開幕

泉五島学園

島唯一の学校で小学生から高校までがこの学園で学ぶ。

島の中央の山の中腹部に位置し学園を中心に総合病院や商店街など島の主要施設が立ち並ぶ。


校門で起きた発砲。

それは商店街や病気まで響きだんだんと周囲は混乱に満ちていく。

逃げ惑う者、その場に座り込み正気を失う者、面白がって様子を見に来た者。

数十人もの人がいるが誰一人として救急を呼んだり、止血をする人はいなかった。


「おい!人が撃たれてんだ!誰か手伝え!」


空気を切り裂く強烈な怒号が響いた。

おそらく俺は、怒号を飛ばす彼のことを知っている。焦げ茶色の髪をした俺と同年代らしき彼を。


しかし、誰にも彼の声は届かずスマホで辺りを撮影する奴らや理解が追いつかないのか戸惑っている者ばかり。


正直、誰が何をしようと俺にはどうでもいいことで、撃たれたやつが死んでも何も思わないだろう。


そう思っていたのに、ふと、一人の少女と目が合った。

彼女は、苦しそうというより悔しそうな顔をしていた。

何か後悔を残してしまうような。


「たすけて」


彼女はそう俺に言った。

声が聞こえたわけでも、読唇術が使える訳でもないから本当にそう言っていたかは分からない。


でも、確かに、はっきりとそう感じた。


俺は、男に向かって駆け出した。

彼女に背中を押されるように。

そして、俺は彼に駆け寄るとき、ひとつ頭に浮かんだ。


|彼が俺と同じことになってしまうんじゃないかって《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》


「今119番やってきました。これ使ってください!」


俺は声を荒らげる彼にハンカチを渡しその場にしゃがむ。


撃たれた場所が良かったのか、辺りに血はあまり流れていない。

これなら止血ぐらいならそこまで難しくはないだろう。


しばらくしてある程度の止血が終わった頃、

突如として、辺りの人は俯き散り散りに逃げるように消えていった。


「あの、ありがとうございます。」


人気が完全に無くなると人混みの中から小走りでこちらに近づいてくる少女がいた。

さっき俺と目が合った彼女だ。

彼女は背中まで伸びた黒髪をなびかせて、その額には汗が溢れていて、顔から生気が全くないと感じるほどその顔は青くなっていた。


少女は撃たれた男の手を取り。


「絶対大丈夫だから!絶対死んじゃダメだよ!」


と声を出し、涙を流した。


数分後救急隊が到着し男は病院へ運ばれた。


救急隊の人達は俺たちに感謝を述べた後こう告げた。


「今島の南地区の方でも事件があったらしくて警察が到着するのもう少し先らしい」


「事件って?」


「俺達も詳しいことは知らないけど、島民の何人かが暴徒と化して今は沈静化に向かっているらしいよ」


「今日に限ってどうしてこんなに仕事が多いんだか、いつもなんか週一ぐらいしか出動する人用なんかないのにな」


「多分、噂を聞いたからじゃないですか?」


さっきいち早く動いていた彼が口を開く。


「噂って?」


「知らないんですか?今島のどこかにアセビの治療薬が隠されているって噂が広まっているんですよ」


治療薬?そんな話全く聞かなかったぞ?


「なるほどね、それでみんながそれを探している中で争っているってことか、」


「じゃあ、もしかして君たちも?」


「いやいや、僕達は散歩で来ただけですよ」


「そっか、ならいいんだけど。でも、ここら辺も危険だと思うから早く家に帰りなさい」


「わかりました。ありがとうございます」


そうして、救急隊の人たちは救急車に乗り込み病院へ急いで行った。


それにしても、アセビの治療薬か、、もしかしたら俺も手にすることができるのだろうか。


俺は決意と覚悟を決た。


***


「そーいえば、挨拶もしてなかったな」


そう切り出したのはさっきいち早く助けに動いた彼だった。


さっきは撃たれた彼を助けるのに必死で見ていなかったが、かなり整った顔立ちにかなりの長身だなと思った。

そして、俺は彼の顔を何度も見たことがあった。


「俺は進藤颯太しんどうそうた、高二。アセビの治療薬がここにあるって言う噂を聞いてここまで来た。」


やっぱり、同い年か。

この島は大人より子供の数の方が多く、

学園は一学年だいたい15人から20人のクラスが2つから3つある。

俺たちの代は人数が多く3クラスだった。


だが、俺は進藤と同じクラスになったことが1度もなかった。

だから、俺は今日初めて進藤と話した。


でも、そんなことはない。俺たちは友達だ。と言わんばかりに進藤は俺にアイコンタクトを送ってきた。

それはおそらく、俺の目的を知りたいということなのだろう。


「俺は山口葵、同じく高二。家族を助ける為に薬を取りに来た。」


軽く挨拶をし、敵になるかもしれないと香織のことも伏せておいた。


下手に距離が近くなれば、首元を掻っ切られる可能性だってあるのだから。

そもそも香織の名前を言っても分からないだろうし。


「あれ?2人同い年なのに関わりないの?」


少女は疑問を口にする。

さっきまで顔は真っ青だったような気がするが。今ではすっかり活気のある明るい表情になっている。


「俺は顔は知ってたけど同じクラスとかになったことがないから名前も知らなかったしほぼ初対面みたいな感じ」


「へぇ〜、そうだったんだ」


「でも、こーいうことがきっかけで仲良くなれるとはね」


「これもまぁ、何かの縁よ」


「そうだな!改めてよろしく!」


颯太は俺の目の奥の方を見る。

俺は軽く会釈をし、2人の目を見る。

2人ともとても整った顔に綺麗な目をしていた。


「で、君は?」


俺は少女に名前を聞いた。


「私は西園寺伊織さいおんじ いおり、中三。お兄ちゃんと一緒に遊んでた時にたまたま現場に居合わせてお兄ちゃんがあの男を止めようとしたらあーなった感じ、、」


また、少し声のトーンが下がり、元気が無くなったように感じる。


「西園寺って、あの港倉庫の管理してる?西園寺?」


「あぁ、そう。一応ね」


西園寺家は、古くからこの島と本州を繋ぐ貿易を行う名家とされ、一家代々港倉庫の管理も行う。

そこの令嬢ってことは、こいつはかなりのお嬢様ってことになる。


それに、港倉庫には薬が隠されているかも知れない。こいつとの繋がりは持っていた方がいいな。


「じゃあ伊織は治療薬を取りに来たって訳じゃないのか。なら早くここを去った方がいい。さっき見ただろ?」


俺は伊織にそう伝える。

さっき学園に入っていった男は銃を持っていた。

ここから先は常に命の危険が伴う。

それこそ、もう死ぬかもしれないという自暴自棄の奴らならいいかもしれないが、まだ感染もせず、将来のある奴が行くべき場所では無い。


もし、こいつがここで死んだら港倉庫に行く為の道が潰されてしまう。

保険は大事だ。


俺は常に警戒を怠らない。張り詰めた緊張の糸が何かしらの衝撃でプツンとあっさり切れるように感じる。

俺自身もさっきの現場を見て、少しビビっているからだろう。

こいつらも武器を持ってるかもしれない。


「いや、私あの男を止めないと行けないと思うの。だから私中に入る。」


「本当にいいの?」


進藤も同じ考えなのか、心配の声を上げている。


「うん。みんなの足は引っ張らないから」


それは決意の籠った言葉だった。

正直、学園に入る人数が増えればその分動きにくくなるからやめて欲しいが、それを口に出せるほど俺は最低じゃないし、そもそも止めても無駄だろう。


せめて、こいつらが自由に動いて見つけられるのだけは避けないといけない。

だから、俺の監視下に置いておくべきだろう。

それに、その方が安全だろうしな、俺にとっても、こいつらにとっても。


「まぁ、止めはしないけど俺と動く気なら多分大分きついよ大丈夫?」


「一緒にいっていいの?」


伊織がそう問う。


本当はこいつらとは別行動の方がやりやすいように思うが、伊織には死なれちゃ困るし、

進藤だっていれば多少の戦力になるし、最悪壁にもなる。


メリットとデメリットを比べた結果いた方がいいと言うのが俺の判断だ。


「みんなで動いた方が安全でしょ?ただ、その分俺は色々とやる事あるから大変ってだけ」


二人は少し考えた素振りをした後俺の目を見据え


「俺も」「私も」「「連れてって!!」」


なんて、言われた。

ここまでの覚悟なら、俺の邪魔にはならないだろう。

でももし裏切られてもいいように警戒だけは絶対に怠らない。


「よし、じゃあ行こう!」


そうして、俺たちは学園内に侵入した。

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