婚約破棄された後宮女官〜後宮でハッピーライフを送ります〜

𦚰阪 リナ

第1話 婚約破棄されて、幸せになります

豪華な屋敷、衣、装飾品…

何から何まで自分には勿体なさすぎて、申し訳ない。

自分にはこのようなものは似合わなない。

ですが今日、なんと、婚約破棄されます!


「お前には今日、この屋敷から出て行ってもらいたい」


突然言われたこの言葉。

婚約破棄を言い渡された徐 仙華じょ せんかはあまりにも突然なことすぎて、驚きを隠せないでいた。


「賢い君なら、これがどういうことか、わかるかね?」


「はい…」


を持ってきなさい」


赤地に、唐草文様からくさもんようが描かれた布の中には恐らく、仙華の荷物が入っているに違いない。

その荷物は婚約者の命令で侍女が持ってきたものであり、無理やり仙華を追い出そうとした証である。


「こちらです」


「お気遣い…ありがとうございます。どうか、皆さまもお元気で」


当然帰る家もなく、住み込みで働けるような仕事も知らない。

困った。これからどうして生きていこう。

仙華はぺこりと婚約者と侍女に頭を下げ、この屋敷ーりん家を出ていった。


「少しいいかい?」


真っ白な上衣下裳じょういかしょうを着た男性が、仙華に声をかけてきた。

仙人かのような顔、綺麗に整えられた黒い髪。それから、吸い込まれそうな深い藍色の目。

何もかもが美しく、仙華は思わず息を飲む。


「はい…」


「君に少し、話したいことがある。だから朝廷ちょうていまで来てくれないか?」


「ちょ、朝廷?!待ってください!あなたたちは何者なんです?!いきなり朝廷に来いと言われても…」


「いいから。皇帝陛下がお呼びなんだ。早く来いと、命令もあることだしね」


「あの…」


仙華は恐る恐る聞く。


「私は紫 颯鵠し そうこく。陛下の補佐、宰相さいしょうをしている」


「そのお年で?」


「ああ。驚いたか?」


宰相は皇帝の補佐をする大切な役職で、かなり歳を重ねていないと就任すらできない。

20代前半のこの者が何故、そんな大切な約職に就けたのだろう。


「まあ、いろいろあってね」


「そうなん…ですか?」


「ああ」


意味ありげな表情で、颯鵠が言う。


「い、行かせてください」


簡単に承諾してしまっていいのだろうか。

だが、承諾しなければ自分は路頭に迷うだけだ。今度こそ。


「わかった。ありがとう」


颯鵠が微笑む。

まるで、このことを知っていたかのように。

なんだろう。この気持ちは。

普段の自分なら、怪しくて拒んでいただろうに、今回だけは断ることができなかった。



◆❖◇◇❖◆


「連れてまいりました、陛下」


(こんな娘が、颯鵠の言う例の女…?)

ありえない。こんな地味で、なんの取り柄もなさそうな娘をあの颯鵠が拾ってくるなんて、と神国の皇帝、利彗りすいは唖然とした。

あまりにも信じられなかったのだ。


「そこの女、表を上げよ」


「は、はいっ…!」


「颯鵠、この女か?」


利彗の問いに颯鵠は目をつぶりながら深く頷く。


「はい、その娘でございます」


「なるほど…よかろう」


利彗はその娘に近づき、とある命令をした。


「そなたはこれから、余の世話係の女官にょかんとして後宮で働いてもらう」


「…はい、かしこまりました」


驚いた。いやです、と懇願するとおもったから。

だが、こちらとしてはよかった。

この娘を探せだせたのだからー



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