第2話 新たな力

 目を覚ましたものの、レイジの頭はまだぼんやりしていた。周囲には見覚えのない機材が並び、どこか薬品の匂いが漂っている――?! レイジは目を丸くした。奥の壁に、先ほどのステロイドの付喪神の少女の肖像画が掛けられているのだ。


「あれは……さっきの……?」


 彼がつぶやくと、すぐそばに立っていた白衣姿の眼鏡美女が微笑みながら言った。


「ガイノ博士はかせと私に感謝なさい。大変な改造手術だったんだから。丸一日よ、ま、る、い、ち、に、ち!」


 そう言って、彼女はレイジの顔を覗き込んだ。彼女は締まるところは締まり、出るところは出ているというメリハリのある体つきで、狂おしいほどの誘惑を秘めていた。


「エッロ……じゃなくて、あんた誰だ?」


「ステイシーよ。ステ子で良いわ。ここで主任をやってるの」


「ステ子? なんだそのヘンな名前…………いや、そんなことより、ここは一体何なんだ?  俺、死んだんじゃ……」


「ええ、確かにあなたは一度死んだわ。でも、アナボリテミス様のご加護と私たちの科学力のおかげで蘇ったのよ。そしてここは、ステロイドを愛する者たちの聖地――ステロイド研究所東京支部。あなたにはこれからヒーローとして、悪の怪人たちと戦ってもらうわ」


「ヒーロー? この俺が?」


 レイジは自分の耳を疑った。ステロイドを注射し続けていただけで、自分があのヒーローになるだと……?! まぁそもそも、今の状況自体ツッコミどころ満載だが。


「そうよ。あなたの肉体は既に十分鍛えられている。でも、それだけじゃ足りない。これから新たな力を手に入れるために、特別な訓練を用意しているわ」


 レイジはベッドから体を起こし、筋肉でパンパンに膨れ上がった自分の腕を見下ろす。まだ自分の力がどれほど強化されているのか、完全には掴めていないが、確実に何かが細胞レベルで変わっている感覚があった。


「訓練ってのは、またステロイドでも打つのか?」


 ステ子は笑みを浮かべながら首を横に振る。


「いえ、それも大事だけどね。まずは今の自分の力を試してみなさい。ついてきて」


 彼女はそう言うと、レイジを研究所の奥へと連れて行った。巨大な金属のドアが開かれ、その先には広大な訓練室が広がっていた。壁一面に取り付けられたモニターと、まるで軍事施設のような機材が揃っている。


「さあ、ここであなたの力を試してもらうわ」


「ここで……って、何をすればいいんだ?」


 その瞬間、部屋の端から髭を生やしたゴツい男が現れた。全身筋肉の塊のような男が、無言でレイジに向かって歩み寄ってくる。


「こいつは?」


 レイジが尋ねると、ステ子が笑みを浮かべて答えた。


「この施設の創設者ガイノ博士よ。彼もまた、ステロイドの恩恵を受けた適合者。彼に勝てれば、あなたの改造手術は成功ね」


「おいおい、いきなりこんなゴツい奴とやり合えってのか?」


 レイジが呆れたように言うと、ガイノはニヤリと笑い、拳を構えた。


「さぁ、どこからでもかかってきなさい、若造。ほら」


 レイジは躊躇しつつも、その男の挑発にしぶしぶ乗っかり、とりあえず軽くパンチしてみた。すると、彼の拳は驚くほどのスピードでガイノの腹にめり込んだ。ドスッという鈍い音と共に衝撃波が発生し、ガイノが数メートル吹き飛ばされた。


「……なんだ、この力……」


 レイジは自分の拳を見て、驚愕していた。今までステロイドで培ってきた力とは全く別次元の感覚……まるで自分の肉体じゃないような。ガイノはすぐに立ち上がり、満足そうにうなずいた。


「合格だ。君は本物のステロイドヒーローになれるだろう」


 レイジは終始半信半疑で自分の腕を見つめていたのだが、次第に笑みが浮かんできた。これから先、自分が持つ力がどれだけの可能性を秘めているのか、正直まだ分からない。しかし、確かに今、自分がヒーローとしてのステージに立ったことだけは確信できた。


「俺の筋肉が世界を救うってわけか……フフ」



 ---


 ……だが、レイジよ、浮かれるのはまだ早い。

 アンチドーピングを掲げるヒーロー協会が、この前代未聞のヒーローの登場に黙っているはずがないのだから……

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レッツゴー! ステロイドマン ~薬物上等の脳筋ドーピングヒーローここに誕生!! さやまる @SAYA_SAYA_SAYA

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