第7話 入学
試験が終わった後日、俺とユーリは結果を確認するべく、再度学院へと向かい、クラス分けの張り出しを確認していた。
その張り出しには、今回入学を果たした全受験生の名前がクラス区切りで書いてあり、そこには当然、多くの新入生が群がっていた。
俺とユーリはその群の中を押し進み、自分の名前を確認するべく、前へと出た。
「えっと....ユーリ....ユーリ....あ、あった!、見てカイン、私Sクラスだって!」
「Sクラス!?、す、すごいな」
「ふふーん、でしょ!」
どうやら昨日の模擬戦の判定で、ユーリはSクラスの実力があると判断されたらしい。
この学院では、クラスを下から、E、D、C、B、A、Sと6段階で分けているらしく、入学した生徒たち一人一人の技術を見て、クラス分けをするらしい。
クラスを分けていると言っても、この学院のEクラスでも、世間から見ればかなりの実力を持った生徒たちで構成されており、他の学院に入学すれば、間違いなくトップを狙えるほどの者たちばかりだと言う。
そして、当然ながら、Sクラスともなれば、国中の精鋭が集まる魔境のような場所になっており、このSクラスを卒業したものは皆、高名な魔剣士へと成長し、歴史にその名を連ねてきた。
そんなSクラスにユーリが入る。
それはつまり、そんな化け物たちの中にユーリは交ざれる判断されたのだ。
彼女の結果に驚き、惚けつつも、俺はハッと振り返り、自分の名前を張り出しにて探す。
彼女ほど結果は良くなくても、せめてどこかには俺の名前はあるはずだ。
そうワクワクして、自らの名前を捜す。
まずはSクラスから。
Sクラスの表記を上から下まで隈無く捜す。
途中、俺と対戦をしたクレア・リーズフェルトさんの名前を見かけたが、残念ながら俺の名前は載ってはいなかった。
まあ、ここまでは概ね、予想通りだ。
別に俺がSクラスに入学できるとは、ハナから思っていない。
ユーリと同じクラスでないのは少し寂しいが、そこまで気を落とす必要はないだろう。
そう思い、気を取り直して俺はAクラスの表も見る。
しかし、未だ俺の名前は連なれていない。
「あ、あれ?」
少し焦り出し、俺は他のクラスの名簿も確認する。
しかし、Bクラスも、Cクラスも、Dクラスも、はたまたEクラスの表にまで、俺の名前は見当たりはしなかった。
「俺の名前が、ない...?」
その結果を見て、俺は絶望する。
俺の名前が書かれていないと言うことは、俺はどのクラスにも出席するに値しないと言うこと。
つまり、入学初日にして、俺はこの学院に不必要だと判定された。
「そ、そんな.....」
俺は膝をつき、手を地面につけて四つん這いの状態で嘆く。
模擬戦の手応えは結構あった。
あれなら、Bクラス、せめてCクラスぐらいは行けると思っていたのだがーー。
「思い上がりすぎたな...」
希望を無くし、ユーリと美沙雪さんを失望させたことを、心の底から嘆く。
それを横から見ていたユーリはあわあわと慌て出し、手をつく俺になんと声を掛ければいいのかわからない様子だった。
「え、えーと...カイン....あの、その....えっと....」
二の句が告げないユーリと絶望する俺。
そんな俺たちが見えたのか、一人の女性が心配そうに近寄ってきた。
「どうかしたの?」
颯爽と新入生の列を割って入ってきたのは、深い青が特徴の髪と瞳を持った、整った顔立ちをした一人の新入生だった。
「クレア・リーズフェルトさん....」
「昨日ぶりね、カイン・ツキノ。それで、あなたはそこに突っ伏してどうかしたの?」
あまり表情を動かさないながらも、心配気にこちらを見つめてくる彼女に、俺は事情を説明する。
「実は、クラス分けの名簿表に俺の名前がどこにもなくて、それで....」
「....なんですって?」
情けなく自分の惨敗ぶりを彼女へと話す。
すると、彼女は怒ったように俺の横を通り過ぎて行き、名簿表を確認しに行った。
身の毛がよだつほどの怒りを露わにした彼女は、名簿表の情報を一目見て、その怒りを消した。
すると、彼女は溜め息を吐き、頭を片手に埋めながらこちらへと帰ってきた。
「えっと、どうしたんですか?」
不意に、そんな劇的な表情の変化をした彼女に、俺は思わず何があったのか聞く。
すると、彼女は呆れたように返答した。
「あなたの名前、あったわよ」
「ほ、本当ですか!」
「ええ、ほら、あそこに」
彼女の驚きの言葉に俺は耳を疑う。
いくら捜してもなかった俺の名前は、どうやらあの名簿表にあったらしい。
俺は、クレアさんの指し示す方向を見る。
それは、SからEまでの表の上側にあり、そこには、こう書かれてあった。
『新入生代表:カイン・ツキノ クラス:Sクラス(特待)』
「お、俺が、Sクラスの新入生代表...?」
その驚きの事実に俺は目を疑う。
まさか、俺がSクラスと言う名誉あるクラスに入学できただけでなく、新入生代表という肩書きまでをももらうなんて。
そんなこと、本当にあるのか?
あり得ない記載に未だ驚きを隠せない俺に、隣にいたクレアさんは言った。
「当然でしょう。あなたは、この私を倒したのだから。もっと、胸を張っていいのよ、というか、張りなさい」
「そ、そうかもな...」
俺はその事実に未だ体の震えが収まらない。
絶望の表情は喜びの変わり、俺はものすごくワクワクしていた。
入学できたのならば、やることは山積みだ。
学業に勉強、それに何より、修行に友達作りだ。
俺はこれから送れるであろう、楽しいキャンパスライフに胸を躍らせる。
まあ、だがその前にまずは、入学式の準備だな。
「よし、じゃあ、入学式にーー」
とそこで、俺たちを引き止めるように、遠くから声がかかる。
「ちょっと、待ってくれ、カインくん!!」
呼ばれ、自分の後ろ側を見れば、そこには美沙雪さんと、隣に執事姿のおじいさんが一緒にこちらへと向かって来ていた。
「あ、美沙雪さん!」
いつも通りな気軽な感じでこちらへとやってくる美沙雪さん。
また軽く挨拶でもして、世間話をしよう。
そう俺とユーリは思って彼女の方へと向かうが、周りの雰囲気はどうやらそうでもないらしい。
「あ、あれって、が、学園長!?」
「え、学園長って...じゃあ、あれが、大賢者様!?」
俺たちの周りにいた新入生たちは、美沙雪さんが登場するや否や一気に騒がしくなる。
それはどうやら、クレアさんも同じなようで、彼女もまた、美沙雪さんの登場に驚いていた。
「クレアさん、何をそんなに身構えてるんですか?」
俺が不意にそう聞くと、彼女はバッとこちらを振り返り、あり得ないと言った表情で俺の肩を掴んできた。
「今、私たちの前にいるのが誰なのかわかっているの?」
そう、鬼気迫る表情で俺に質問を投げかける彼女に対して、俺は少し戸惑いながらも返答する。
「誰って...美沙雪学園長...?」
「はあ...あなたって、世間知らずなのね。まあ、良いわ、教えてあげる」
彼女はそう言って掴んでいた肩を離し、呆れ顔を直して俺に話した。
「彼女、美沙雪学園長は、この魔剣士が主流の時代で、ただ一人、魔法と魔術で先頭まで駆け上がった正真正銘の天才よ。基本、魔術や魔法よりも魔剣の方が優れているとされる中で、彼女は、その魔術や魔法を魔剣レベル....いや、それ以上のものに仕上げ、まさに時代の覇者となったわ。そして、そんな彼女に畏怖と尊敬を込めて、皆、魔導の天才ーー大賢者として彼女を祭り上げたの」
「美沙雪さんって、相当すごい人だったんだな....」
明かされた美沙雪さんの異例の過去に、俺とユーリは驚きを隠せずにいた。
と言うより、ユーリはどうやらこのことを知らなかったらしい。
俺と一緒に驚いた様子で彼女を見つめていた。
まあ、無理もない。
俺と一緒の田舎者だし、世間を知る機会なんてほとんどなかったからな。
しかし、どうやら今までの関係値での印象の方が強かったのか、ユーリは羨望の眼差しをすぐに取り消し、いつもの態度で彼女へと接した。
「こんにちは、学園長」
「やあ、やあ、ユーリくん....て....今、君何か失礼なことを考えていなかったかい?」
「いえ、いえ、そんな、学園長に失礼なことなんて考えるわけないじゃないですか。ちょっと、こんなにすごい人なのに常識とかすっ飛ばしてるのどうにかしてほしいなあ、って、思っただけですから。気にしないでください」
「おい!、おもっきし失礼なこと考えてるじゃないか!、あと、私はそこまですっ飛んでいない!!、訂正しろ!」
「どの口が言うんですか!」
美沙雪さんが近づいてきて早々、ユーリと美沙雪さんの口喧嘩が始まってしまった。
ガミガミと子供のように言い合う彼女らを見てか、周りの人たちの美沙雪さんを見る目が変わっていく。
そして、それは隣にいた彼女も例外ではなく、「あ、あれ?」とクレアさんからも動揺の声が伺えた。
多分、今まさに、理想の格好いい学園長像が崩れていっているんだろう。
また、美沙雪さんは一人ファンを失ったようだ。
そんな彼女らを尻目に俺たちに申しわけなさそうに近づいてくる、一人の白髪の老人がいた。
執事姿の、先ほどまで美沙雪さんの隣にいた人だ。
「いやはや、申し訳ございません、美沙雪様が迷惑をかけてしまっているようで...」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ、見慣れてますから」
「それは少し耳が痛いですね....ですが、ありがとうございます」
低めの、少し萎れた声で謝る彼に対して、俺とクレアさんは問題ないと慰める。
すると、彼も安心したのか頭を上げて挨拶を交わした。
「申し遅れました、私、美沙雪様の側近のセバスでございます。以後、お見知り置きを」
お辞儀をしながら礼儀正しく挨拶をする彼に、俺とクレアさんも腰を曲げて挨拶をする。
「新入生のカイン・ツキノです」
「同じく、クレア・リーズフェルトです」
「これは、これは、ご丁寧にありがとうございます」
俺の平凡なお辞儀の横で完璧なカーテシーを決めるクレアさんの素晴らしい挨拶を見終えたところで、ユーリと美沙雪さんの口論も終わりを迎えた。
両者、言いたいことを叫び出し、疲れ切った様子でこちらに合流した。
美沙雪さんはセバスさんのところへと戻り、俺はユーリを呼んで、俺とクレアさんの方で引き取った。
そして、俺とユーリ、そしてせっかくなのでクレアさんと一緒に三人で入学式へと向かうことにした。
三人揃い、横並びで会場へと向かう。
吹っ切れた美沙雪さんに見送られ、俺たちは手を振って彼女と別れる。
しかし、俺たちが去る中で、彼女は思い出したのか、ハッとした様子で最後にとんでもないことを言った。
「それじゃあ、カインくん、また後で。あ、言い忘れていたが、カインくんには新入生代表挨拶をやってもらうからスピーチの内容を考えておいてくれ!、入学式が始まるまであと1時間はあるから、その間に頼むぞ!」
「し、新入生代表挨拶!?、ちょっと、美沙雪さん、どういうーー」
「悪いが私はこの後用事があるからな、ここらへんでお別れだ!、とりあえず頼むぞ、カインくん!、期待してるぞ!!」
そう言って、魔法で飛んでゆく彼女に俺は手を伸ばすことしかできずに、その場で立ち尽くす。
「代表挨拶って、何を言えばいいんだ...?」
その後の1時間は、全く気休めできずに、ただひたすらスピーチの内容を悶々と三人で考えていた。
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