第2話 洞窟の少女


俺は見つけた魔石を片っ端から吸収していった。実物に触れてみるのは初めてだったから、つい夢中になってしまった。


魔石は活性化するとカビみたいに増殖して、周囲の物質と同化する。その性質上、一般人は触れる機会などなかった。まぁ、アレだ。石油を実際に見たり触ったりすることなんてそう無い…それと一緒だ。石油がそこら辺にあるとなると、集めてみたくなるだろう。


地上に文明があるなら、これで金持ちになれるかもしれない。


「…そういえば…なんでこの星の文明のことを知ってるんだ?俺と一緒に二万年閉じ込められてたはずだよな?」


《回答——周囲の魔石を通して情報を収集していました》


「そんなこともできるのか…なんか俺の知ってた魔石のイメージと違うなぁ…」


宇宙船に乗っていた頃の魔石のイメージは…本当にただただ莫大なエネルギーが秘められた鉱石というだけだった。


「せっかくだし、集めた情報を教えてくれよ。ただ歩くのも暇だし」


身構えていたが、コウモリの一匹もいやしない。刺激が無いのだ。命がかかっている状況で刺激を求めるのもどうかとは思うが…


《閲覧したいデータを選んでください》


「面倒だから脳内に直接流してくれ」


それが間違いだった。普段この方法を使うのは、せいぜい翻訳かメモを脳内に流し込む程度だ。その感覚で20000年の記録を流してしまうと———


「…!?っ…ァ…、あぁ……!」


さようなら俺の意識———



————————————————————



「……はっ…!」


酷い目に遭った…全く繋がりのない夢が連続で訪れたような感覚だ。


「大丈夫?」

「ああ、無事だ————え?」


ユビキタスの声ではない…人だ!人がいた!夢ではないよな?あの世でもないよな?


「ずっとうなされていたようだけど…」


何と美しい少女か——いや、寂しさからそう見えるだけ——いややっぱり可愛いな?


雪のような白い髪に、ルビーのような赤い瞳。美しい肌の少女だ。アニメの中から飛び出して来たのか?


「…私の顔に何かついてる?」

「可愛い…(何でもないよ)」

「…?」


つい本音と建前が……本当に興奮しているのだ。美少女だからというのもあるかもしれないが、とにかく人に会えたのが嬉しい。多分相手がおっさんだったとしても喜んでいただろう。極論、ミジンコがいただけでも嬉しかったかもしれない。


何十分も希望と絶望に挟まれながら石の壁を見続け、機械音声を聞いていたら正気の一つや二つくらい失うというものだ。


「こんな洞窟で何をしていたの?」

「えっと…」


どう話そうか。実は20000年前に宇宙からやって来たんです…ってか?ふざけているにも程があるというものだ。


「遠いところからやって来た、とだけ…」


…よく考えたら、今この星にあるとされる『文明』からすれば俺は『宇宙人』にあたるのか…なんだか変な感じだ。


「そっか…」

「…ごめん」

「気にしないで。無理に話さなくてもいいよ。秘密は誰にだってあるから」

「じゃあ、君にも?」

「そうだね。これとか…」


少女はフードを脱いだ。黒い角が頭から伸びているではないか。


「その角は…?」

「まだ秘密、かな」


…今、俺は動悸が激しくなっている。吊り橋効果とかいうやつだろうか。まさか我ながらこんなにチョロい男だとは……


まぁいいや、とりあえず人に会えてよかった。

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バベルの方舟 〜前文明の生き残りはほぼ異世界な星を生きる〜 Jack4l&芋ケンプ @imo_kenp

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