弟がやってきた 2

 お昼を挟んで午後は自由時間。私は公爵邸の図書室にやってきた。破滅防止対策その1、弟に優しくするは暗雲立ち込める状況なので、対策その2、強くなるの方向を探ってみることにしたのだ。公爵家は王家に次ぐ格式と権力の家柄。図書室にはそれを惜しげもなく濫用した末の収集物が収蔵されている。ここなら魔法についての本もあるはず。

 図書室といっても小さな図書館くらいの広さがある空間に、木製の棚が並んでいる。木箱みたいに区切られた中に巻物が並ぶ一角があれば、カメリアでは持ち上げられそうにない巨大な本が斜めになった台の上に置いてある所もあったりで、全体的に雑然とした印象だ。どこに何があるのかもよく分からない。どっかに蔵書目録とか無いの?

「魔法の本はどこにあるか分かるかしら?」

「申し訳ございません、私では分かりかねます。御希望でしたら担当の執事を呼びますが」

 図書自体が高価な代物であるこの世界では、図書室に入ることができる使用人も限定されているらしい。わざわざ呼び出すのも気が引けるので、とりあえずぶらっと室内を一周してみる。なんかそもそもタイトルすら書いてない本も多いな……。分け方も内容ではなく大きさでまとめているっぽい。どうやって読みたい本を探すんだこれ?日本の図書館がいかに考え抜かれた分類整理をしていたかにこんな所で気付かされるとは。

「……やっぱり分かる人を呼んでもらえる?」

「かしこまりました」

 深々と礼をした侍女が音もなく退室していく。手近にある本の留め具を外して開くと、独特な香りがした。手書きで綴られた序文を読む限り日記のようだ。この世界の、しかも筆記体の文字を特に苦労もなく読める自分にちょっとびっくりする。中身は宮廷に出入りしていた人が残した噂話集みたいな感じで、どこに幽霊が出たとか誰と誰が極秘で会ったらしいとか、そんな内容が時系列で気の向くまま書かれている。出てくる人物名からすると百年以上前のもののようだ。……ってのがサラッと分かるくらい、カメリアは真面目にお勉強してたわけだよな……。なんかゲームの印象と違う。

 そうこうしているうちに侍女が執事さんを連れて戻ってきた。魔法関連の本を読みたいと告げると、探し出して自室に届けるということだった。どうやら図書室というのは自分で本を探しに来る場所ではなく、こういう本を持ってこいと命じて取りに行かせる場所らしい。……先に言ってくれないかな!?いや侍女としては「図書室に行きたい」という私の希望を叶えただけなのか。「本が読みたい」と言えば対応は違ったわけだ。そういえばカメリアの記憶の中にも自分で何かを取りにいくなんてのは無いな……。骨の髄まで庶民の私では、ここでの生活に慣れるまで時間がかかりそうだ。

 本が届くまでは、今までに習った内容のおさらいでもしておくか。後のことはお願いして、私は図書室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どう足掻いても悪役令嬢──転生チートで無双しようとしたら却って拗れました── 田中鈴木 @tanaka_suzuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ