第8話 Sクラス

俺たち三人は、ご飯を食べた後、入学式へと向かい、開会式を受けてきた。

そこでは教師陣一人一人のスピーチを聞き、学院の概要や校則などの学院で活動を送る上でのルールなども教え込まれた。


途中、面倒臭そうにぐったりと椅子に座り込む美沙雪さんがチラチラと視界に入りながらも、俺たちは真面目に話を聞き、無事、入学式を終えた。


もちろん、俺の新入生代表スピーチもやった。

教師陣のスピーチの後に行われたそれは、もう、俺の記憶には残っていない。


緊張しすぎたせいか、俺は全くと言って良いほど、何も覚えておらず、成功したのか失敗したのかすらわからずじまいだった。

後にユーリにこのことを尋ねてみたのだが、彼女は笑顔で「よかったよ!」と言う反面、クレアにも同じことを聞いてみると、微妙な顔をされていたので正直、不安は拭えなかった。



しかし、過ぎたことをぐちぐちと考えていても仕方がないだろう。

俺は心に違和感を残しながらも、三人で次の目的地へと向かった。


「それで、クレア、次はどこに行くんだ?」


「次は各クラスの教室で行われる説明会を受けに、新しい教室に移動中よ」


「新しいクラスメイト、楽しみだね、カイン、クレア」


言い忘れていたが、この短い時間で進展もあった。


俺とクレア、そしてユーリは、皆、下の名前で呼び合うことにした。

その際の敬語もなし。

まあ、これからも仲良くしていこう、と言う友達表明の一種だ。


その際のクレアと来たら、顔を真っ赤にしながら俺たち二人の名前を呼ぶものだから、少し笑ってしまった。

まあ、笑っているのがバレて、しっかりと怒られた制裁されたが。


そうこうしている内に、俺たちは新しい教室へとたどり着いた。


立ち止まり、新教室への扉を眺める。


「お、大きいな...」


「う、うん。すごい、大きいね...」


人三人分はあるかという大きさの扉に俺とユーリは唖然とする。

瀟酒で高そうな、その門とも呼べるような扉は、田舎者で木細工に慣れ親しんだ俺たちには、少々刺激の強いものだった。


しかし、キョトンとこちらを不思議そうな顔で見るクレアは、俺たちが何に驚いているかわからない様子で、何度も扉と俺たちを交互に見ては、首を傾げていた。


「これって、大きいの?」


「さすがは、大貴族様だな...」


未だ戸惑いを見せるクレアを引き連れて、俺たちは扉を押して、開く。

開けた先には、静かで、穏やかな、新しいクラスが.....ん?


「あんた!、ここで会ったが百年目!!、マっジで、ぶち殺してあげるからさっさと降りて来なさい!!」


「ちょ、待て!、模擬戦で負けたからって腹いせに刺してこようとするんじゃねえ!!あっぶね!」


「さっさと刺されてくれないかしらっ.....!!」


爽快な風切り音と共にやってきたクラスの第一印象は、困惑の一言だった。

金髪のツインテールをした女子生徒が、自分のレイピアを抜き出し、階段上にいる茶色短髪の男子生徒を突きで刺そうとしていた。

そして、先ほどまで気づかなかったが、その奥で静かに外を眺める薄い金色の長髪の男子生徒もそこにはいた。


まさに、波乱の一言。

一体何がどうなっているのか...クラス、間違えたか?


戸惑いの色を見せていると、ピタリと、俺たちの来訪に気がついたのか、三人ともこちらを向きその動きを止めた。


表情が変わる。

三人全員に汗が流れ始める。

こちらを緊張の面持ちで見ながら、一言も発さず、動かずに彼らは止まっていた。


一体どうしたのだろうか?

ふとそんなことを思い、彼らの視線の先を見る。

すると、そこには、天下の神童、クレアがいた。


そこで俺は気が付いた。


ああ、なるほど、クレアは名家の天才児だ。

家柄も能力も完璧な彼女に、恐れをなしているんだろう。


ならばと、俺は気にすることなく、教室を突っ切っていった。

後ろから残りの二人もついてきて、慌ただしかった教室は、一瞬にして静寂に包まれた。


心なしか、クレアよりも俺の方に視線を向けている雰囲気があったが、多分気のせいであろう。

俺なんかに目を向けるやつなんて、いないしな。


そうして俺たち三人仲良く、横並びで階段状になっている席の一つに座る。

なんだか、少し狭い気もするが...まあ、良いだろう。


そんなこんなで時間を潰していると、先生がやって来た。

それを見た他の奴らも、固まっていた体をほぐし、教室の席へとおとなしく座った。


「ふぁ〜、おはよう、諸君」


「「「おはようございます」」」


入って来たのは、先ほどの入学式で見かけた、一人のやる気のなさそうな先生だった。

茶髪の長めの髪に、半開きの目、だらしない服装に、剃り残しのある髭。

見た瞬間に、両隣の二人が悍ましい顔で見ていたのがわかった。


まあ、確かに不潔そうに見える。

俺が女子であったなら、多少嫌悪するのも納得できるだろう。


だが、クレアよ、その顔は少々先生側も傷つくんじゃないか...?


横を見てみれば、この世のものとは思えないものを見るような目で先生を見つめるクレアが見える。

まさに、汚物を見る目だ。

あんな目で見られたら、俺は多分持ちこたえられない。主に、精神面で。


そう、胸を痛めていると、先生は教団につき、怠そうにしながらも説明会を始めてくれた。


「あー、では、説明会始めるぞ...」


だらしないながらも、彼は学院をやっていく上でのルールなどの説明を詳しく教えてくれた。

すると、次第に不快な顔をしていた女性陣も、姿勢を正し、その話に聞き込んでいた。


説明会は数十分にも及び、最後に先生の言葉により終わりを迎えた。


「よーし、まあ、こんな所だな。なんか、質問あるか?」


皆、首を横に振り、それを確認した先生は、「そうか」と一言言って、自己紹介を始めた。


「あー、せっかくだから、自己紹介を済ませておこう。俺は今年度Sクラスの担任の星川だ。こんな名前なのは、学園長と同じ、東方の国からやって来たからだな。一応、あいつよりは魔剣の心得があるつもりだ。みんなよろしく」


そう自己紹介を終えた星川先生は、次は俺たちへと振った。


「あー、俺が自己紹介したんだ、ついでにお前らも名乗っとけ。じゃあ....まずは、そこの、金髪ツインテール。お前から行け」


「は、はい!」


そう、星川先生が彼女に指を刺すと、彼女は少し緊張しながらも立ち上がり、あたりを見回してから自己紹介を始めた。


「私の名前は、リーン・フレイヤ。この王都の伯爵家の一つ、フレイヤ家の次女よ。リーンって呼んで!、得意な属性は、火と風。好きなものは、うちのメイドが作るチョコパイ!、そして、嫌いなものは、あそこにいるその短髪男よ!、まあ、他のみんなとは仲良くしたいわ、よろしくね!」


自己紹介の途中で、ギラリと横を睨み付けたリーン。

それを鋭く感じ取ったのか、青ざめた顔で座り込む短髪男の姿が見えた。


「よーし、じゃあ、次はそこの紹介に預かった短髪、行け」


「はあ〜.....はい...」


ゆらゆらと疲れた表情で立ち上がり、彼もまた、自己紹介を始める。


「あー、俺の名前は、レグルス・モートンだ。気軽にレグルスって呼んでくれ。得意な属性は、土と水だ。好きなものは、肉料理全般!、そして嫌い....いや、苦手なものは、そこにいるリーンだな。みんなとは仲良くできることを願ってる。よろしくな」


疲れた顔でリーンの方を見たレグルスは、彼女の怒り顔でその視線に返答された。

燃え盛るように怒れる彼女に、レグルスは顔を顰め、再び席にどっさりと着いた。


入学初日ですでに、大変な関係のようだ。

俺は、レグルスの無事を胸に祈りながら、次の人の自己紹介を聞く。


「よし、じゃあ、次。そこの、長髪男」


そう言われ、彼はスッと、静かに立ち上がる。

掛けていた眼鏡を直し、ヒラヒラの白いローブを靡かせて、彼は声高らかに喋り出した。


先ほど、教室の端で静かにしていた彼だ。


「よくぞ指してくれました先生!、私は、天に愛され、神に恵まれ、そして、いずれ最っ高の魔剣士になるであろう天才児....ヘディン・クライストである!!、皆、拍手ッ!」


机の上に乗り出し、両手を広げた彼の盛大な自己紹介に、教室の空気が凍りつく。

同時に、このクラスの彼以外の全てのクラスメイトが同じことを思った。


(((あ、この人、やばい人だ)))と。


星川先生含め、クラスの大半が彼へと向ける視線をクラスメイトから、完全な不審者を見る目へと変える。

このどう対処していいかわからない状況に、唯一、無表情を貫くクレアは静かに言った。



「うるさくて、つまらないわね、あなた。早く終わらせてほしいわ」



その氷のように冷たい一言を予想だにしなかったヘディンは、自分の体に何か刺さったかのように硬直した。

すると、よろよろと先ほどの元気はどこへ行ったのか、ヘディンは萎れた風船のように席へと戻り、自己紹介を続けた。


「え、ええと....私は....クライスト家の....嫡男であ、る....。ええ..得意属性は、風と光、土と火の四属性である.....仲良くできることを、願っている....よろしく.....」


どこか傷ついたような彼の自己紹介は、尻すぼみに終わった。

よほど、先ほどのクレアからの一言が刺さったのだろう。


意気消沈しているヘディンを尻目に、星川先生は次の人の自己紹介に移行した。


星川先生もまた、教師としては無関心すぎる気もしないが....あの態度なら納得かもな。


「あー、じゃあ...銀髪娘、次頼む」


「はい」


言われ、隣に座っていたユーリは席から立ち上がる。


「私の名前は、ユーリ・リーテリア。隣にいるカインと同じツキノ村っていう所から来たの。得意な属性は、闇属性以外の全部。好きなものは......ええと......秘密かな....コホン、嫌いなものは、特にないかな。王都より遠いところから来た田舎者だけど、よろしくね」


そう元気よく自己紹介をした彼女は、クラスメイトの拍手と共に席へと着いた。

途中、チラチラとこちらの様子を伺うように見ていたが、まあ、気にすることはないだろう。


星川先生もユーリの完璧な自己紹介に拍手をし、次の生徒の自己紹介へと移った。


「あー、じゃあ、次は....ああ、。お前がいけ」


「はい」


星川先生にを呼ばれ、俺のもう片側に座っていた彼女は立ち上がる。

深く、綺麗な青い髪を靡かせ、彼女は可憐に自己紹介を済ませる。


「私の名前は、クレア・リーズフェルト。四大貴族が一つ、リーズフェルト家の長女よ。得意属性は水。だけど、苦手な属性はない。好きなものは、剣術。嫌いなものは、特にないわね。まあ、これからクラスメイトとして、よろしく」


自己紹介を終えた彼女は、席へと着き、クラスメイトの息を呑むような静けさに包まれた。

俺とユーリは彼女の自己紹介に拍手をしていたが、他のクラスメイト達は拍手もしないで、緊張した目で彼女を見ていた。


単に言うと、みんな、めちゃくちゃ警戒している。


俺とクレアの自己紹介の順番、逆なんじゃないのか?

この後の俺の自己紹介とか、プレッシャーでどうにかなりそうだが.....まあ、無難にやるか。


「よし、じゃあ、最後。、お前が行け」


威圧感たっぷりな俺の友人の自己紹介の後に、俺は重荷を感じながらも立ち上がり、自己紹介を始めた。


「ええと、さっきユーリからも紹介があった、カイン・ツキノだ。得意属性は属性全般で、苦手な属性は特にないかな。好きなものは、魔剣術。嫌いなものは、特にないな。さっきもユーリが言った通り、田舎者の俺たちだけど、どうかよろしくな....」


クラス最後の新入生が自己紹介を終える。

俺は、そんな状況であたりを見回し、クラスの半分が青い顔をしながら、こちらを見ていることに気がついた。


そして、その半分というのが、リーン、レグルス、ヘディンの三人だ。

俺の隣の二人は、俺に向かって笑顔で拍手を送ってくれていた。


俺がチラッと彼らの方を見ると、彼らは半分怯えたように、半笑いでこちらに手を振ってきた。



お、俺って、そんなに怖がられるようなことしたかな?

新しい学院に来て、友達を多く作れると思っていたんだが.....先は長そうだ。


「よし、じゃあ、お前ら、今日は解散!、明日の8時に学校に来いよ!」


こうして、俺のアルカナ魔剣士学院での初日は過ぎていった。

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無魔の魔剣士〜謎の男に修行をつけてもらったら最強になった〜 ヤノザウルス @Yzaurusu

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