不可解
朝から肉は重たいだろうから、その辺の草花でスープを作った。色々雑に突っ込んだ所為か不味かった。
調味料がないのは大きいだろう。リエッタは「得体の知れないものは食べれません」と言って食べなかった。
生意気なやつだ。
私は彼女に炎とはどういうものなのかを説明しようと思ったが、その考えをあらため、やはり彼女には実践をさせていくことにした。まずはひとつ試したいことがあった。
私は嫌がるリエッタを引きずりながら、屋敷の外に出る。「私に向かって火の球を飛ばせ」と言った。余談だが、私はまた下半身だけ蛇の姿に戻っている。ただ服を着てくれとの要望があったため、炎で創った赤のベアトップを着た。彼女には簡素な白のワンピースを与えた。
「では、いきますよ」
渋々な表情でリエッタは構えた。
「ああ」
彼女が言葉を紡ぎ始める。小さな火種が空気を入れられたように膨らみ、揺らめきながら火の玉になって飛んできた。
わたしはそれを手で掴み取ると、そのままほおばった。目を見開いているリエッタを尻目に、しっかりと
そんなことより気になるのは、やはりこれは、私の扱うエネルギーと全く同じものなのでは、という疑問だった。
相反する力であるならば、思いのほか抵抗感がなく、噛み砕いた時に出てくる純粋な力の源の、この馴染むような感覚は、むしろ違和感を覚える。ただ、少しだけ濁りのようなものを感じた。
塩と砂糖を入れ間違えたかのような濁りだ。
もう一つ気になったのは、発動する時の言語である。彼女は火の玉をつくることとその言語に因果関係があると思い込んでいるようだけど、私の目にはそう見えなかった。
私は私の感覚を信じるなら、やはりこれは同じものだ。とはいえ、敬虔な信徒の前でそんなことを言おうものなら、耳と目を背けて信じないだろうことは想像に難くなく、目的を達成するのに絶対理解しないといけないことでもないだろうから、一度私の中で留めておくことにした。世の中には知らない方がいいこともあるはずだ。
「これでは肉すら焼けないな」
私はやれやれと、これみよがしに肩を竦めた。
「お肉は焼けますよ」
リエッタは地団駄を踏んだ。
私はリエッタの背後に立ち、両腕を掴んだ。
「なにを」
「落ち着け。身体の力を抜くんだ」
「なにをするつもりですか」
「私の手が添えられた状態のまま、同じように火の玉をつくり出してくれ」
少し躊躇したあと、リエッタは同じように聖術を発動させた。私のその時に起こる力の流れに同調しようとしたのだが、ここでようやく私の力と少し違う部分を発見した。
私は体内のエネルギーを炎に変換しているけど、リエッタの体内にはそうしたエネルギーが存在しないのである。
外部にある極めて自然的なエネルギーを言語による誘導と、指向性を持たせることで火の玉を作り出している。
私の場合はその自然的なエネルギーは自動的に体内に吸収される仕組みになっているため、要するに体内を経由するか、そのまま使うかの違いだ。私は恐らく身体の中で専用のエネルギーへと変換され、それが変幻自在の性質を持つのだ。私は火の玉を掴み取ると、再びそれを食べる。
「ひとつ聞きたいのだけど、お前は聖力を有しているわけではないのか?」
「聖力は元素神のものですよ。わたくしが有しているわけではありません」
「それは他の聖術使いも同じなのか」
「そうですね」
「ふうむ」
リエッタが落ちこぼれなのは、勝手に聖力の量や質が悪いのだと思っていたけど、そもそも外部の力を行使しているのならば、個体差があるとは考えにくかった。何故なら、このプロセスの中では、聖力と触れ合っているのは言語であって、術者ではないからだ。
神などという荒唐無稽な存在を信じないのであれば、だれでも同じ言語を扱うだけで同じ力が使える筈。
ただ明確に力量差が生まれている。いや、聖術使いに会ったのはリエッタが初めてだから、実際のところは分からないけど、少なくとも当人はそう思っているわけだ。思い詰める程度には。
実に不可解である。
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