第4話
「真樹人のお父さん…?」
「えぇ、先程社長が捕まえたのは社長のお父上…」
「でも…あのジジィ全然気づいて無かった、自分の子供なのに…殺そうとしたの…?酷い……」
山城 芽衣は怒りが込み上げたのか必死で抑えていた
「相手は気付いてないんです、そもそも先程お話した通り松戸 和平は28歳の時に公式には死んでいる、自分の正体に繋がる人間として早く処分したかったが海外のどこにいるかもわからない状態でしたからね、探すに探せず公式には滅菌処理として遺体は燃えてしまったから確認のしようもない。というより社長の言う通りならあの状態で生き残れる人間なんていないでしょうし六道からしたら幸運なので信じたのでしょう…これも後で判明したのですが15歳の時に外交ルートで助けられて日本に帰ってきたのは六道からしたら完璧に予想外、だから情報を操作し社会的に抹殺をしようとしたんです。社長はもうその頃には人を殺せる技術を持っていた…そんな人間がどうなるかの観察もあったと思います」
弟村は平静を装っていたが怒りを抑えていたのか拳に力を込めていた
「嘘…酷すぎる…酷すぎるよ…真樹人の事なんだと…自分の子供なのに…」
山城 芽衣は耐えられなくなったのか目に溜まっていた涙が溢れた、察した名城は優しく山城 芽衣の背中を摩る
「…お辛いならやめましょうか?」
「いえ…大丈夫です。すみません…取り乱して」
「…では続けますね………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺の親父…?」
「そう彼は死んでなかった…と言うよりあのハイジャックは虚式が行った自作自演なの」
名城と弟村は絶句した
「…虚式は常にわかりやすい「仮想の敵」を作り民衆を誘導、「日本国内外には敵がいる、だからそれに備えなければならない」という目的で動いていたの、東西統一戦争前に起きたテロと疑わしき事案にはすべて虚式が関わってる、もっと言えば東西統一戦争の火種を撒き、西政府の西郷や幕府の徳川を唆したのもの虚式よ。当時は平岡が虚式を操っていた、理由は統一政権樹立後、自分が政権に居座るための裏工作…これはあくまで推測だけど平岡と六道はこの偽札で戦争をしたかったんじゃないかしら。外国人を大量に偽札で飼い慣らし反日感情を逆撫でさせて大型のデモを起こさせる…そして「主権国家にこのような侵略行為をし脅威をもたらす国は徹底的に武力を持って排除する」とでもいいたかったんだと。でも六道の誤算は初代首班選挙で平岡が大敗した事…そして平岡は失意のまま亡くなり誰も六道を止める事ができなくなった…」
「そんな話はいい!回りくどい話をするな!あんたらは俺に何をして欲しいんだ?!えぇ?!」
松田も珍しく声を荒らげた
ここまで他人に感情を露わにする事はないことを2人は知っている
「白川審議官を通じて国防大臣も貴方を推薦してきたわ、それに非公式だけどアメリカ駐日大使のルートで貴方を推薦してきたの、お友達かしら?…貴方が解決してきたとされる数々の事案を目を通したわ。少なくとも日本国内のグレーゾーンでは貴方が1番優秀。内調でチームを作りますので貴方には指示をお願いしたいの、恥ずかしい話、今の内調には六道の裏をかけるような人間はいない…公安は信用できない、関係が切れたとは言えまだ繋がりがないとは言えない…このとおり…お願いいたします」
大久保は椅子から立ち上がり深々と頭を下げる、それこそ地面を舐めるように
「…見返りは?」
「…?!」
「社長!こんな話…」
名城と弟村が驚くも川路が喋りだした
「もちろんタダでとは言わん、松田さんには綺麗な戸籍を用意する、松戸だろうが松田だろうが好きな名前を選んでいい、弟村 史には警視庁警備部「SAT」に配属、まぁ形式だけだが国家公務員試験は受けて貰うがな、名城 椿にも正式な戸籍を用意、戦術狼時代の経歴を完全抹消、そして君がか関わったと思わしきその他の殺人容疑の無罪放免…」
名城が声を大きく反論
「バカにしないで!…社長を協力させる取引材料になるくらいなら私は死刑台に登るわ!!」
「いい度胸だ…全員日の目を浴びて生活できるチャンス…」
バァン!
弟村は壁に拳を叩きつけた
「いい加減にしろよ!アンタら!官房長官だが何だか知らねぇがふざけんな…ふざけんなよ!和平さんは…何もわからない異国の地で親に捨てられ放り出された子供を十数年放置、それを日本に連れてきて守るどころか皆してこの人を追いやったじゃねぇか!黒幕どうこうより何もしなかったろう?!それで?!今度は餌ぶら下げて協力しろだ?バカも休み休み言えよ!この人癌なんだよ!今まで不本意な生き方しかできなくて…違う!そうするしか道が無かった!!あんたらにわかんのかよ!寂しさも悲しさも誰かに寄りかかることすら否定されて誰にも理解されずに…」
サングラス越しの弟村の目にも涙を溜めながら強く言い返した
「なんだお前!口を…」
川路も声を荒らげる
「うるせぇ!うるせぇよ!てめぇらが見捨てたこの人に上辺の言葉を並べてまた利用する…その証拠に病人に会うのに手ぶらじゃねぇか!見舞う言葉すら口にしないで…!お前らおかしいよ!狂ってるよ!この人はずっと…ずっと他人に選択肢を譲ってきたんだ!…そして…やっと自分の生きる道を選べる時なんだよ!なのに…なのに…病気になって…余命宣告まで受けてる人間に…親父さんを止めてくれだぁ?知らねーよ!いい加減…」
「弟村、そんなに怒るな。落ち着けよ」
松田が弟村を止めるが弟村は全く聞かない
「落ち着けるか!嫌なもんは嫌って言えよ!アンタどこまで人が良いんだよ!」
「そうですよ!これ以上貴方が犠牲になる事なんてない!」
「違うよ…2人とも。僕は君らの為なら…」
バチッ!
弟村が松田の胸倉を掴み顔を叩いた
「この大バカ!大マヌケ!それが俺達には重荷なんだよ!俺らの為なんていい!自分が決められる事で他人を理由にするじゃねぇ!わがままを言う時はこういう時なんだよ!頼むよ…もう…楽しい事、やりたい事やろうよ…和平さん…俺達との思い出を一緒に作ろう?な?」
弟村はまるで子供のように泣きながら松田に懇願した後、振り返って大久保を睨み
「いいか?この人を連れて行きたきゃ俺と名城さんを殺して行け!俺達が絶対この人を行かせない、この人を頼るしかない国なんてもんならいっそ滅んじまえよ!この人はこれからめいっぱい楽しむんだ!それを奪う権利はもう誰にもねぇ!話は終いだ!出ていけ!クソ野郎共!」
名城も凄まじい殺気を纏い川路を睨む
「…どいつもこいつも!官房長官がここまで頼んでいるのに!いいんだな?!我々に歯向か…」
「やめなさい川路!…勘違いして欲しくないの、この話を断ってもいいわ、無理を言ってるのはこちらだから。でも…少しでも気が変わったらいつでも連絡を」
そういい大久保は名刺と連絡先を松田に渡し部屋を後にする前にまた深々と頭を下げた
「弟村さんの言う通り、約束もせずいきなり手ぶらで申し訳ありませんでした。川路の無礼も込でお詫び申し上げます、それでは…」
川路は最後まで頭を下げず松田達を睨みながら病室を後にする
「さーて!バカは帰りましたよ、エンディングノート書きましょうよ!何します?」
「3人でできることがいいですよね、仕事抜きで旅行とかいいですね!社長は行きたい所とかあります?」
名城も弟村も必死で明るく振る舞うが意外な言葉松田から発せられた
「俺、やるよ」
「はぁ?!あんな事気にしないでいいんですよ!」
「そうです!もう放っておきましょうよ!もしかして私達のせいですか?!」
「違う…違うんだ、ここで話を蹴り大勢の人が悲しくなるような世の中になるのは嫌なんだ、平和は与えられる物じゃない、掴むもんだ。1番悪いヤツを引きずり出せば世の中は変わるかもしれない…すまないが今日は帰ってくれないか?少し考えたい」
名城も目に涙を溜め松田に抱きつく
「社長…もうやめましょう…私はこれ以上貴方が自身を痛めつけるのをもう見たくありません。もう大切な方を見送るのは嫌なんです!お願いします!考えを変えてください!」
「そうですよ!確かに貴方なら出来るかもしれない!でもどうして!どうして貴方なんです?!俺達はチーム!仲間じゃないですか?!その仲間を振り切ってまで見知らぬ誰かの為に身体を…命を張るんですか?!そんなの悲しいですよ!俺…嫌ですよ!」
名城は泣くのを必死に堪えながら弟村と松田の身体を掴み訴えかけた
「椿ちゃん…変わったね」
「え?」
「前はそんなに泣いたりしなかった、俺の言う事に反発もせずにひたすら俺の言う事だけにYesだった…なのに今自分の考えを言えている、凄い進歩だ。それに弟村、君も変わった、会った頃はどこか他人行儀で心ここに在らず…人と壁を作っていた。だけど今は壁を無くし体当たりで俺達と接してくれてる。交換条件なんてもういい、六道…親父を捕まえる事ができたら未来は明るくなる可能性があるのかもしれない、平和な社会に少しでも変わるなら俺は協力したい、これは空っぽだった自分にしかできない事だよ、なーに!チャチャッと済ますさ」
「そんな事…!!」
名城が口を挟むが松田が遮った
「もう…決めた、誰も俺の意思を否定する権利はないよ、例え椿ちゃんや弟村君でもね、さて面会時間は終わりだよ、2人も帰って休むといい、それに少し1人で考えたいからさ」
そういい松田は布団を顔までかけてしまったのだだった
深き藍、虹の彼方へ 乾杯野郎 @km0629
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