第3話 婚約破棄 3

 悲報!!

 乙女ゲームの前提崩れる! 主要攻略キャラがヒロインの前で、同性愛者とカミングアウト!!



 突然の暴露に頭がくらくらする。


 え?、セディ様同性愛者だったんですか? 僕、まったく気づかなかったんですけど。

 そういえば硬派だなーとは思っていました。


 学園内で女生徒たちにモテまくっていたのに、まったく相手にしていないのがストイックですごいなと。

 婚約者の悪役令嬢とも甘い雰囲気とかは一切出てなくて、互いにエスコートする際とかもよそよそしかった。

 でも全部、アニメの展開通りだと思っていた!


 アニメではセドリック王子は悪役令嬢を嫌ってたんだよな。

 俺には運命のピンク髪ヒロインがいるって、幼い頃の記憶を大事にして。


 それに悪役令嬢も、ゲームではセドリック王子を好きで暴走していたらしいが、アニメではちゃっかり本命の第二王子とプラトニックラブをはぐくんでいた。

 ついでに他攻略対象たちも攻略してた。

 ピンク髪ヒロインが悩みを持つ彼らを救う前に、原因を潰して助けていた。




 小動物枠の義弟(現学園一年生)はすでに懐いていて(乙女ゲームのお約束。悪役令嬢は一人娘で、公爵家を継ぐために遠縁の男子を養子に迎えている)、彼女を意識している。


 堅物眼鏡枠の宰相令息(現三年生)は家庭を顧みなかった父親と和解していて(これも乙女ゲームのお約束)、彼女を以下同文。


 脳筋枠の辺境伯令息(現二年生)は……暑苦しいままだな。

 特に悩みも見当たらず、悪役令嬢どころか女全般に興味がない感じ。女より筋肉を愛でている。

 僕と彼にはちょっと縁があるんだが、子供の頃から変わりがない。まあ脳筋だから。


 他にも隠し攻略キャラと呼ばれる面々がいたはずだが、アニメには出ていなかったので分からない。多分、既に悪役令嬢が落としているのだろう。




 しかし、アニメではセドリック王子と悪役令嬢は不仲だった。

 だから気にしてなかったんだけど、まさか王子は悪役令嬢だけでなく、他の女性もダメだったなんて……あれ?


 セドリック王子の、真実の愛の相手のゲームヒロイン。

 今から約一か月後に登場予定のはずなんだけど、まさか女性全般がダメ――?




 目の前では修羅場が繰り広げられはじめていた。

 王子と悪役令嬢ではなく、王子と異母弟との。

 デイビット王子にとっても寝耳に水の話だったらしい。前のめりになって異母兄を問い詰めている。


 この世界で、同性愛は別に禁忌というわけじゃない。

 だけど……セドリック王子が王位に就いた場合、王妃となる悪役令嬢の立場がなくなる。白い結婚間違いなしだろうから。


 修羅場から視線を外し。

 僕は自分の隣に立つ同僚に確認した。


『……あなたは知ってたんですね、王子のセクシュアリティ』

『あー……うん。まあそちらは』


 視線をそらしながら肯定される。

 カミングアウト”には”動揺しているように見えないと思ったら、やっぱりか。


 同じモブとは言え、彼は伯爵令息。高位貴族の関係者なら、秘密の性癖も開示されていたのだろう。

 まあ僕は下っ端だからな。教えられていないことがあっても仕方ない。


 養父の男爵位は、貴族でないと王族の従者にはなれないからと、国の機関――いわゆる暗部と呼ばれる部署が用意しているものだ。

 僕のアーヴィング家の他にもいくつか存在している。

 孤児院から引き取られた後、僕も基本を叩きこまれた。

 諜報の専門プロの道に僕が進まなかったのは、セドリック王子直属の配下となることが決まっていたから。


 ふふふ、エージェントなんだよこれでも。

 役割は身を挺してかばう肉壁です。

 ご学友にはあらず。それは攻略対象たちの役割だ。


 影武者をするために、髪の毛は王子と同じ黒に染めている。地毛はしばらく見てないが、みすぼらしく色の褪せた赤毛だったはず。

 シークレットブーツも履いて身長を揃えている(本当は王子より一つ年下なせいか、背が足りない……)。

 青い瞳の色はごまかせないのでそのままー。必要なら金のコンタクトレンズをつけるけどね。




「王妃ではなく、王配を選んで国王の座に就こうというのですか、兄上は。

 幼い頃より過酷な王妃教育を受けてきたベアトリスではなく、父陛下と同じように”真実の愛”の相手を伴侶に選ぶと?!」

「――ウェナム公爵令嬢が、次期カニンガム国正妃になる未来は変わらない」


 激昂する異母弟を静かに見つめながら、セドリック王子は告げる。


「次期王位にはおまえが就く。デイビット」

「――――」

「”俺”はこれから突然、病に倒れる。

 病状は重いと公表されるだろう。そのまま学園を退学し、遠く離れた地にて療養する予定だ。いずれ王位継承権も返上する」


 おまえはこれから、まずこの学園の生徒会長となる。

 一年後にウィナム公爵令嬢と婚約を交わし、さらに一年後、学園卒業と同時に婚姻。正式に立太子されるだろう。


 淡々と表舞台から消えると告げる異母兄に、唇を震わせながらデイビット王子が首を振った。


「……僕には無理です。国王なんて……」

「デイビット様。

 私がいますわ。これからはずっと、お側にてお支えいたします」


 今にも崩れ落ちそうなデイビット王子に寄り添って、悪役令嬢が言葉を掛けている。

 生徒会室にいる第二王子側の側仕えや悪役令嬢のメイドはそんな二人を微笑ましそうに見守っているが、僕たち第一王子側の側仕えはスンと無表情だ。

 いやだって、どう見ても現時点では不貞にしか……ごにょごにょ。

 二人の距離がねー、近すぎるんだもの。


 婚約者とは厳格に適切な距離を保ちつつ、これまでも悪役令嬢は、第二王子だけではなく複数の男子生徒こうりゃくたいしょうと親しくしていた。 

 将来王妃になる者としての社交の一環と見ようと思えば可能だろうが、婚約者ではない異性を侍らせていたのは事実だ。


 ま、第一王子との婚約は解消されるから、こちらはもう関係ない。


「僕はずっと立派な王になった兄上をお支えするつもりだったんだ。

 それを周囲に示そうと、国王教育は学んでこなかった。母上が何を言おうと避け続けてきた。僕は、」

「デイビット」


 異母弟の嘆きを特に気にすることなく、第一王子は微笑みながらさらっと告げた。


「学園卒業まであと二年も時間がある。せいぜい努力しろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る