お前は火の玉しか生み出せないだろ」
「ええと、そうですね」
「毎回同じ言葉を発しているのだろうが、それは火の玉を生み出すための聖域言語というわけだ。他の術を使うための言語は知らないのか」
「知りません。火の元素神はわたくしには教えていません」
「聖域言語は元素神が与えるのか」
「ええ。先ほどは元素神が下界に語り掛けることはないとお伝えしましたけど、唯一枢機卿だけは元素神の言葉を聞くことが出来ます。わたくしたち聖術使いは枢機卿を介して聖域言語を賜るのです」
「つまり枢機卿が神との橋渡し役というわけか」
「その通りです」
「なるほど」
つまるところ、その枢機卿が怪しいわけだ。
「ちなみに、仮に同じ聖術を行使した場合、術士によって威力が違うのか」
「元素神からの寵愛を、より受けた者の方が高い威力を発揮します」
「術士の研鑽は関係ないのか」
「ありません」
「つまらん力だ」
「だから」
「まあ、待て。いちいち目くじらをたてるな」
その日は、それ以降様々なことを試してみたけど、リエッタの能力向上にはつながらなかった。分かったのは、やはりリエッタと聖術の間には明確なつながりはないということだ。
それから数日、リエッタを軟禁しつつ、聖術言語について検証してみたけど、そもそも彼女も単語を幾つか知っているだけだから、あんまり有意義なものとは言えなかった。
聖域言語の改変はそれで無理だった。私が言語を発してみるというのも無理だ。彼女は確かに話しているようだけど、私が聞けば言語に聞こえない。ただ雑音が流れるだけだ。
そういう仕組みになっているのだろう。秘密主義も大概にしてほしいものだが、その文句を誰につければいいのかすら、現状見当つかなかった。
私の暇つぶし、もとい、リエッタ強化計画は最初の段階で
聖術など当てにならん。そもそも肉体に依らない力など信用出来る訳がないのだ。自身の身を守るのは神ではない。自分自身だ。そんなことも分からないならば、心して死ぬべきだ。
Alice 寝々川透 @ripace57
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