第2話 信頼

「よかったのか?本当に、あの者で」


利彗が聞いてくる。

いきなり、颯鵠が仙華を連れてきたのだ。利彗だって驚くに違いない。


「申し訳ありません、陛下。陛下のご期待に応えれるような者です。どうか、追い出さないで」


「ああ。そなたがそこまで言うならば、仙華とやらを余のそばに置くことにしよう」


「ありがとう存じます」


仙華はきっと、あの者の娘に違いない。

あの者の血を引くものさえ生きていれば、この国は安泰なのだから。


「颯鵠、ひとつだけ聞かせてくれ」


颯鵠は首を少しだけ傾ける。


「なんでしょう」


「何故あの者だとわかった…」


「さあ。自分でもよくわかりません」


自分は直感に優れている方だとは、断じて思えない。

なんの能力も持っていないのだから。

けれど何故か、絶対にあの仙華はあの者の娘だと、強く思った。


「そうか…。しかし…何処かに生きていないものだろうか…」


「生きていたら、この国はもう安泰です…。私の存在は必要ないくらい」


「いや、そなたは絶対にいる存在だ。あの者が生きていたとしても、絶対にそなたは必要だ」


必要とされているのは嬉しいが、本当に自分がこの者に仕えていて嬉しいのか、さっぱりわからない。


「そう…ですか」


「ああ、絶対に」


「ありがとう…ございます…」


颯鵠は何処か悲しげに微笑む。

本当にこの者に仕えていていいのだろうかと、迷いながら。


「さて、あの者を見に行くとしよう」


「はい…」


裏切っても、この者ー利彗は怒らないだろうか。

裏切り前提ならいっそうのこと、この者から離れしまおうか。

かなり迷った。



◆❖◇◇❖◆


拾って(?)もらったからにはそれなりの仕事をしなければならないが、颯鵠の命令で後宮に来た者の、何をすればいいのかまったくわからない。


「仙華」


「颯鵠さま…?」


「待たせてしまってすまないね。陛下と話し合った結果、君には私の愛しい陛下の世話係をしてもらおうと思うが…いいかい?」


いいだなんて。

捨てられてしまった自分を拾い(?)助けてくれた者の頼みで、死ぬ以外ならなんでもする。

そんな勢いだ。


「はい。あなたさまがお望みなら、わたくしはどんなことでもいたします」


「私の頼みなら、か…。ありがとう」


「何か…ございました?」


何も知らない庶民風情の自分が聞いてもいいわけがない。

けれど何故か、聞かなければならない気がして、ならなかった。


「何もないよ。心配してくれてありがとう。でもこれからは、自分の心配をしなくてはならないかもしれないね」


「えっ…?」


仙華は顔を颯鵠がいない方に向けた。


「だって君は、皇帝の世話係になったんだ。だから自分自身を心配できるようにならなくてはならない。なんだって、あの後宮の鬼ともいわれている、令楓れいふうがいるんだから」


名前だけが風格だよ、とでも教えるように颯鵠は微笑した。

度胸が据わっていそうな颯鵠でさえも恐ろしいと思うのだから、恐ろしいに違いない。

けれど、拾って(?)もらったのだ。

やるべきことは、きちんとやらなければ。

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婚約破棄された後宮女官〜後宮でハッピーライフを送ります〜 𦚰阪 リナ @sunire

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