『来週、世界が終わります』 解説

吹井賢(ふくいけん)

あとがき・解説



 この度リリースした『来週、世界が終わります』は、吹井賢初のゲーム作品ということになるんですけど、実はこれ、ボツになった新作案の再利用だったりします。元々は小説として作ろうと思っていたわけですね。ただ、新作の企画段階でも、「これってゲームの方が面白いよなあ……」という思いがあったため、そういう意味では、落ち着くべきところに落ち着いた感があります。

 なんと言いますか、小説作品にすると、山場も何もないと言いますか、「何事もなく日々が過ぎていき、世界が終わると同時に最初に戻る」というギミックは、ゲームならではだと思います。言うなれば、『涼宮ハルヒ』シリーズの『エンドレスエイト』の回と同じです。小説だとできないネタもアニメだとできる。そういうわけで、このゲーム、特定の選択肢を選ばない限りは、延々とループし続けます。ウケるね。一応、ループに飽きないよう、会話の内容被りはほぼ存在せず、選択肢ごとにユキと純一が独自の会話を繰り広げるようにしています。ですから、高校生カップルの雑談を沢山聞きたいという奇特な方は、選択肢を網羅していただければと思います。

 ゲームを作るのははじめてで、そして、吹井賢は小説家ですので、ゲーム作成に関しては門外漢なんですけども、その、素人故の拙いクオリティーを「ユキの能力の限界(夕方しかちゃんと造らなかった)」という設定に還元したのは、我ながら、ナイスアイディアでしたね。彼女の“世界”とは、彼女の手が届く範囲だけなのです。そして、最後には、彼女はその“世界”から巣立っていく。そういうお話です。

 世界観は『破滅の刑死者』などと同じなので、ユキの力も、超能力ということになります。予知ができたり、幼馴染を夢の世界に閉じ込めたり、やりたい放題やってますが、そういう能力なんですね。こと色恋沙汰において、彼女は全能なのです。無敵。あるいは、恋する少女とはそういうものなのかもしれませんが……。あ、代償は、「意識的な制御ができない」というものです。そして、このゲームのトゥルーエンド後には、その異能は消えています。何故って? 好きな人と両想いになれて、超常的な力など必要なくなったからです。

 興醒めは承知の上で、ED後のことを語ってしまうと、純一も、勿論、ユキも、普通に生きています。彼女等の世界は続いていますが、何処かの誰かの世界は終わって、でもそれは、同じ現実でも、やっぱり違う世界のことなんですよね。「じゃあ、ユキが予知した『世界の終わり』ってなんだったんだよ」と問われたら、彼女等の日常から遠く離れたところで、世界が終わり始めていた、という感じですね。要するに、彼女等とは違う世界、けれども確かに繋がっている現実の先で、異能関係のアレコレが起こり、その未来をユキは予知したわけです。そして、ひょっとしたらその余波で、八瀬純一という一人の男子高校生が死ぬかもしれなかった。今回は、たまたま死ななかった。もっと言うならば、「大いなる陰謀の余波で死ぬはずだった純一の運命が、ユキの心情が変わり、決意したことで、バタフライ・エフェクト的に変化し、死の運命から逃れられた」という、言ってしまえば、ただ、それだけの話です。

 彼等の日常は変わらず続きますが、しかし、遠い世界は変わり始めていて、それは「終わり始めている」と言い換えることもできて、でも、そのことは彼女等にはどうしようもないことなのです。それはそう、最初の方で純一が言っていたように、今の日常が続いていくことを祈るくらいしかできない。でも、世界ってそんなもんじゃありません? 僕達には、大国の権力者の手中にある核ミサイルのスイッチをどうこうすることはできない。僕達にできるのは、毎日を大切に過ごすことだけです。それでいいと僕は思っています。

 テーマソングは、『リトルタイムトリップ』。もう、そのまんまな選曲ですね。歌詞とか本当にそのまま。この曲を聞いている内に、原案が全て出来上がった……というより、この話を書きたくなりました。「もう少し もう少しだけ」の願い事が彼女に届いたからこそ、このお話はハッピーエンドで終わったんだと思います。

 

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『来週、世界が終わります』 解説 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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