月と日の向き影の向き
鈴ノ木 鈴ノ子
つきとひのむきかげのむき
車で、電車で、バスで、船で、リビングやベッドの上で、感情に浸り鑑賞に浸る。
それはきっと誰しもに訪れていると思う。
私だけではないはずだ。
景色、風景、そして漠然とした何か、言い表すことも、ましてや書き記すことも難しい。それは映像や、いや、或いは写真か、はたまた眼前に、世界となって魅せて、私にこう思わせるのだ。
『タシカ、ココニキタコトガ、アル』と。
本当は訪れたことなどない場所だというのに。
私はするりとその世界に入り込んで長い時間を入り浸る。朝から晩まで、早朝から深夜に至るまで。
それは現実の世界ではたったの1分にも満たない。だが、空想の現実では、1日でもあり、1週間となることさえある。そこで私は黒衣を纏い観察者としてただひたすらに観察をする。
ある男がいる。ある女がいる。ある犬や猫がいる。ビルや家があって、月や日が明け暮れをして影を作る。
やがて勝手気ままに世界は動き、ある瞬間にはたと消えてしまう。暗い部屋の電気をつけて闇が光を駆逐するように、ところどころに残滓を残しながら……。
私は残滓を拾い繋ぎ合わせて物語にしてみる。
三文にもならず、安いガリ版印刷のチラシの足元にすら及ばぬほどの出来だが、書き記すときの幸福感はその劣等感すら簡単に打ち消してくれる。
だから、やめられない。
この麻薬のような表裏のある事柄を。
月と日の向き影の向き 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki
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