第3話
「偽札?外国の…?」
「えぇ」
山城 芽衣の問いかけに名城は静かに返事を頷くと矢継ぎ早に問いかけた
「それを…私のお父さんが作ってた事ですか?でも…私もそこまで頭が良い方ではないんでアレですが…外国人にお金を払って反対運動をさせるんだったら日本円でもいいんじゃないですか?なのに…」
黙っていた弟村が割って入った
「どうして日本円の方が良いと思ったんです?」
「それは…日本の円はドルとかユーロと並んで比較的安定した物じゃないですか?仮に偽札だとしても日本円の方が使い道が多いというか…」
山城 芽衣の返答に弟村は少し口元を緩め笑った表情に、すると
「それをこの説明で分かる人は優秀ですよ、社長が貴女に特別な感情を抱く訳だ…最もな疑問ですが日本円では致命的か欠点があるんですよ。日本の紙幣に使われる紙やインクの配合…これら超がつく国家機密です。おいそれと手に入れられる物じゃない、それに手に入れられたとしても紙幣を刷る原盤がいる、超精巧のね。そこまでするのに金も手間もかかるのに日本紙幣の偽札判別は一般人市民にも注意喚起されていますからね、表に出ないですけど一般小売店や駅構内売店、現金決済が主流な小売店で稀に発見されるのはそれです、なのでリスクが高すぎる、でもお隣の大陸は良くも悪くも「コピー大国」、技術だろうが物だろうがコピーが出回りますからね。それに判別そのものも金融業以外そこまでキチンとしませんし判別機能もやはりいい加減なんで作るのも使わせるのも根本的に日本の紙幣より遥かに楽なんですよ」
「だから大陸のお金だったんだ…」
弟村の解説の後に名城が続く
「後でわかったんですがこれにはもう1つ理由がありました、山城さんは沖縄で暮らしてて観光地はどうです?昔に比べて何か変わりませんでした?」
「……外国人観光客が凄く増えたくら…あ!もしかしてその為の外国紙幣の偽札?!」
「そうです、26年前基地反対運動員は密入国者が多かった、彼らは台湾ルートや半島ルートで来ていたんです、当然税関なんてありませんからね、高官達は外交特権で税関は通らない、だから偽札を大量に渡し祖国に帰って使わせる、お金は廻るもの、そのお金が本物と混ざって大陸内で流通し富裕層の手に渡る…するとそう言った方々は海外に出ていきます、海外で使うにはどうするか?自国の銀行口座にあるお金でカード、今ですと電子決済なんかもありますよね?大陸政府…共産党は自国民に日本を敵国とし反日感情を植え付けているのに大陸の人は何故か日本は行きたい旅行先NO.1ですから、偽札を溜め込んで日本に来て決済をさせると…お分かりでしょうか?」
「国内のお店は日本円で決済!偽札が日本国内では使えるお金に変わるって事?!」
「そうです、これを26年前に計画していたのが今回の黒幕の六道 正義、でも社長も初めは黒幕は貴女のお父さん、上原 誠二だと考えてました…先程説明させて頂いた偽元札の真相を全て知る事になるきっかけの訪問者が来るまでは…」
一時の静寂…
山城 芽衣は目を閉じ覚悟を決めて問う
「それが…葉山さん?」
名城が静かに首を横に振る
「…葉山さんはもう少し先のお話。社長が搬送された2日後の夕方にその訪問者が来たのです」
その日は東京も豪雪で交通が麻痺する程
スタッドレスでは物足りないとチェーンまでタイヤに装着したアルファードで弟村と名城は病院に向かった
あの告知から業務の事以外2人は言葉を交わしていない
複雑な思いが交差する
「名城さん、ちょっといいですか?」
「はい?」
「この世界で和平さんに1番近い人間は俺達です。その俺達2人がやらなきゃならない事は治療を勧める事じゃないですよ」
「はぁ?!じゃあこのままでいいって言いたいんですか?!」
名城も少し声を張り反論
「そんな事言ってない!あの人自身が生きたいって思わせるようにしないとダメだって思うんです、それにはどうしたらいいか?答えは簡単です、限られた時間をどう過ごすか…あの人がやりたい事に俺達が付き合うのが1番じゃないかなって。ずっと自分の生き方を選べなかったんだ、だから自暴自棄になってる気がするんですよ。子供の頃に異国で兵隊やらされて日本に帰ってきて追い出され…やっと見つけた居場所も無くなった人に何言っても響かないですよ、どんなくだらない事でもいい…今からでも選択肢があるって分かれば気が変わるんじゃないかと思うんです、死なない為に生きようとさせるより生きてた方が何かしらの可能性が沢山あると思わせた方が前向きで良くないですか?」
弟村の提案に名城は大きなため息をつく
「はぁーーーー……」
「え?俺おかしい事いいました?」
「違います…私はそんな事思いつかなかった…あの人が居なくなる…もうそれだけで押しつぶされそうでした。それってどこかで諦めてたことなんですよね…今話してて痛感しました。弟村さん言う事が似てきましたね、社長に」
「え?そうっすか?」
「前向きに事を進める考え方、あの人そっくり」
それだけ言うと名城はPCを開き何かを打ち込んで閉じた
「Peace Cpは休業します、主要な方には休業すると今メールをしました、もちろん体調の事は伏せてあります。ちょうど案件もなかったのは良かったですね。いいタイミングというか…皮肉ですね」
「…俺たちなんやかんやあの人に甘えっぱなしだったんすよ、仕事押し付けられて理解しました、社長は人を見て先を読み行動する…とてもじゃないが名城さんのサポートなしじゃ俺無理でした、さて!どんなわがまま言うか…こうなりゃトコトン振り回してもらいますよ!」
弟村は必死で明るく振舞っていた
名城の心情を理解しているからだ、自分まで下を向いたら3人とも共倒れになる…そんな事を考え車で病院に向かった
「エンディングノートなんも書いてないじゃないすか、書いてって言ったでしょう?」
携帯のメモ機能を弟村が見て呆れた
「うーん…やりたい事なんてそうそう思いつかないよ、逆に2人はなんかある?」
場が悪そうに松田は頭を掻きながら答えると弟村がとんでもない事を口にした
「社長?明日死ぬってなったら何食います?」
「ちょっと!弟村さん!なんてこと…」
「別にいいよ、うーん…何かなぁ、考えた事ないなぁ」
「名城さんは?」
「私は…コールドキングのクリスタルアイスサンデーかなぁ?弟村さんは?」
「俺は回転寿しすね」
「弟村はなんやかんや舌が子供だもんね」
弟村は松田を無視して続ける
「色々美味いもん食ったけど…3人で笑いながら好きなだけ好きなネタ食いたいね、あれぇ?煽った癖にご自分は答えでないんですかぁ?」
「!!コイツ…!うーんでもやっぱりパッとは…君達が食べたい物を一緒に食べられればいいかな」
「それです、そうやって選択肢を譲るから社長は今まで誰かの為に時間を使ってきたんです、それだけ自分の為に時間使えなかったからそういうの考えられなかったんですよ」
「……かもね」
「俺は社長に生きてもらいたい、でも治療を受けないって意思も尊重します」
「弟村さん!そんなの!」
「名城さん、この人の頑固さは半端ないよ、だったら俺らにできる事は…社長が…いや、「松戸 和平」として使えなかった時間を沢山使うことじゃないかな?」
弟村の意外な申し出に松田は少し笑いながら答えた
「弟村君…なかなか鋭いね、当たってるよ。僕は空っぽだ…」
「違います!空っぽなんかじゃない!」
名城は強く反論
「いや、空っぽだよ…だか…」
「ハイハイ、湿っぽい話はナシナシ、とりあえずここに社長が思いついたやりたい事エンディングノートどんどん書きましょう」
そう言うと弟村は買ってきたB5ノートとボールペンを差し出した
「エンディングかーいよいよ終わりが近い…ゲホッゲホ!って事だねぇ」
松田がノートを開き何かを書き出した
「お?早速…?ふざけんてんすか?!なんすか?これ!「弟村が彼女にバレなければ浮気をするか検証」って!」
「アハハ!カッコばっかつけてるからさ、冗談だよ」
コンコンコン
ドアがノックされ名城がドアまで行き開けると小綺麗な女性用スーツに身を包んだ中年女性と同じ年齢くらいの男性が入ってきた
「失礼、松田 啓介さんは何方ですか?」
「ちょっと!勝手に…」
名城が制止しようとしドアの外に目をやるとSPと思われる人間が6人ほどいた
「椿ちゃーん、あんまりこの人達に逆らわない方がいいよ、ね?女性初の官房長官の大久保 利恵さん?」
松田がスーツの男越しに後ろにいた女に目を向けた
「官房長官…?!あの?!」
弟村は理解したようだが名城はピンと来てない様子
「そうだよーこの人は黒いもんを白にするだけじゃなくて赤にも青にも黄色にもしちゃうんだよ、首班指名選挙に負けた後、反乱を起こした盟友の西郷を処理し内閣に居続けてる今日本で1番権力がある人だから、ねー?」
「お前!この方になん…」
「やめなさい、川路!ここは病院よ」
大久保と呼ばれた女が前にでて松田にお辞儀をした
「ご丁寧な紹介をどうも、初めまして、松田 啓介さん。…それとも…松戸さんとお呼びしたら良いかしら?」
室内の空気が一瞬で張り詰め、名城と弟村が身構える
「おっと、ストップ!手を出すなよ?2人とも。よく似てるって言われるんだよ、松戸さんに、で?総理より偉い人がなんの用?」
「…そういう事にしろって事ね、単刀直入に伺います、貴方、沖縄で偽札の事をどこまで調べたの?」
「さあねぇ〜僕はね?タダで君らに協力する程お人好しじゃないよ?…それに僕が1番嫌いな物知ってる?この国そのものアンタらだよ、仮に大問題になりかねない事を知ってたとしても僕は感知しない、わかったらさっさと出ていけ」
川路という男が猛烈な殺気を放ちながら松田を睨む
「口の利き方を知らんようだな?我々がその気になったらお前なんぞ一溜りもないぞ?白川審議官と懇意だろうがな!彼はもともと政府側、お前の味方にはならんぞ」
「ならここで僕だけをすぐに殺すといいよ、抵抗はしない、どうせ限られた生命だ、それに君らに情報を提供するぐらいなら死んだ方がマシだから。でもこの2人に指1本触れてみろ、今回の件やお前らが隠してる様々な秘密を俺はデータ化してCLOUDに置いてある、スマホで操作したら君らが1番迷惑するような形で世に出すぞ?」
弟村、名城が間に入ると強めの口調で反論しながらお互いの武器を構える
「俺達のことなんかいい!馬鹿な事言わないで下さい!」
「そうです!後悔したくなければ貴方達こそ手を引くのね!」
川路も腰に装備していたワルサーP99を構えた、すると大久保が一喝
「やめなさい!川路!次は無いわよ!…貴方達もそんな物騒な物下げて、私は話に来ただけ」
「2人とも、言う通りにするんだ」
松田の命令に従い2人も武装解除
「で?話ってなに?」
「実はね、こんな物が内閣調査室に送られたの」
大久保利恵は1枚の手紙を鞄が取り出し松田に見せた
「分かってると思うけどオフレコよ?」
松田は無視してその手紙を読み続けた
「………26年前に偽元札作っていた首謀者と独自に調べた外国人犯罪組織のリスト…30年間調べ尽くした独自の情報を渡す、その代わりに自分を「国家公安委員長」として内閣に入れろ…さもなくば世界にこれを公表する……か…で?俺に何をしろと?拍子抜けだったら悪いね、俺は県議会議員の上原 誠二が関わってたくらいしか知らないよ、偽札をどこで作ってたまでは分からんし、どうせ印刷所はないだろ?もう」
「…座っていいかしら?」
「もちろん、椿ちゃんこのご婦人に椅子を」
名城が折りたたみの簡易式の椅子を出し促され大久保利恵が座り写真を松田に見せた
「どうもありがとう、差出人はこの「六道 正義」(ムツミチ マサヨシ)…木曜の御仁と言えば分かるかしら?」
「東都警備と警察の…か」
「そう、そこの弟村 史さんが巻き込まれた時に貴方が暴いた警察の暗部…と言うより旧幕府の時からこの国の暗部なのよ、その老人はそこトップ。機関名は…」
「「虚式」だろ?で?」
「貴方…お仲間の情報屋さんと調べてたでしょ?流石にあれだけ動けばこちらの網に気にかかるわ、次からは偽名でも使うのね、誰の以来でやってたの?」
「…企業秘密さ、君に全部を言う必然性はないね、それに意味がわからないな、何故俺に話を持ってきた?」
「あなたが暴いた「虚式」にとっての東都警備保障は手足と言っていい、裏金、情報の隠匿、捜査費用の水増し請求先…それを潰されたの。政府としても虚式の東都警備を切った以上、六道は今手詰まりだから交換条件を突きつけてきた」
「全然話が見えない、俺を恨むなら文言に俺の名前くらい載せていいだろう?なのにそれすらない…意味がわからないね」
大久保が目をつぶり深呼吸してから出た言葉は驚愕の事実だった
「六道 正義…彼の本当の名前は「松戸 裕一郎」あのハイジャックを起こした…貴方のお父さんなの」
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