奇法術記

@Hori_imo0006

第1話

 「木が擦れると火になり、燃え尽きた火は灰となり、軈て土になる。土から金は生まれ、金は水と交じり増える。そして、水は木を育てる__。然し、これは相生であり相剋は…」


今日は雲一つない晴天だ。空を見上げればどこまでも青く、次第に目が痛くなる。

縁側でぶつぶつとひとりごとを言うのは、この物語の主人公の青年である。


 人は、青年の名前を”タマユラ”と呼ぶ。

濃紺色の切り揃えられた髪に紅玉のような瞳。体を覆えてしまえるほど大きい漆黒のベールを深く被り、顔はあまり見えない。


タマユラは代々陰陽術を扱う家系に生まれ、周りと比べてかなり裕福な暮らしを送っていた。裕福な暮らしを送ってはいるものの、傲慢な性格にはならずどこまでも品行方正・才色兼備であった。


陰陽道は調べれば調べるほどそれはそれは深く、御先祖様が残した書物を保管するためだけに倉庫が作られる程だ。


 この世界は俗に言う異世界と言うもので、巷で流行りの異世界ファンタジーのような世界ではない。この世界には【鏡刻】と呼ばれる大きな次元の別れ目が4つあり、国のようなものである。それぞれ広大な世界を展開していた。タマユラがいる鏡刻は”倭刻”と呼ばれる次元で、江戸〜大正の様な世界観を持つ。倭刻は温厚で物静かな鏡刻であり、比較的戦争などは起こさなかった。


 「あぁ、今日も太陽はボクを照らす……まるで舞台から下がれない演者のよう……」


意味のわからないことを言うタマユラだが、彼は奇人でも変人でもなかった。これはあくまで【表】のタマユラであるからだ。詩人の様な言葉遣いは全て母親仕込みであり、タマユラ自身が好きで話している訳ではない。


裏の、本当のタマユラは誰も知らない。

否、知られることがないからだ。


家に入れば従者が必ず何処かで聞き耳を立て、一言一句全て母親に伝達する。

息も苦しい監獄のような家だが、タマユラはひとつ希望を見出していた。


 それは度々夢の中で会う【自称青龍】とそろそろ契約をこじつけられそうなことだ。

契約さえ交わして、力を貸してくれればこの家なんて塵と化させ、母親を焼き殺して自由に浪人の旅を楽しめる。


この世界に魔法や能力と言ったものは存在する。もちろん魔力なんてものもある。然し、能力を持つものはごく僅かだ___と言いたいが最近は英刻で人工能力…なんてものがあるらしい。この話は後に話そう。


タマユラは能力を持ってはいたが、扱う魔力がなかった。魔力は鍛えれば誰でも持てるものではない。要は1から100にできるが0から1にはできないということだ。


これも全て先天性であるが、稀に後天性で魔力を与えられる者もいる。その条件は【強力な従属と契約をする】ということだ。


先述した通り、タマユラは【青龍】という四神なるものと契約することで魔力を得ようとしていた。一度契約して仕舞えばあるじが契約を破棄するまで従属は絶対服従、契約を切ることが出来ない。


青龍からは魔力だけ奪い、身柄は自由にさせる、そうタマユラは考えていた。




ここまで世界観などの話が立て込んだが、きちんとこの後本編___彼の人生をここに記そう。


この1人の男の物語を描いた書物の名を【奇法術記】と名付ける。

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