妙案
13:41
泉五島学園特別棟1階 廊下
外は明るいはずなのだが、ここは外の木々が陽の光を遮るため、どこか暗く、ジメジメとしている。
「まずは実験室に向かおう」
この学園は小学校から高校まで全て一緒になった一貫校で、
この学園だけで島の面積の10分の1を有しているらしい。
そして、学園内には島民も使える大きな体育館や図書館もある。
そんな中、俺が目をつけたのは実験室。
実験室は学園の一階部分に位置し、学園の中央に近いところで、なおかつ保健室も近い。
学園で長時間過ごすとなると一番いいポイントだろう。
俺は周囲を警戒しながら2人に意見を出す。
進藤は頷いたが、伊織には多少ながら震えが見えていた。
やはり、あの銃を持った男が同じ建物の中にいると考えると怖いものだろう。
俺だって怖いけど、怖くても香織は俺より怖い思いをしてるかもしれない。そう考えると俺は不思議と不安も恐怖もなくなっていく。
伊織をどうにかするほどのことは俺にはできない。
申し訳ないが周りに目を配る余裕はないし、そこまでやる義理はない。
「帰るなら今のうちだぞ」
震える伊織に、俺はわざと冷たく言葉を放つ。
危険な場所に身を置き俺についてくる以上、自衛ぐらいはしてもらわないと困る。なんのために連れてきたと思っているんだか、
なんで俺が素性もしれないやつのお守りまでしないといけないんだ。
「、、、いや、大丈夫」
声も肩も震えているがその目はさっきと変わっていない。恐怖心を無理やり抑えてるようだ。
「これ以上は何も言わないからな」
俺は前も向き直し進む。廊下に長居するのは危険だからな。
スタスタと足音を最大限殺し実験室の前に着く。
「進藤、周りに人影はあるか?」
進藤は周囲を見渡し俺を見て首を横に振った。
それを確認した俺は実験室の扉を開け3人が入ったことを確認し扉を閉めた。
「で、ここに来た理由は?」
やっと、手に入った安寧の場所。
ここなら多少声も出せると進藤は口を開く。
「この場所を俺たちの拠点にする。」
俺は近くに置いてあったホワイトボードに俺の考えていることを書き出していく。
「まず、俺らはあの銃の男に対抗する手段が欲しい。そのためには俺達にはアイテムが必要なんだが、ここなら集めやすいと思ってな。」
俺はホワイトボードに書いた地図と必要なアイテムを2人に見せる。
「まず欲しいのは止血用の包帯とか絆創膏、ガーゼ。あとは体育祭で使ってるスターターピストルって言われる銃とか色々あるんだがその欲しいアイテムを集めるとなったらここがそれぞれのアイテムがある場所の中心にある」
「じゃあ役割を分けないか?」
進藤が口を開く。
「欲しいものを分担して集めてこよう。」
確かに分担して集めた方が手っ取り早いが危険が伴うしもし危険な状況になったらほぼ命の保証はないと考えるべきだ。
俺は思考をめぐらせ、メリットとデメリットを比べる。
「俺が1人で動くから、2人で保健室と調理室にいってほしい」
正直、俺は1人の方が動きやすいだろう。
こいつらを警戒しなくて済むのだから。
「そしたらお前が危ないだろ、俺が一人で行く」
「たしかに、俺がひとりだと危ないかもしれないけど、俺以上に伊織のこともあるだろ」
どれだけ強い覚悟を持っていても、伊織はどこにでもいる普通の女子高生。誰かが守ってやる必要がある。
「噂で聞いたことあるけど、お前空手で何回か大会優勝しているんだろ?伊織も守る役割ならお前がいちばん適任だと思うが?」
進藤の理想は俺が誰かと2人で行動することなのだろう。
ただ、それに従う訳にはいかない。
「まぁ、確かに空手は習ってたけどよ、」
「俺なら大丈夫だ。ちゃんと先のことも頭に入れている」
「ちゃんと考えはある。そのためには2人に協力してもらわないとなんだ、だから頼む」
「わかった、お前が一人で動くのは良いとして、どうやってあの銃持った野郎に対抗する気なんだ?」
伊織はまだしも、進藤があの銃男の仲間じゃないという確証がない以上作戦を伝えるのは危険じゃないだろうか、ただ、ここで隠せば信頼を得るのは難しくなる。
ここに来てから常に選択している気がする。
何が正しいのか自信がなくなる。
ただ、こんな状況だ、こいつもおそらく俺のことを警戒している。なら、信頼を得ればこっちに有利に働くのではないか?
警戒心は逆に言えば、信頼の入り口。
なんて、前に先生も言ってたしな。
「作戦は、簡単に言えば向こうも武器を持ってるなら俺らはそれ以上の武器を持って、脅して無力化させる」
「皿は割れば簡単な投げナイフみたいになるんだ。それに調理室には包丁とかもあるだろ?」
学校は厳重に管理されているから気づきにくいが、危険物が多い。
実験に使う薬品だって、安全の為に人に害がないぐらい薄められているが、それでも目に入ったりしたら危険だ。
正直、銃男が来たのがこっちで助かった。
もし、港倉庫の方に来ていたら対策のしようがない。
「2人にメモを渡すからこれを持ってきて欲しい。」
「夜の10時ぐらいから動き出したいから、9時ぐらいにはまたここに戻って来よう。」
少々強引だっただろうか、ただ、何度も言うが俺は1人で行動したい。その為なら多少はしょうがないだろう。
「9時にここに集合だな、わかった。」
「じゃあ、急いでやることは無いね」
「そーだな、ゆっくりできるなら少しぐらいなら余裕を持てそうだしな」
なんか、この2人さっきから距離が近くなっている気がする。
こんな状況で、良くもまぁこんな仲良くできるな。
これが、共依存ということなのか?
お互いにお互いを依存先として恐怖心を和らげる。
確かに、同じ気持ちを共有する奴や、共感してくれるやつは不思議と安心感を得られるしな、
ただ、この状況で「共依存」は悪手なのではないだろうか、
依存先にもしなにかあれば精神的に来るものもあるだろう。
無理やり依存という形でバランスを保っているのだから。
こいつらを利用してやろう。なんて思っていたが、こいつらが潰れた時用のことも考えないとな。
「ところでさ、このメモに書いてあるガス缶って何に使うの?」
伊織は訝しむように俺を睨む。
「そんなもん、火炎放射器にするに決まってるだろ」
実は学園に入る前にライターが落ちているのを見ていた。ちゃんと火も付く。
この世の男子は必ず火炎放射器を打って見たいって思ったことはあるだろう。
デメリットとして両手は塞がってしまうが、
メリットの夢を叶えられるし、銃男に火傷を負わせるぐらいならできるだろう。
「危険だから、火炎放射器はやめない?」
「伊織、それはダメだ」
その時無言だった進藤は口を開いた。
「なんで」
伊織は少し不機嫌そうだ
「なんでかって?そんなもん簡単だよ」
「焦らさないで早く話して」
「それはな、火炎放射器は全男子の憧れだからだよ!」
やはりな。
「この世の男はな、火炎放射器とかっこいい武器を振るう。そして、学校に襲撃してきた武装集団を撃退して好きな子にかっこいいって言われることに憧れを持っているんだよ!」
「は」
「こんな状況、普通ならありえない!ここであの銃男を俺がかっこよく倒せばモテモテだ!」
さっきから伊織は置いてけぼりだ。
何も言い返せず、ただ進藤の言うことを無理やり理解しようとしているようだ。
「もしかしてさ、葵君がガス缶欲しい理由ってこれと同じ?」
進藤のことをこれ呼ばわりか、、
「そうだぞ、悪いか」
「悪い。ガス缶は不要。」
伊織は俺らのことを人として見ているのか?
ゴミを見るような目を向けられている気がするんだが、
「まぁ、これ以外は特になんも言う事ないし颯太くんは何か言いたいことないの?」
「んにゃ、俺は特にはないな。」
すこし、空気が和んだかな。
「じゃあ、動き出すか?」
「そうだな、」
「じゃあ、また後で、」
俺達は各自動き出した。
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