ストーカー紛い


『今朝のニュース』

国際探偵機関IDOは少女鳥葬事件を連  続殺人事件と認定、三人の探偵を派遣』

『三重密室事件が、法螺吹ほらふき螺旋らせん氏によって解決』

『探偵アイドルグールプ、ドールズトリックの一人、如月きさらぎ瑠奈るなさんが円環城事件の捜査に参入』



 探偵はトリックを白日の下に晒し、犯人をあばき立てる。

 全ての事件は必ず解決できる。完全犯罪なんて存在しない。

 けれど、事件は無尽蔵だ。

 探偵はもっと効率的に、犯人を罰する必要がある。



―――



 事件から一週間が経った。


 貴島優花、それが自殺少女の名前らしい。

 三桜学園の高等部、二年六組九番。

 部活動には入っておらず、殆ど誰とも話さなかったそうだ。


「貴島は、ずっと本を読んでた気がする。俺は一人が好きなんだと思ってたんだ」


 彼女のクラスメイト情報提供者の一人は、そう言っていた。

 貴島と特別親しい人は全くといっていいほど、存在しない。

 

 幾つかの細かい情報を拾えた。

『彼女は昼休みは、ずっと図書館に籠もっていた』図書委員の人からの情報。

『授業中も放課後も、あの子はずっと眠たげ。現実に興味がないみたいに』

クラスメイトから。

『事務的な事は話してくれるんだけど、それだけだった』これもクラスメイトからだ。



「ねぇ、君はなんでこんな事調べてるの?」


 聞き取りの後、そう言ったのは、赤い眼鏡をかけた、三つ編みの女子。彼女のクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 放課後の廊下、向かい合う彼女は少し疲れているように見える。


 『赤縁あかふち』は責任感の強い人らしい。

 貴島の自殺によって、酷く苦しんでいる。       勝手に彼女の自殺に共感しているのだ。俺と似ているかもしれない。

 俺はあんまり、人の名前を覚えるのはちょっとだけ苦手だ。心の中で適当なあだ名をつけて、呼んでいる。

 赤縁なのは、赤い眼鏡だからだ。


「君は、1年生でしょ?貴島さんとも関係が無かったのに、どうして?」


 学年によって、色が分かれているネクタイに指をさす。

 『自殺を引き起こした原因が自分にあるのではないか?』という自分自身への非難、罪悪感を俺への敵意に変換しているみたいだ。


「おかしいよ、他人の自殺の理由を追求しようとするなんて。それを暴かれることが、貴島さんのためになる訳が無いよ」


 赤縁は自殺を無かったことみたいに、振る舞いたいのか?

 さっき似ている思ったが、あれは嘘になった。

 こいつは、死んだ人間と生きている人間を区別できていない。死んだらそれまでなんだ。尊厳なんてのは生きてる間だけ。


「あんたの言ってる事には共感は出来ない」

 

 こういう会話も苦手だ。

 俺は探求を止めないし、赤縁は全く別の価値観の中で生きている。感情だけの罵り合いになってしまう。別に会話に効率を求めるなんてしないが、疲れるんだ。


「貴島の心情なんて、どうでもいいんだよ。遺された奴らもな。俺はただ、なぜ自殺したのか知りたいんだ」

 捲し立てる。意見の交換がしたくて来たんじゃない。

「屋上に繋がる階段の踊り場に、かばんが落ちてたそうだ。後から貴島のものだと判明した。中には、小説が三冊入っていて、作者は東野圭吾と貴志祐介と有栖川有栖の三人。ミステリーとホラーが好みだったのか?」

「学校では、本を読んでばかり。友人と呼べる人物はいない。部活は、一応文芸部に入っていたみたいだが、幽霊部員だ。今年からは一度も部活には訪れていない。」

「貴島は妹と母親と三人で暮らしてた。父親は十一年前に殺されてる、ありきたりな密室殺人だ。犯人もうとっくに死刑を食らってる。そこら辺の図書館のデータにも残ってたぜ。父親が死んだ後は、母親が仕事に力を入れてたみたいだ。家に帰って来るのはごく稀だったらしい。家に残された妹とは少し仲が悪かった」

「その妹曰く、姉は本好きで物静かでいわゆる人見知りだったとさ。精神的な不安定さは見受けられず、単なる文学少女。けれど、去年からたまに家に帰って来るのが遅い日があったらしい。理由は不明だ、部活も塾も通ってない。趣味は読書だけ、そんな奴が何処で何をしていたんだ?」

 

 家庭の事情は、閉校中に手に入れた情報だ。

 貴島の部屋にも訪れた。本ばかりで、それ以外に目立ったものは無かった。

 彼女の書いた日記でもあったのなら、調査も楽だったのに。

 結局、貴島の放課後の行動は未だ不明だ。


「貴島は多分、自分の世界観を守るのに必死だったんだ。だから、それを侵されるのを嫌がって、他人との関係を持ちたくなかった。自分の中の理想像を砕く、しょうもない現実から逃げていたんだ。読書がそれの一貫だったのかどうかは知らんが、取り敢えず、対人関係を避けていたのは確かだろ」


 なんで俺は、ここまで話したんだろう?

 『赤縁』の馬鹿さ加減にイラついて、彼女の無知を責めたくなったのか?

 それとも、本当は俺はこの調査を肯定されたくて、批判されたのが悲しいのかもしれない。

 でも、もうそんな事はどうでもいい。


「…」


 彼女に背を向ける。

 視線が突き刺さるが、無視してそのまま俺は去った。怖くなって逃げたんだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自称名探偵、紀本那由多の悍ましい私刑 @ranfrank

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ