自称名探偵、紀本那由多の悍ましい私刑
@ranfrank
私刑1
今日も、密室の中で誰かが死んでいて、それを探偵が解決するのだろう。
――――
馬鹿と煙は高いところが好きらしい。
馬鹿は目立つために、危険を考えずに高いところに登り、煙は自然と昇っていくからだと。
それなら、あれも目立つためだけに、あそこ立っているのだろうか。
学校の屋上に、人影が揺れる。
人影は明らかに、落下防止柵より手前にいた。
その下には野次馬が何人も集まって、みんなして騒いでいる。
どんな馬鹿にでも分かっただろう、飛び降り自殺のテンプレートだ。
「ヤバいって」「学校で死ぬなよ、おい!」「あいつ誰?」「本当に死ぬ気だったらもう飛び降りてるだろ」「どうしてスマホで撮ろうとしてんの?」「屋上行けって、説得してこいよ」「先生たちは何してんの!」「家で死んでよ…」
自殺という、滅茶苦茶さが人をかき回す。
理不尽な状況で自分を試されたとき、殆どの人が愚かさを、むき出しにする。
俺はうるさい野次馬の中に埋もれながら、突如として理解した。
彼女は何かに怯えていて、死ぬ以外にどうしようもないのだ。
影が何回も揺れ動き、やがて止まる。
息をのむ、静寂が訪れた。
次の瞬間、彼女は飛び降りる。
落ちていく最中、恐怖に支配されていて、死の後もそれが続くみたいに、呻いていた。
地面に落ちるまで、その恐怖は終わらなかっただろう。
乾いた破裂音、周りからの悲鳴が響く。
落下の後、それがあった。
赤子みたく蹲った状態で、折れた膝から骨がとび出して、それが喉に突き刺さっていた。
潰れた肉は血に濡れていて、赤黒いゼリーみたいで、それでまだ生きているんだから、なおさら惨めだった。
この残酷さから目を離せない。
思考がぐるぐると、巡り始める。
この人はどうやって、ここまで追い詰められたのだろう。
どんな恐怖に打ちのめされたのか、一体それは何だ?
彼女を襲った恐怖、それは俺を殺すことも出来るのだろうか?もし、この何かが誰にでも降りかかるものならば…
思考を遮るように、教師達がやって来て生徒を彼女から遠ざける。
それから直ぐに、家に帰らされた。
帰宅中、ずっと思考は回りっぱなしで、気づけば家の前にいた。
家には共働きの両親も中学に通う妹もいない。
制服から着替え、スマホで検索する。
『学生 自殺 原因』
『学生の自殺の殆どは、学業不振や人間関係が大半です。もしあなたにも、悩みがあったら気軽に相談してください。
電話番号は―――――』
スマホを放り投げる。
飛び降りから何日かの閉校日が続き、いつもの学校生活に戻るだろう。
だけど、漠然とした恐怖を抱えたままの俺には、日常を過ごせない。
俺は彼女について、調べ始める。
―――
そこは薄暗い部屋だった。
古めかしい黒電話と紙がばらまかれたテーブル、ところどころカバーが破れたソファに誰かが寝転んでいる。
電話が鳴りだす。
『ふるるるるふるるるる』
『ふるるるるふるるるる』
『ふるるるるふるるる「
受話器をとったのは、白魚みたいな手。
それの持ち主である少女は、気怠げに耳に当てる。
『―――――』
「あぁ、君ぃかぁ。ふうん。そぉ。」
受話器越しの相手に、呂律の回らない舌でどうでもよさそうな返事をする。
玩具に飽きた、投げやりな子供と同じだった。
通話が切れる。相手に話すだけ話させる、情報の一方的な搾取が終わった。
「下らない事件だったなぁ」
傷だらけのソファのアーム部分に頭を置いて、少女は寝転ぶ。
深海のような暗い青と黒が混ざった長髪が床に触れた。
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