アスミチが「知りたがり」になった日のできごと
紅戸ベニ
第1話(1話完結)
『アスミチが「知りたがり」になった日のできごと』
「アスミチは高いところから落ちたことがある。だから、高いところに
と、アスミチはパパから言われました。アスミチは小学四年生です。
それに続けて、パパはおもしろそうに、メガネの
「落ちたのは、もう三年くらい前になるよな。思い出すなあ、アスミチが見たおもしろい
なんでも、そのときにアスミチは
そこで、ママがその続きを話し始めました。
「パパにそっくりで、夢でもテレビ
アスミチは、自分ではおぼえていないので、そのときの話をパパやママから聞くのが好きでした。パパとママは、テレビで見た
小学一年生といえば、アスミチはまだ本を読むことがなかったころです。
ちょうどその夢を見たころに、あるきっかけがあって、
「テレビ番組じゃなくて、本で知ったことを夢で見たのかもしれないなあ」と、アスミチは考えることもありました。
だいたい三年前くらいのこと。
小学一年生のときに、アスミチは「知りたがり」になりました。本を手当たり
アスミチは小さいころからテレビのヒーロー番組『アルティメット人間』シリーズが大好きです。
この『アルティメット人間』シリーズは、エスエフ(
『サルとヒトが分かれたきっかけは
という
そして、
『なぞの宇宙人によって進化させられたばかりのヒトが、今ではだれも持っていないような、すごい能力≪のうりょく≫を持っていた。そのうちの一人がなんらかの理由で今の世界によみがえり、今の地球人のチームとともに
という内容でした。
アスミチのパパもおじいちゃんも、このシリーズが好きで、アスミチも毎日ビデオを見ては
ビデオを見終わったあとも、ねる前も、アスミチはママに文字を教わりながら、アルティメット人間の本を読みました。毎日読んだので、むずかしい漢字があっても、書かれた文ぜんぶをおぼえてしまったので読めるようになりました。
これが、アスミチが読書が好きになった、
アスミチの話し相手は、ママでした。アルティメット人間シリーズに詳しくないママに、
「ママ、この
と教えると、
「すごいね!アスミチは物知りだね」
とほめてもらえるのです。
ほかの小学一年生が読めない漢字も読めたり、ママにほめてもらえることで、アスミチはすっかりとくいになっていました。
夏休みがやってきました。
となりの町のデパートで『アルティメット人間コーナー』という会場がもうけられました。夏休みに、アスミチのようなファンの子どもにデパートに来てもらうために、とくべつに開かれたイベントです。
アスミチはママと出かけて、イベントを楽しみました。人間の大きさのビル、電車、
なにもかもが楽しくて、大いに
しかし、そこでアスミチはひとつ大きな心のダメージを受けます。
少し年上の男の子とジオラマを見ていて、話しかけられて、同じくらいアルティメット人間にくわしい人に出会った、とおたがいによろこんだとき。
年上の子だけに、アスミチよりもくわしく知っていることもありました。けれど、アスミチが強く心にダメージをうけたのは、ただくわしく知っているからではなかったのです。
その男の子は、べつにじまんそうに言ったわけではありません。話し相手になったアスミチともっと楽しく会話をしたくて、言ったのです。
「ショック・ザ・オオコンニャックは、ショクダイオオコンニャクという植物をもとに考えたって言われてるよね」
と。
アスミチだって知っていました。アルティメット人間シリーズは、だれかが考えて
そして、自分がまったく思いつきもしなかったことが、その男の子や、たぶんパパや、大人たちには当たり前のことだったんだと、気づいてしまったのです。
「どんなに
大人にしてみれば、アスミチがとくいになって話すアルティメット人間のことは、本に書いてあるそのままで、いかにも子どもっぽいと感じたことでしょう。アスミチは、急にとてもはずかしくなりました。
年上の男の子とさよならしてから、アスミチはママに聞いてみました。
「ママ、ショクダイオオコンニャクという植物を知ってる?」
と。するとママは
「知ってるわよ。ちょっと前に日本の植物園で開花が見られたというニュースになっていたんじゃなかったかしら」と答えました。ママもその植物を知っていたのです……。
その日、アスミチはデパートの
「どうしても買ってほしい。勉強にもやくに立つから」
と
アスミチは、たくさん詠みました。
学習まんがも、おこづかいで買いました。でもしばらくすると父と母がお金を出してくれるようになりました。
父は学習まんがを自分でも読んで、
「アスミチ、ロケットの仕組みがわかると、アルティメット人間シリーズで人間が宇宙船を作った
と、うれしそうに話しかけてくれました。アスミチは心の
「うん。
テレビに見えるものが、ただかっこいだけではない、人間の
アスミチは、
「お母さん、
と、
植物のこと。
動物のこと。
鳥のこと。
魚のこと。
ほかにも、たくさん。
母は前と変わらずにほほえみながら言ってくれます。
「アスミチは、ほんとうによく知っているのね」
と。
(おわり)
アスミチが「知りたがり」になった日のできごと 紅戸ベニ @cogitatio
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