ぼくは小説を書く

千織

いつかのセンター試験

センター試験の日の夢をみた。


ぼくは慌てて目を覚ます。


もう、何十年も前のことなのに。


ぼくは経済的な理由で滑り止めの大学はなく、第一志望校一本勝負だった。


大学に落ちたら人生終わりだ……


そうにしか思えなかった。


駄目だった時のことなんて、考えることはできないくらい追い詰められていた。


センター試験の夢を見ることで、その時の不安や緊張や親や先生への罪悪感のようなものが一気に蘇った。



♢♢♢



ぼくは今、小説を書くことを趣味にしている。


たくさん書いてみて、ぼくが本当に書きたいものって何なのかを考えている。


カクヨムの投稿を読んだり、名作に手を出したり、小説講座に通ったりして勉強している。


それなりにこうかな、と思うものもある。


でもなんか、もっと自分が燃えるような何かをつかみたいと思っていた。



♢♢♢



カクヨム友達と教科書の話をした。


十代で読んでも胸がうたれる

難しいけどわかる

今でも心に残っている

そういう小説ってなんなんだろう。


当時は本なんてそんなもんだと思っていたけど、書く側になってみるとそれって本当にすごいことなんだなと思う。



今の読解力でセンター試験は解けるのかな?

あ、今は共通テストだった、

共通一次じゃないよ。


と、誰かさんに向けてツッコミながらそんなことを考えていた時、ふとこんなことを思い出した。



『今回のセンターには、涙無しには読めない小説が出たらしいよ』



マジかよwww

まさかのメンタル攻撃

ズルいだろwww

作題者は、どんな気持ちでそれを作ったんだろうw


その話を聞いた瞬間、ぼくはそう思った。



ぼくは少しだけ市内の中学生に向けた学力テストを作ったことがある。


小説は作るのが特に難しい。


まずはテストにふさわしい題材のチョイス。


次に設問。

設問は、単なる問いかけではなく、正解とする範囲を限定することになる。

そうすると逆に言えばヒントになるのだ。

ヒントになりすぎないようにしながらも、何を問うているのかを正確に表現しなくてはならない。


正答や解答例は、いわずもがなあらゆる疑問に答えられるものでなくてはならない。

子どもたちからの……ではなく、プロの学校の先生や塾の先生からの疑問に対してだ。

そのテストの点数が、進路指導の材料になるのだから。


さらには、学力のばらつきに対して、どこにどんな補助を入れて公平性を保つかを考えなくてはならない。


勘で点が取れないように、

勉強した子が点数を取れて、

かつ上位層がしのぎを削る問題を、

意図的に100点の中に組み込まなくてはいけない。


そういう感性が養われてくると、どんな問題をみても作題者の意図や工夫や思いが見てとれるようになる。

それだけでも芸術的だなと思う。



いつも見てもセンター試験の問題には親しみをもてた。


素朴で控えめで、基礎の組み合わせなのにそんな問い方ができるの?!と驚く。


あんな数の受験者をさばきつつも、王道。


けれども、センターが鬼門の子にはチャンスを与え、センター高得点が当たり前の子には踏み台になってあげる、


そんな健気な存在。


だから、ぼくはセンター試験の問題が好きだった。


でも、人生においては、”この彼女にフラれたら一生彼女ができない”みたいな恐ろしい存在だけどね。




あの話、を今の自分で改めて考えてみた。



『作題者は、その小説で泣いたのかな』



人生が決まるテストで泣かせるなんて鬼畜だ。


みんな、生まれてこのかたずっとずっとずーっと膨大な時間を費やして日本語と国語を勉強してきてるんだよ?


目はバッキバキで、今日という日に臨んでるんだよ?


鑑賞する気なんてさらさらなくて、分解して分解して、精密に答え出してやろうって、鼻息荒くしてるんだよ?


そんな冒涜的な読み方をしようなんて人たちを、涙で文字すら読めなくしちゃう小説って、なんなの?



ひきこんで


ゆさぶって


ひびかせて


胸がいっぱいになってしまう



勉強は頭でするものなのに、なんてことしてくれるんだ……。


しかも、全文じゃなくてキリトリなのに。


そんなわずかな文字数で、人の大切なところに易々と入ってしまう。


小説ってなんだろう。


小説家ってなんなんだろう。





そんな小説が書きたい。


いっとき、別世界にいけるような。


今だけでも、心を取り戻せるような。


そんな小説を。




(完)

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ぼくは小説を書く 千織 @katokaikou

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