家族
…欲しいもの
ミユウは目の前の金とスマホを見つめている。
その間、4人の男はずっと黙ってその様子を見守っている。
ミユウは考えた。最も必要なものは何か。
確かにこれだけでお金があれば貯金の足しにできるから、お母さんが怒ることはない。でもこのスマホ…お母さんに持ってったら喜ぶかな。画面バキバキだったし。
「…これがいい、です。」
「毎度あり」
春はニヤッとして、ミユウを家に返した。
自分の部屋に戻ったミユウは、明日お母さんに教えてあげようと胸を躍らせながら眠りについた。
翌日、お母さんが帰ってきた。
この日はミユウは学校が休みだったからちょうどよかった。
「ただいまー」
髪の乱れたミチコが気の弱い声で言ったあと、ソファに寝そべった。
「お母さん、あのね。これ」
そう言ってミユウはお母さんにお金を差し出した。
「ん、どうしたぁ?」
重い体を持ち上げるように起き上がった。
そしてミユウの手の中にある大量の金を見て、ミチコは目を丸くさせた。
「ミユウ!あんたこの金どこで?!」
疲れていたことも忘れて、ミユウの肩に手を置いて大声を出した。
喜んでくれると思ったミユウは、その真逆な反応に体がこわばった。
それに気づいたミチコはミユウから手を離し、抱き寄せて頭を撫でた。
ミユウを落ち着かせたあと、もう一度同じ質問をした。
「ごめんね、怖かったねぇ。このお金どうしたの?お母さんに教えて?」
お母さんの笑顔をみて安心したミユウは、事の経緯を話し始めた。
「…だからね。このお金をチョキン?にできないかなって思ってね」
ミチコはニコニコ頷きながら話を聞いている。
「そっかぁ、なんでも屋?本当にあるんだね!お母さん知らなかったなぁ。ありがとうね、ミユウ。じゃあこのお金は、お母さんが貯金しておくね。」
子供から金をもらうのに少し罪悪感を感じながらも、ミユウから金を受け取った。
ミユウはお母さんが喜んでくれて安心し、ミチコに手を降ってまた自分の部屋に戻った。
「あー!遅いよハルトくぅん。もう結果出てるよぉ?」
そう言ってシロがこっちに手招きしている。
俺は大きい鏡を覗いた。
「そういえば春さん。なんで今回は2つなんです?毎回3つだったじゃないですか」
「答えは単純明快ですハルト君。子供は選択肢がたくさんあるとずっと迷ってしまいますからね。」
そうか、あの子はまだ子供だもんな。何気に子供が来たのは初めてかもしれない。
「うわっ最悪」
そう声を漏らしたのはレンゲだ。
でかい袖を顔に近づけて鏡を睨んでいる。
何事かと思うとそれは一目瞭然だった。
そう、鏡の中の大人二人が大喧嘩しているのだ。
「もうやめて!このお金は大事なものなの!何度も言ってるでしょう?!あなたのお金じゃない!しかも今回、とんでもない額引かれてるんだけど?!」
「うるせぇんだよいちいち!お前だってとんでもない額入ってたじゃねぇか?!いっぱいあんだから少しくらいいいだろ?!それに俺、もうお前とは一緒にいられない!別れるぞ!」
「何?!意味わかんない!金だけ盗んで別れる気?!別れるなら今までのお金全部返してよ!!」
ミユウは頭にガンガン鳴り響く怒鳴り声を耐えようと頑張っている。
くまの存在を忘れて。
なんで、どうして…?私が欲しかったの…これじゃない!!!
しばらくして静かになったと思ったら、床にお母さんが座り込んでいる。
「お母さん…」
するとお母さんはミユウを抱き締めこう言った。
「ミユウごめんね。ミユウのお金、大分持ってかれちゃった。でもね?もう大丈夫よ。これからはお母さんと一緒に過ごそうね。」
「………うん」
温かいオレンジの夕焼けが窓から射している。
「あー…僕達、帰ろうかな。お疲れ様…」
そう言って双子は帰っていった。
「春さん…これはどうして?!なんで…っ」
「落ち着きなさいハルト君。私たちなんでも屋は、必ずしもお客様の幸せを保証するものではなく、あくまで望んでいるものを提供しているだけ。それをどう扱うかは、その人次第です。今回であれば、子どもの純粋な思い込みから起きたものです。ですので仕方がなかったんですよ」
…なんでも屋。思ったより大変な仕事だ。でも俺はぼーっとここにいるだけだし、仕事っぽい事はしたことなんてない。
「それはそうと春さん。俺、ここで仕事っぽい事したことないんですけど。」
「だって仕事を与えてないんですから。でも大丈夫、たくさん見てもらって大体わかったでしょう。次のお客様の物、あなたに選んでもらいますからね。」
「次のお客様って…早くないですか?!どうしようどうしよう!そんな権力ないし…」
俺が焦っていると春さんが冷静に答えた。
「安心しなさい。この空間であれば必要としているものは好きに出せます。しかし、1回出したら戻せないですからね。慎重に選んでくださいよ。3つです。では、今日は遅いのでこれで。お疲れ様でした。」
「待って。俺はなんにもってあああああぁぁぁ…」
…。
気づいたらまたベッドの上だ。
次のお客様…しかも3つって。
「俺に、できるかな…?………あーやめやめ!寝よ。」
そうして俺は眠りについた。
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