最終話 幼女の正体!

「ここがIISの本拠地よ」


 それから走ったり歩いたりヒッチハイクしたりして、到着したのは山の中にある不気味な洋館であった。

 なんか、B級洋画のお化け屋敷みたいな感じだな。


「気をつけて。ここには数十人の重火器で武装した連中がいるはずよ」


 カチャリと、いつの間にか手に銃を装備する今岡さん。

 ……それ、絶対警官が手にしてちゃ駄目なやつだろ。


「ああ、これ? 良いでしょ? バイ◯ハザー◯の主人公のと同じ型なんだ♥」

「なんだって?」

 

「ゲームよゲーム! 嘘でしょ⁉ バ◯オハ◯ードしたことないなんて……」


 絶句されてもなあ。

 俺、ゲームなんてした事ねえし。

 筋肉鍛える日々だったし。

 恋人も友人も家族もいなかったから鍛え放題だったし。


「ともかく、ここに凶悪な武装した危険な思想の連中がいっぱい居るんだろ?

 今岡さんの姪っ子ちゃんも、ここに捕まってる可能性高いんだろ? なら、早く助けにいかねえとな」


 腕が鳴るぜ。

 筋肉もピキーンと言ってる。

 俺の筋肉が、早く戦え! ってな。


 洋館の中に入ると、そこはお化け屋敷そのものだった。

 暗い屋敷内だが、壁や床のあちこちに血の跡があるのが視界に入る。

 まおをここに連れてきたのは失敗だったか⁉


「まお、大丈夫か? 怖くないか?」

「ん〜? なにが〜?」


 ニコニコしてやがる。

 ま、目の前にいないのも不安になるし、連れてきた選択は後悔しても仕方がないか。


 突然、バッと視界が明るくなる。

 ガタイの良い、スーツ姿のおっさんが階段の上に居た。


「警察よ! 大人しく投降しなさい!」

 

「フハハハハハ! よくぞここがわかったな! よもや警察にこの場所が知られていたとはな! だが! 女とおっさんと幼女だけで攻めて……」


 バアアアアアアアアアン!


 今岡さんの銃が火を吹いた。

 あっ、良かった。突然現れたおっさんの耳元を掠めただけみたいだな。

 失禁して気絶したようだ。

 今岡さん、すげえ腕前だな。

 さすがは刑事ってとこか。


 勇者や王女様たちは、そんなわざと外して気絶させるなんて芸当、俺たちマッスル部隊にしようともしなかったしなあ。

 平和な世界に帰ってこれたんだと実感する。


 バアアアアアアアアアン!


 ⁉


「クソ! なんで当たらないんだああああああああ!」

「って! 落ち着け今岡さん! もう相手は気絶してる……気絶してるんだよ!」


 な、なんて女なんだ……ヤベえよ。

 こいつ、外したんじゃない!


 当たらないんだ!


 銃声を聞きつけ、続々出てくるおっさんの群れ。


「な! なんだ⁉」

「ひっ⁉ じゅ、銃⁉」

「うわあああああああ、誰か警察呼んでくれえええええええ」


 ん? なんか……ここ、ハズレな気がしてきたぞ?


 バアアアアアアアアアン!


 パリンとガラスが割れる音がする。


 バアアン! バアアン! バアアアアアアアン!


 次々と発砲する今岡さんの銃だが、何故か全部当たらない。

 でも、おっさんたちは次々と口から泡吹いて気絶していった。


「ハアハアハア……デザートイー◯ル! 使えないわね!」


 いや、今岡さん……めっちゃ使えてるぞ。

 だが、そんな事よりもだ。


「あれ! まお! どこ行った⁉」


 まおの姿が見えねえ!

 銃声に吃驚して外に逃げたか⁉

 だが、出口は閉まっている。

 まおには開けられそうにない。


「お~い! まお〜!」

「パパ!」


 すると、階段の上で倒れてるおっさんの腹の上に乗ってる、仮面を被りスーツに黒マント姿のおっさんが、まおを抱きかかえていた。


 カチャカチャカチャ


「ちっ! 弾切れかよ! つっかえないわ!」


 そんな叫びをして銃を投げつける今岡さん。

 良かったよ、弾切れで。


「何者だ!」


 俺は拳を握り、跳躍して仮面男の前に降り立つ。

 そして、そいつの顔面に拳を叩き込んだ。


 だが……


「避ける……だと⁉」

 

「おっと、凄まじいスピードとパワーだ。何故私が避けれたのか不思議だ。フフフ、これも女神様の導きに違いない」


 俺は魔王を倒した時と同じように、筋肉に力を込めた! ムキッと上腕二頭筋が盛り上がり、腕を曲げて力瘤を作る。


「女神⁉ 一体、貴様たちはなんなんだ⁉」


 俺は拳を握りしめながら、まおを抱き上げているおっさんに向き直り言った。


「私たちは異世界に行って幸せになろう教! 通称IISのメンバーさ! どうだい? 君も女神様にあって転生したり転移したりして、向こうの世界で無双したりハーレム築いたりして、幸せに過ごしたいだろ?」


 何を言ってるんだこいつ?


「ハアハア、この金髪の幼女のなんと可愛らしいことか! だが日本だとこの子にチューしたら即捕まってしまう! でも! 向こうだと最後までヤれるのだ! さあ、君も私の手を取りたまえ! 共に異世界へと渡ろうではないか!」


「まおを離せ!」

「そうはいかん! せっかく幼女に触れてるのだ! もっと抱っこしていたい!」


 俺は筋肉を隆起させて、そいつに肉薄した。

 だが……拳は空を切る!

 くそう! 素早いヤツだ!

 いや、違う……これはもしや?


「まお……そいつ殴るから魔法で逃げないでくれないか?」

「痛いのやーやーなの!」


 やっぱりかよ!

 まおの身体が淡く光ってやがるから、そうだと思ったぜちくしょう!


「ま、魔法だと⁉ やはり女神の神託は事実だったのか。近々、異世界の偉大なる御方が幼女姿でやってくるというのは!」

 

「なんだ……それ? そんなくだらない理由で、次々と幼女を誘拐してたのか!」


「くだらないだと⁉ 貴様になにがわかる! 俺たちおっさんが、どれだけJSにJCにJKにJDにOLに迫害されてると思ってるんだ! 貴様もおっさんならわかるはず! さあ! 共にくだらない日本から脱出し、女神様に祈って、異世界へ渡ろうではないか!」


「誰かを犠牲にしてまで、幸せになろうとか考えてるんじゃねえええええええええ!」


 今度こそ俺の拳が、おっさんの顔面を抉っていく。

 死にはしないさ。

 異世界の魔王を倒した時の、千分の一のパワーに抑えたからな。


 ドゴン! バキイ! と、おっさんは吹っ飛び、そのまま気絶するのであった。


「異世界行っても……俺は幸せになれなかったさ」


 そんな俺の呟きは、虚空へと消えていった。


 今岡さんがこちらに来る。

 その目には涙が浮かんでいる。

 あれ? この人も泣くんだ?

 も、もしかして俺の呟きを聞いて……同情してくれてる⁉


 これはもしかして……恋の予感⁉


「私が中学時代に作った組織が……こんな教団に成り果てるなんて……」


 ……聞かなかったことにしよう。


「それより、まおちゃん平然としてるわね。大物ね」

「おおもの?」

 

「そ、大物よ」

「えへへへ」


 照れるな。褒められてないぞ?

 それより、まおの事情も聞かなきゃならないが、まずは誘拐されたっていう、今岡さんの姪っ子ちゃんを探さなくては!


「花音ちゃ〜ん!」

「お~い、いたら返事してくれ〜」


 洋館を捜索しつつ、俺は今岡さんと共に誘拐された女の子の名前を叫んでいく。

 すると、どこからかテレビの音声が聴こえてきた。

 ケタケタという、幼女の笑い声も耳に届いてくる。


「この邪悪な笑い声! 花音に間違いないわ!」

「え? 4歳の幼女なんだよね?」


 走り出す今岡さんに付いていく。

 すると、でかいテレビでアニメを観ながら、煎餅とジュース飲んでる、一応めっちゃ可愛い赤髪幼女がいる部屋を見つけたのであった。


 え? なにこれ? 誘拐されてたんだよね?

 ただ、俺の鍛えた筋肉が危険を告げる。

 なんだ? 何が危険なんだ⁉


「ああもう! せっかく魔王軍が有利だったのに、どうしてわけのわかんない邪魔されて、倒されちゃうのよ! ああもうムカつく! ダークファンタジー以外てんで駄目ね。正統派作品なんてクソよクソ!」


 なんか……アニメ観ながらブツブツ文句言ってるんですけど。

 絶対4歳じゃねえだろ⁉


「花音! お姉ちゃんよ! 無事でよかった!」


 今岡さんが花音ちゃんに抱きつく。


「げっ⁉ 香澄叔母さん⁉」


 驚愕する花音ちゃんの首がコキュっと曲がる。


「花音! お姉ちゃんよ! お・ね・え・ちゃ・ん・よ」

「ヒャワ……香澄お姉ちゃん……は⁉ ふえ〜ん。怖かったよ〜」


 なんか色々と釈然としないが、まあいいや。

 終わりよければすべてよしってな!


「ん〜? カノン?」


 まおが不思議そうに、花音ちゃんを見つめると彼女は硬直した。

 そしてまおが何かを呟くと、今岡さんが瞼をトロンとさせて寝転がっていく。


「マオ様⁉ と、という事はマオ様もマッスル部隊というわけのわかんない連中に屠られ、こっちの世界に飛ばされてしまったんですか⁉ きええええええええい! あの忌まわしきマッスル部隊の隊長とやらめええええええ! 絶対殺す! 絶対向こうに帰って殺してやる! ……でも良かったです。魔王マオ様! 再び出逢えて……この魔王軍十魔将が1人、カノンは幸せです!」

 

「まおも〜逢えて嬉しい〜」


 ……⁉ あ、なんか今、聞き逃せない単語がいっぱい聴こえてきたぞ?


 ヒシっと抱き合う幼女たち。

 ホロリと涙を流す花音ちゃん……


 いや……異世界で魔王軍を率いて大都市をいくつも滅ぼした、残虐非道の悪鬼将軍カノン。

 確かに、容姿端麗で人を見下しまくった、赤髪ロングでボンキュッボンだった当時の面影が身体付き以外は残ってるかも。


「あの〜、ちょっといいかな?」


 置いてけぼりになってる俺は、恐る恐る幼女たちに声をかけるのであった。


「は? おっさん! なに見てんだよ! ぶっ殺すぞこらあ!」


 ガンを飛ばしてくるカノンだったが、俺の顔をマジマジと眺めて、青褪めていく。


「ひえ……私を殴り殺した……わけわかんない化物……マオ様、たしゅけて」


 ガタガタ足を震わせるカノンだけど、人聞きが悪過ぎる!

 幼女を殴る趣味も泣かせる趣味もないっつーの!


「えっと、花音ちゃん、ちょっと待っててね。……まおは魔王なのか?」


 まおに向き合い、目線を合わせるようにしゃがんでいく。


「クスッ……今頃気づいたのか。ホント、なんでこんな化物が私たちの世界に来たのよ……私の世界征服の野望が……ふええええええええええん」

 

「泣き声だけ幼女って反則だろ! 絶対俺悪くないよね⁉」


 なんてことだ!

 魔王が……俺と一緒に日本に来てたなんて!

 しかも幼女だと⁉ 角はどうなったんだよ⁉

 更に魔王軍の大幹部も、こっちに来て幼女だと⁉


「あんたに殺されて……私は女神のクソッタレに会ったのよ!」


『生きるチャンスを与えましょう。後藤京也の娘として、ですがね』


「……なんて言ってきたのよ。……正直、めちゃくちゃ悩んだわ。なんで、化物の娘になってまで生き延びなくちゃならないのよって! でも女神はこうも言ったわ」


『後藤京也の夢は童貞を捨て、可愛い幼女と共に過ごして平和な日々を送ること。……童貞はどうしようもありませんが、彼の功績に私はキチンと報いたいのです……』


「ってね。しょうがないじゃない! こうするしか、私が死ぬってのと、私が欲した大陸が滅ぼされるなんてバッドエンド、回避できなかったんだから! ふええええええええええええええええん」


 ええ……


 ちょっと待て。

 まおが魔王だったのはこの際もうどうでもいい。


 女神様……俺の童貞って生涯確定なんですか?


 俺の頬に一滴の涙が伝わった。

 

 こうして、幼女連続誘拐事件は無事解決したのであった。


 警察車両がいっぱい来て、IISのメンバーは逮捕され、今岡さんは駆けつけた上司や同僚たちに、事件の概要と顛末を、まるで自分には何も非が無いかのように自慢気に話してた。


「ん! デザー◯イーグル! こんな凶悪な銃まで手に入れてたのか⁉」 

「あっ⁉ それは!」


「どうした今岡! キチンと報告しろ!」

「……連中がバンバン撃ってきたんです! 音凄くてめっちゃ怖かったです!」


 今岡香澄は、なんとか解雇の危機を脱したのであった。


 そんな中、幼女たちもヒソヒソ声で会話をしていた。


「私がこっち来たんです。他の十魔将も来てるかなあと思って、それっぽい見た目の幼女攫うようにおっさんたちに指示してたんですけど……」

「シー、カノン。それは口にしないでいいよ。ほら、あの連行されてるおっさんたち見なさい」


 おっさんたちは手錠され連行されながらも誇らしげに、幼女が真犯人なのを隠し、護りきる喜びに恍惚としていたのであった。


「でもなんでカノンも誘拐装ったの?」

 

「えっと、それがですねえ。……恥ずかしながら深夜アニメに嵌まってしまって……こっちの両親からブチギレられたんです。だからお金だけ貰って、毎日アニメ観て過ごそうかと思ったんです。あっ! 今度一緒に見ましょうマオ様! 魔族が勝つのもいっぱいあるんですよ!」


 カノンのキラキラした瞳に、マオの瞳も輝くのであった。

 

 数日後、俺は公的に死亡していた事実が覆され、戸籍を回復した。


 そして、敷金礼金無しのボロアパートを借りれたんだが……


「あのお、まお、花音ちゃん? スマホってのでずっとアニメ観てて疲れないのか?」

 

「ちょっと! 今良いとこなの! パパは黙ってて!」

「ここです! この技! これなら如何にマッスル部隊だろうが勝てるはずです!」


 何だかなあ。

 まあ、他に娯楽を与える事も出来ないし、仕方がないか。

 俺も腹筋するかな。


「う……汗臭い」

 

「マオ様……いずれ独立したらこの男を捨てて、一緒に暮らしましょう! 汗の臭いのしない楽園で! あっ、いえ、マオ様の汗の匂いでしたら全然平気ですので、汗が嫌というわけではありません!」


 ちょっ⁉ もう俺が捨てられる前提で未来見据えてんの⁉

 ショックを受けつつ、大腿四頭筋を鍛えるべく、サイドスクワットを開始する。


「998……999……1000」


 今日も朝から元気に筋トレ。

 さて、役所の手続きや警察の事情聴取ばっかでまだ職を見つけてないし、今日はアルバイト情報誌でも眺めてるとしますかね。


「後藤さん! 大変です! 力を貸してください!」


 何故か俺の部屋の鍵を持ってて、ドアを開ける今岡さん。


「なんで鍵持ってんの⁉」

「そんな事より! 事件なんです! これ解決しないと私のクビが確定しちゃうんです!」

 

「それ……俺と関係あるの?」


 疑問に思う俺だが、今岡さんは花音ちゃんに向かってウインク。


「はい! 後藤さんが香澄お姉ちゃんに協力しないなら! 誘拐されたとして騒ぎます!」


 花音ちゃん? 直立不動して何を言ってくれてんの⁉


「パパ、カノンのお姉ちゃんなんだがら協力してあげるの〜」


 くっ! まおまで⁉


「さあさあ後藤さん! 早く行きますよ! ……まおちゃん! 花音と待っててね!」


 こうして、異世界から魔王を倒して戻った俺は、何故か娘になった元魔王と暮らしながら、今日も忙しくなりそうな事件に巻き込まれるのであった。


 ま、筋肉があればなんとかなるだろ。

 

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異世界行って世界救ってもモテなかった俺が、現実に帰ったら娘も一緒だった件 ハムえっぐ @hameggs

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