人見知り、人を知る

ろくろわ

人見知りが対人相手の仕事をすると

 私が「人見知りなんですよー」と言うと、決まって「えぇー嘘だぁ」と返ってくる。このやり取り、正直もう飽きております。そもそも、そんな身にも成らない嘘を付いてどうするんだいって話です。

 兎に角、時間があれば文明が滅亡した世界。或いは限られた人間関係で過ごせる世界を想像して、心の平穏を保っているくらいには、私は人見知りをします。


 さて、私が思うにこの「人見知り」と育ってきた環境は大きく関係していると思います。

 私の幼少期は、自分とそれ以外とが関わる機会と言うものが殆ど無かったです。人間関係を作っていく小学生の時は、全校生徒十名程度。かつ、その内訳は自分の身内と同級生の身内と言うものだ。そんな状態で小学校を卒業し中学に上がると、違う学区と合流する。今まで同級生が三人だったところから、一気に四十名となる。しかも、その内の三十名程は小学校も同じ。つまり、合流する半数以上は既に関係性が出来ている状態なのだ。更に学校特有の名字順の自己紹介。出席番号二番の私は、中学初日から群れが出来ている中に投げ込まれたのだ。

 声は出ないし、何を話したかなんて覚えている筈もなく終わったのを覚えている。まぁ人見知りと言っても慣れてしまえば平穏を過ごすことは出来る。あくまでも、私の言う人見知りとはその慣れるまでの期間の事なのだ。まぁ取り敢えず、そんな自分に自身の持てない学生時代を過ごした結果、初対面の環境には特に萎縮してしまうのだ。そしてこれは、経験すれば慣れると言うものではなく、環境が変わる度におとずれるものなのだ。


 そんな私の進路決定時期。高校生の時、何をとち狂ったのか、対人職に就きたいと思い専門学校に通い、無事就職することが出来たが。はい。毎日自分の心を保つために頑張っております。もし、あの頃に戻れるのなら自分に言ってやりたいです。「お前、何でその仕事を選んだ」と。


 私の仕事は顧客を相手にすることから始まります。

 ところが、先から書いているように私は人見知りをします。新しい顧客に会わないといけない度に、気分はブルーです。それでも顧客は来ます。そしてその対応を私はしなければなりません。しかも仕事の経験や勤務年数が増えていくと、より対人の機会が増えていきます。これに人見知りの悪いところが出ます。

 まず人見知りの人ですが、基本的に良く喋ります。

 はい、これは別に話が好きとかそんな理由ではありません。自分のテリトリーを作らないと落ち着かないからです。要は自分の話や得意な事の話をする事で、相手のペースに持っていかせないだけなのです。

 次に人見知りの人は仕事が丁寧です。

 はい、これは別に仕事に真面目と言うわけではありません。話をしたくないので、書類や一人で出来ることを黙々とこなしているだけです。更に分からないことを他の人に聞くのも凄くパワーを使うので、基本は一回で覚えようとしますし、応用や発展などの効率化は、他の人に聞かなくても自分の仕事が出来るようにするためにしていることです。

 更に人見知りの人は、他人の事もよく知っています。

 はい、これは別に興味があるから知っているわけではありません。興味はないですが知っておかないと、いざ対応しないといけない時に自分があたふたするのが分かるから事前に調べているのです。

 そして、こんな仕事の仕方をしていると上司からは「ろくろあさんって、仕事をちゃんとするし、顧客からも評判が良い。対応も丁寧だし何でも出来るよね!」と無茶振りが増え、更に他人と接する機会が増えます。まさに負のループ。対応すればする程、自分の苦手とする機会だけが増えていくのだ。

 人見知りは基本、お願い事を断りません。

 断れないのです。他人に断るパワーが無いのです。こうして人と関わりを少なくしようと、すればする程、増えてしまうのです。そんな私を会社は使いやすいのでしょう。今は幸か不幸か、中間管理職に就いております。私の回りには部下と多部署の職員と顧客と関係者と沢山の人と関わらなければなりません。


 私は人見知りなのです。

 嘘ではありません。自衛の為のスキルが自分の首を絞めます。

 人見知りが対人相手の仕事をすると、割りと上手く行くかもしれません。


 でも、これだけは知っておいてください。


「私、人見知りなんですよー」


 っていう本当に人見知りの人は、この後の「えぇー嘘だぁ」って返答まで見越してこの言葉を使います。なので正直、この返答に飽きてはいますが「えぇー嘘だぁ」と答えてあげてください。それが貴方にとって一番良い結果となります。人見知りが対人の仕事を上手くこなすため、自分でストーリーをたて、結果を用意しています。

 斜め上の返答や無視されると人見知りのキャパを越え、予想しない程、喋りだしてしまいます。

 対人の仕事にストレスを感じつつ、そのストレスに負けないように対処方法を編み出し、墓穴を掘る。

 それが人見知りが対人相手の仕事を選んだ結果です。


 最後に読んで下さった皆様に。


「私は人見知りなんですよー」


 答え方は分かりますよね?



 了

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