第14話 神の依頼

side アルマ


「いるのか…俺以外に…」


『まぁお前だけが特別じゃないってワケだ。』


俺は自分が特別ではなかったことに対してそこまでショックはなかった。


「(同郷の人間を殺せ…か。)」


『…まぁ、オレも鬼じゃない。人間を殺せなんて言わんさ。』


影の含みある言葉に俺の眉尻がピクリと動く。


『ククク…お前はホントに勘が良いな。』


俺の表情を見て察した影は嬉しそうに言う。


『そうさ、俺がお前に殺して欲しい連中ってのはのことだ。』


「…その罪ってのは。」


『同族の無益な殺生、まぁ平たく言えばだ。』


「なっ!?」


予想はしていたが有り得ないと切り捨てた思考を、影が嘲笑うかのように告げられる。


『消して欲しいのは全部で3人、ソイツらはお前と違って全員人間だ。』


「なんで俺だけ虫…」


『その3人は前世でもそこそこにクズだったから早死にするのは決まってたんだが…』


影は言いづらそうに頬をポリポリとかく。


『死の瞬間ってのはな、別に俺たちが決めてるわけじゃねぇんだよ。』


「それならどうやって…」


俺が聞こうとすると、影が手のひらを向けて待ったをかける。


『落ち着けよ、それをこれから話してやる。転生した奴らにも関係ある事だしな。』


影がポンポンと自分の隣を叩く、それに倣って俺は影の隣に座った。


『いいか、生とはそもそも善と悪の均衡を保つことで成り立っている。』


そう言って影の手のひらに白い炎と黒い炎が乗った天秤が現れる。


『これが善に傾けばその者は不条理な死から遠ざけられる。』


言いながら白い炎のはかりが沈む。


『逆に悪に傾けば…分かるな?』


今度は黒い炎の秤が沈む。


『そしてここからが本題だ、中には悪意の塊のような者あるいはあまりにも善性が強過ぎる者がいる。そういう奴らは時にの予測を越えることがあるんだよ。』


「…予測を越えたらどうなる?」


俺が聞いた瞬間、影は天秤を握り潰した。


『天秤そのものが崩壊する…天秤は命の具現だ。当然それが崩壊したらその瞬間に死ぬ。』


滅多にないがな、と言って天秤が塵となって影の手からこぼれる。


「…ッ!!」


俺の様子を見ていた影がニヤリと笑った(気がした)。


『気付いたか、その天秤を壊した奴らを俺は特例として転生させるのさ。』


「なるほど…で、俺に殺して欲しいって奴らは前世向こうで悪に傾いて天秤を崩壊させた奴らってことか。」


『そういうことだ。それと、消して欲しいのは3人だが俺がこっちに送ったのは4人…つまり1人はマトモだ、運良くコンタクトが取れれば協力してもらえるかもな。』


「……虫モンスターの姿でか?」


『ハッハハハハ!そこはお前さんの頑張るところさ!さて、それじゃぁそろそろ目覚めるといい。』


「最後にいいか?なんで俺だけ虫なんだ?」


『…人間種が1番弱い種族だからさ、お前が本来の力を使えるよう祈ってるぜ。』


そう言って影が俺の額に人差し指を当てると、俺の意識は暗闇に沈んだ。


────────────────────────


──アルマが眠り1ヶ月──


『…予想はしていましたが、起きませんね。』


目の前に眠る主人と巨熊を見て、これからのことに思考を巡らせる。


『(今はクマさんがガードをしてくれていますが…それもずっとというわけにもいかない。)』


シエルがそうして悶々としていると、巨熊の目がパチッと開く。


巨熊はゆっくり起き上がると、アルマに鼻を寄せてフンフンと匂いを嗅ぐ。

そして、森の奥にのしのしと姿を消していった。


『…いつもの狩りでしょうか?しかし、いつもと様子が違ったような…?』


シエルが巨熊の動向を不審がっていると、パキリと硬いものが割れる音がした。


『!!』


アルマの身体がどんどんヒビ割れ、崩れ落ちていく。

そして中から以前とは打って変わって小型のカブトムシが現れる。


(虫の身体も久しぶりな感じだなぁ…ん?やけに視界が低くなったな。)


そんな呑気なことを言う主にシエルの安堵は吹き飛び不満が膨れ上がる。


『………』


(シエルか、すまん遅くなった。)


『…………』


(ん?シエル??)


『……………』


(シ、シエルさん…?)


『………………』


(無言の圧力やめて!!俺が悪かったよ!!)


『…………………はぁ、今回は許してあげます。』


(ホッ)


『おかえりなさい、我が主マスター。』


(…ああ、ただいま。)

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甲虫転生 〜転生したら虫の王(幼虫)〜 根無 草🌱🌿 @Chama_925

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