第三話『理不尽なガイドの女』

 

「まもなく、ダンジョン、ダンジョン、お出口は右側です」


 待ち合わせ場所のURLまで添付しておいて、結局渋谷駅に降りてすらいない状況。最初からこの電車に乗らせるつもりだったのか。何とも巧妙な手口。


 乗ってきた電車は何事もなかったかのように元来た道を走り去り、地平線の彼方へと消えていった。車掌の顔だけでも拝んでおきたかったぜ。


 どうやらここがダンジョンらしいが……。電車を降りて辺りを見渡す。


「おぉぉ!?」


 視界に移った景色は————。


 夢と希望に溢れ、緑豊かな大自然が網膜を癒す。肌に心地良い風が伝わり——————。



 ————。



 という妄想をしていたが、どうやらだいぶ違うようだ。


 夢や希望のメルヘンランドを多少は期待してたんだ。ハッピーな感じではない風景だけど、意外にも賑わってる雰囲気の場所だな。冒険者っぽい人間も結構いる。


 そもそも今立っている場所は外ではない。冒険者達が過ごす待機所で、俺が立っている場所は建物の1階部分にあたる。


 建物内と駅が直結している造りで、移動にも便利な仕組み。


 大理石が敷き詰められた豪華な床や壁。ステンドグラスの洒落た窓や天井のシャンデリア。最も硬く重い木材として知られる広葉樹の椅子や机。非常に高級感溢れる大施設だ。


 道中から既に精神攻撃を受けてきたから……無性に腹が減っている。飯食う場所探すか。大量のカップ麺は自宅から拝借済みだから問題なし。



 ◆



 空腹を堪えながらウロウロしていると、背後に突如として現れた女性が、ポンと俺の肩を叩く。


「長旅ご苦労様! あたしはガイドのニーナ! よろしくね! わからないことがあったら何でも聞いて! 大抵の事は教えてあげられるから!」


 何この急展開。現実世界で女子に声かけられるなんてまずないからな。鼻息が荒くなるぜ。


 白目の範囲全てを活用し、眼で舐めるように全身の観察を行う不審な男が————そこにはいた。




 スタイル良いし顔も可愛い。黒髪ミディアムで一本結び。色白で海の様な青く透き通った目。肌の露出が少なめの清楚系女子。まさに理想のガイド。


 異世界でこんな美人に出会えるとは。何だかんだ言っても理不尽なことばかりじゃないんだな!ハハハっ!————


「新入りでダンジョンの事あまり知らないから困ってるんだ。最初に何すればいいと思う?」


「外にあるダンジョンを攻略すればいいんじゃないかな!」


「へぇー、ダンジョンってどのくらいあるの?」


「今は約500ヶ所かな! ダンジョンは年々増えてくから!」


 多すぎてどこから冒険するべきか考えるのも嫌になる数量。しかも増えるって、ダンジョンって生物だったっけ?

 

 俺の想像を遥かに超えてくる。どうにも無理ゲー感が否めないし、最深部に到達させる気なさそう。


「伝説の大秘宝狙いなんだけど何処にあるか知ってる? さっさと取っちゃいたいんだよねー」


「ぶふっ……あっ、あぁ~大秘宝ね! 残念だけどあたしも詳しくないんだ」


 一瞬吹き出した気がするのは気のせいかなぁ。少々馬鹿にされた感が否めないが.……。まぁいきなりは無理なのはわかってるけど、気になるじゃん。


「ダンジョン行く前に腹ごしらえしたいんだけど、休憩できる場所ある?」


「あるよ! 二階の宿泊エリアの部屋借りればいいと思う!」


 なるほど。上にも階があるのは初耳だ。この異様な広さの建物が既にダンジョンだな。


「受付は何処にあるのかな?」


「あそこの平行エスカレーターに乗ってればそのうち着くから安心して!」



 ◆



 さっさと食事取って、ダンジョン攻略して稼がないとわざわざ来た意味がないからな。


 名残惜しいが、一旦ニーナと別れて部屋で空腹を満たそう。


「色々教えてくれてありがとな! それじゃ!」


「ちょっと待って待って!」


「何だよニーナ。どうしたの、その何かを欲しがるような手は」


「何って、色々教えてあげたんだから、ガイド費用払ってくれないと困るよ! ほら、早く~」


 一言いいか……。ほぼ何もしてないだろお前! この僅かな言葉のキャッチボールだけでガイドをした気になっているとは……。


 まぁ何となくわかってたから大丈夫。理不尽なのよ基本はね。


 しかもこの女、下手したら新人だと分かってて声掛けただろ。鴨がネギも鍋も持って現れた……くらいにしか思ってなさそうだな。この悪女め!


 どの世界でもやっぱりモノを言うのは金。全くもって現金な連中だ。


 ちっ……背に腹はかえられない。渋々残っていたなけなしの千円札を手渡した。


「何その汚い紙切れ」


 サラッと言ってのけたな。アルバイトで稼いだ汗と涙の結晶を馬鹿にしやがって!


 ——やっぱ日本円は通用しないか。異世界共通のルールは健在だった。


「この世界のお金ってどうすれば得られるのかな?」


「そりゃダンジョン攻略しかないよ! それかカジノだね!」


 ギャンブル要素もあるのかこの異世界。ぼったくられる未来しか見えないよ。


 現時点で無一文が確定した。新人冒険者に対しての慈悲は微塵も感じられない。序盤から徹底してやがる。


「ニーナさん! お金持ってないから部屋代貸して下さいお願いします!」


「うーん、それぐらいなら喜んで貸すけどね! 倍返しだ!!」


 いや、全然面白くないし。何処かで聞いたことあるセリフ言うのやめなさい。


 見た目と違って随分ガメツイ性格してるのな。女性恐怖症がまた一段階上がってしまった……。それはさて置き。



 駆け出し冒険者みたいで少し興奮してきた。冒険はワクワク感が大切。


 いよいよ明日は本命のダンジョン探索が始まる。果たしてどんな試練が立ちはだかるのか!!



————————————


 理不尽度合 ★★★

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