レッツゴー! ステロイドマン 〜ただ力任せに殴るだけなのに誰よりも強い!

さや

第1話

 末松すえまつレイジ――彼の姿を一度見れば、誰もが忘れられないだろう。

 身長185センチ、体重140キロ、胸囲150センチ、腕周り70センチ、体脂肪率5パーセント、握力200キロ。これらの数値が示す通り、尋常ではない肉体の持ち主だ。


 彼は十八歳の頃から、約十年にわたり、大量のアナボリックステロイドを使用してきた。今や人並み外れた「ヘビーサイクル」の常習者として、その界隈では知られていた。


 現在、レイジは自宅のリビングで、何の躊躇もなく自慢の美尻をさらけ出している。丸出しの尻に注射器を当て、いつものようにステロイドを打ち込む。針が皮膚を貫き、ステロイドが殿筋内部に注入されると、彼は筋肉の細胞一つ一つが強化される感覚に酔いしれ、恍惚の表情を浮かべていた。


「この瞬間が、永遠に続けばいいのに……」


 至福のひとときに浸っていたその時、不意に胸のあたりに強烈な痛みを感じた。


「……なんだ、こ、れ、……」


 次の瞬間、レイジは注射器を尻に刺したまま、四つん這いになって床に崩れ落ちた。


 ---


 気がつくと、レイジは真っ白な空間に漂っていた。周囲には何もなく、ただの虚無……しかし、突如として目の前に現れたのは、この世のものとは思えないほど美しい少女だった。白いローブを身にまとい、十六~七歳くらいに見えるその少女は、透き通った声で語りかける。


「こんにちは、鈴木レイジさん。私はアナボリックステロイドの付喪神、アナボリテミスです」


 その言葉にレイジは目を丸くした。そして、察した。


「……俺はもしかして死んだのか?」


 アナボリテミスは静かに頷く。


「はい。あなたはステロイドの過剰投与による急性心不全で亡くなられました。本来なら地獄にて、『永遠にナチュラルで筋トレの刑』に処されるところですが――」


「え? マジで?!」


 思わぬ罰に驚き青ざめるレイジ。しかし、続けて語られる言葉がさらに衝撃的だった。


「ただ、あなたほどステロイドを愛し、ステロイドに愛された者を私は見たことがありません。私は心の底からあなたの熱心なステロイド愛に心を打たれました」


「おいおい、注射だけに……って、洒落かよ?」


 彼の冗談を無視して、アナボリテミスは話を続ける。


「ですので、地獄送りの代わりに、私はあなたをヒーローとして蘇らせることに決めました。ステロイドの力を駆使して、悪の怪人たちと戦ってください。……大丈夫。私の敬虔なる信徒たちがあなたを支えてくれます。では、素敵なステロイドライフを」


 は?


 言葉を失ったレイジの前で、アナボリテミスはにっこりと微笑んだ。と思ったら慌てて何かを言いかける。


「あ! 余裕があれば、ステロイドの普及活動もおねが――――」



 ---



 目を覚ましたレイジは、見知らぬ施設のベッドの上に横たわっていた。周囲には謎の研究機材が並び、白衣を着たスタッフたちが忙しそうに動き回っている。それとなぜか、みな服の上からでも分かるくらい筋肉質だ。


「ここは……どこだ?」


 レイジが声を出すと、ベッドの脇に立っていた綺麗な美女が彼に気がつき、安堵の表情を浮かべていた。


「よかった、生き返ったのね」


 どうやら、レイジは本当に蘇ったらしい。

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