第1話 目覚め


《身体損傷を修復——完了》


——生きている。エンジントラブルと知った瞬間、死を覚悟していた。僅かな希望…いや、半ばヤケクソで入ったポッドが俺を生かしてくれた。


《前回の記録から9999999時間が経過——》


「ゲホッゲホッ…年数に直してくれ…」


《20999年が経過しました》


「2万っ!?」


驚愕したのも無理は無いだろう。二万年だぞ…?よく生きてたな…


「…因みに俺以外の生き残りは?」


《データの取得に失敗しました》


期待はできないらしい。同じ境遇の者を探そうかと思ったが、変な希望を抱いて絶望を味わいたくない。割り切ろう。


「名前…なんだっけ…」


《Ubiquitous——支援システムです》


「ユビキタスね、了解。とりあえずここから出たいんだが…」


ポッドは洞窟の中にあった。誰かが運んだのか?まさか俺の周りで洞窟が形成されたわけではあるまい。…いや、二万年も経っていればそれも否定できないのか…


《ナビゲートを開始します》


視界に黄色い光で道筋が表示された。その光に向かって歩き始める。


洞窟探検など人生で初めてだが、不思議と恐怖は無かった。何も失うものがないからだろうか。今は死の恐怖よりも、気まずい空気の方が問題だった。


AIと分かってはいるが、話す相手がいない以上、無意識に人として認識してしまっている。基本的に向こうから語りかけてくることは無いし、こちらの質問にも淡白だ。


「…この黒い石…」


《魔石です。現在の状態では利用価値がありません》


「いや…無理してでも持っていこう」


近くの石を使って、壁から突き出た魔石を採集した。何に使うのか…正直何も考えていない。この石はとてつもないエネルギーを秘めているが、それを取り出せるかは別の話だ。


こんなことをするのは…無意味な行動だと分かっていても、何かしていないと気が狂いそうだったからだろう。まぁ、お守りにでもしておこう。


《採掘した魔石を体内に取り込むことを推奨します》


「食えって言いたいのか?」


《検索—現在の文明では魔石を利用して魔力を取り出し魔術を行使しているようです》


「おお、文明があるのか!そりゃよかった…ていうか…魔術?そんな使い方があったのかよ」


この星に先住民がいたのは知っていたが…そうか、続いていたのか…よかった…


「とりあえず取り込んでみるか…」


なぜか行程は分かる。感覚的なものだろうか。手をかざして、強く念じるだけだ。


魔石がエネルギーになって俺の指先から腕、心臓の辺りまで移動するのを感じた。これが魔力というやつか。


なんだか少し楽しくなって来た。気が落ちる前にこんな洞窟は抜けてしまおう。とりあえず今の目標は…そうだな、魔術とやらを使ってみたい。

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