写真家

「うーん!素敵!」


一眼レフのカメラを、公園の真ん中にある噴水に向けながらシャッターを押す。

そしてカメラを肩にかけ直して次の目的地へ向かう。そんなハナは写真家兼インスタグラマー。肩まで伸びているふんわりとしたピンクブラウンのショートヘアは、動くたびにふわふわする。

高校生の時から写真を撮ってはインスタにあげている。それはコスメやおしゃれなスイーツなど、若者中心の物が多かった。大人になった今でもハナはたびたびそういう写真をあげている。


「うわぁ、きれい…」


電車とバスを使ってハウステンボスに着いた。

目の前に広がるチューリップ畑は、サイトで見たよりとても素敵で、ハナは心を奪われた。

なんせハナは昔から花が好きだった。

しかし名前のせいで馬鹿にされることもあった。


「ハナってキャラ作りすぎじゃね?そういうのイタイし、やめな?てか、見ててウザいし」


小学生の頃にハナがクラスの女子に言われた言葉だ。嘲笑うように言われたその言葉は、ハナの心に強く突き刺さった。それからハナはもう花が好きだとは言わなくなった。その様子を見た女子は、「ほら、うちの言った通りだったでしょ?」と言わんばかりに周りの人に目配せしていた。

しかし高校生になってスマホを持ってから、“photo girl”と言う名でアカウントを作って写真をあげるようになった。

もちろん高校の友達にも言わなかった。私だと分かれば、友達も前の女子みたいにいじめてくると思ったからだ。でもそれは決して友達を信用していないわけじゃない。ただもう関係を崩したくなかったから。これ以上辛い思いは、したくなかったのだ。

しかしphoto girlはハナだとバレていないため、前みたいな事例は起きず、日に日にフォロワーは増えていった。


「うわぁ…いい写真…」


ハナは色々な花畑を眺めて幸せを堪能している。 









「あぁ…楽しかったぁ!また行きたいなぁ」


ベッドに寝転がりながら自分の写真を見返してインスタに投稿する写真を選んでいる。


「どれも素敵ぃ…よし、これにしよ!」


そう言って結局チューリップ畑の写真を上げた。

その後少しだけ前にあげた投稿のコメントを見返した。

“フォトさん写真撮るのうますぎ”

“レンズ何使ってますか!?”

“この写真壁紙に使っていいですか?”


「わぁ嬉しい!ぜひ、私用目的であれば、どれでも使っていいですよーっと」


ピコン


DMの通知が来て、何だろうと思い見てみると、体が固まってしまった。


“ハナ?”


ハナは一瞬パニックになったが、いろんなアンチを相手にしてきたように、冷静に対処した。


“どなたですか?私はハナさんではありませんが…”


するとすぐに返事が届いた。


“投稿されてる日にちは違うけど、高校の時に行ったところが全部一緒じゃないですか?私、ユキです。”


「ユキ…」


確かに高校の時の友達にユキがいた。


“ほんとにユキなの?”


気になって勢いで返信してしまった。


“やっぱりハナか!ユキだよ!久しぶり!”


ユキだ!ととても喜んだが、昔のようにいじめられる可能性があると考えたら、一気に怖くなってしまった。そしてしばらくしてまたDMが来た。


“花が好きなの?”


やっぱりそうだ。このあとに送られてくるメッセージは大体予想がつく。


「ハナだから花が好きなの?」

「ハナのキャラ作りやめなー」


しかし実際に来たメッセージは思っていたものと違った。


“素敵だね!なんで言ってくれなかったの?私、花育ててるんだ!いつか見に来ない?”


ハナは心が浮いたように楽になった。

それと同時に久しぶりに友達に会えることに胸を躍らせていた。


“行ってみたい!どこ集合?”


“えっとねぇ…”


そんなこんなでハナは、ユキを名乗る人物と会う約束をした。








そしてユキに会いに行く日になった。

ハナはいつも使ってる愛用のカメラを肩からかけて、集合場所に行った。


“ハナどんな格好してる?”


ユキからDMが届いた。

ハナは自分の格好を写真にとって送った。


“こんな感じ!”


すると後ろの方で声が聞こえた。


「ハーナーーー!」


振り返ると、それは紛れもなくユキだった。

高校の時とほとんど何も変わっておらず、髪型はいつもの見慣れたショートカットだった。

人懐こい笑顔で手を振りこちらに向かってくるユキは、ほんとうに変わっていなくて安心する。


「ユキ!おーい」


ハナも大きく手を振る。

しかしユキの後ろをつけてくる黒の車に気づいた。


「ユキ!逃げて!」


「え?」


ユキは何が起こったのか分からない様子でその場にとどまっている。

その隣につけていた黒の車が到着する。


「ユキ!」


ユキの方に向かって全速力で走り出す。

が、時すでに遅し。

ユキはもう知らない人たちに車の中に乗せられている。


「ユキ!」


どうかして知らない人たちを引き剥がそうとしたが、そのまま誰かに後頭部を殴られ気絶してしまった。


「ハナ…?」


その様子を見ていたユキの声が震えている。

その後間もなくユキも同じように気絶させられた。

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なんでも屋 ざくざくたぬき @gal27

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