マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第36話 EP7-3 光速のライトニング

　この世界（せかい）の隣（となり）には、『狭間（はざま）』と呼（よ）ばれる世界（せかい）がある。

　狭間（はざま）には、『狭魔（きょうま）』と呼（よ）ばれるモンスターが出（で）る。

　狭魔（きょうま）を倒（たお）す、『魔狩（まかり）』と呼（よ）ばれる人間（にんげん）がいる。

　　　◇

　オレは桃花（ももか）に付（つ）き合（あ）って、魔狩（まかり）ギルドに来（き）た。目的（もくてき）は、雷獣（らいじゅう）とのリベンジマッチの申（もう）し出（で）だ。

　オレは、遠見（とおみ）　勇斗（ゆうと）。十四歳（さい）の中学生（ちゅうがくせい）で、冴（さ）えないメガネ男子（だんし）である。腰（こし）に廉価品（れんかひん）の長剣（ロングソード）をさげる、一応（いちおう）、駆（か）け出（だ）しの魔狩（まかり）である。

　学校（がっこう）は休（やす）みの日（ひ）だから、普段着（ふだんぎ）のＴ（ティー）シャツジーパンスニーカーだ。

　魔狩（まかり）ギルドの上階（じょうかい）にある応接室（おうせつしつ）で、桃花（ももか）、オレ、琴音（ことね）の順（じゅん）に三人（さんにん）並（なら）んでソファに座（すわ）る。

　低（ひく）いガラステーブルを挟（はさ）んだ向（む）かいのソファに、片桐（かたぎり）が座（すわ）る。

　片桐（かたぎり）は、この区域（くいき）の担当（たんとう）責任者（せきにんしゃ）だ。黒（くろ）いスーツ姿（すがた）の、親（おや）よりも年上（としうえ）くらいのオッサンだ。背（せ）が高（たか）く痩（や）せ型（がた）で、サングラスと整（ととの）った髭（ひげ）と、左（ひだり）瞼（まぶた）の縦（たて）の傷痕（きずあと）が特徴的（とくちょうてき）な、哀愁（あいしゅう）漂（ただよ）う渋（しぶ）いオッサンだ。

「アタシに、再戦（さいせん）させてください！」

　桃花（ももか）が力強（ちからづよ）く申（もう）し出（で）た。やる気（き）に溢（あふ）れて、瞳（ひとみ）に情熱（じょうねつ）の炎（ほのお）が見（み）えるようだ。

　オレは、場（ば）の雰囲気（ふんいき）に流（なが）されただけで、やる気（き）なんてない。左右（さゆう）のやる気（き）勢（ぜい）のオーラに挟（はさ）まれて、肩身（かたみ）が狭（せま）い。

　だって、いくらなんでも『最上（さいじょう）禍（まがつ）』は怖（こわ）すぎる。できれば考（かんが）え直（なお）してほしい。

「絢染（あやそめ）君（くん）。もう心配（しんぱい）いらない。すでに、代理（だいり）の来訪（らいほう）が決（き）まっている」

　片桐（かたぎり）が、大人（おとな）の微笑（びしょう）で答（こた）えた。ダンディーだ。

「どうしてですか！？　『最上（さいじょう）禍（まがつ）』に目（め）を付（つ）けられたのは、アタシですよね？　誰（だれ）かに押（お）しつけるようなこと、したくないんですけど！」

　桃花（ももか）が強（つよ）い口調（くちょう）で食（く）いさがった。

　桃花（ももか）は正義感（せいぎかん）が強（つよ）い。負（ま）けず嫌（ぎら）いで、意地（いじ）っ張（ぱ）りで、プライドも高（たか）い。

　　　◇

　今回（こんかい）は相手（あいて）が悪（わる）い。

　戦闘（せんとう）時間（じかん）は僅（わず）か一秒（いちびょう）足（た）らず。『ウィッチ』の琴音（ことね）では、共闘（きょうとう）しても戦力（せんりょく）にならない。小（ちい）さく素早（すばや）いヤツ相手（あいて）に、多（た）対（たい）一（いち）が成（な）り立（た）つかも怪（あや）しい。

　刻印（こくいん）での共闘（きょうとう）が無理（むり）なら、『贄印（にえいん）』を使（つか）って、力量（りきりょう）の近（ちか）しい誰（だれ）かを代理（だいり）に立（た）てるしかない。

　この物騒（ぶっそう）な名前（なまえ）の『贄印（にえいん）』はそのまま、『禍（まがつ）』に狙（ねら）われた死（し）にたくない人（ひと）が、代（か）わりに殺（ころ）される生贄（いけにえ）を立（た）てるために使（つか）った、と昔（むかし）の記録（きろく）にある。

　代理（だいり）は、一人（ひとり）で戦（たたか）わなければならない。共闘（きょうとう）用（よう）の『刻印（こくいん）』よりは、力量（りきりょう）差（さ）を多（おお）めに許容（きょよう）してくれるらしい。殺（ころ）されるくらい強（つよ）い狭魔（きょうま）に、多（おお）めの許容（きょよう）が意味（いみ）を成（な）すのかは知（し）らない。

　当然（とうぜん）ながら現代（げんだい）は、相性（あいしょう）が悪（わる）い狭魔（きょうま）のときに交代（こうたい）するとか、負傷（ふしょう）や体調（たいちょう）不良（ふりょう）のフォローとか、普通（ふつう）の使（つか）われ方（かた）をする。

　片桐（かたぎり）が、大人（おとな）の微笑（びしょう）で答（こた）える。

「安心（あんしん）しなさい。代理（だいり）は、最強（さいきょう）の『クイッケン』、『光速（こうそく）のライトニング』だ」

　　　◇

「うおおおぉぉぉーーーっ！　やった！　これで怖（こわ）い思（おも）いせずに済（す）むぜ！」

　オレは、心（こころ）の中（なか）で安堵（あんど）を絶叫（ぜっきょう）した。

「助（たす）かったっす、ありがとうっす、片桐（かたぎり）さん！　桃花（ももか）に振（ふ）りまわされて一時（いちじ）はどうなるかと思（おも）ったっす！」

　オレは、心（こころ）の中（なか）でソファを立（た）ち、心（こころ）の中（なか）で片桐（かたぎり）の両手（りょうて）を握（にぎ）った。

　抱（だ）きついて喜（よろこ）びたいほど歓喜（かんき）したけど、心（こころ）の中（なか）でも抱（だ）きつくのは気色悪（キショ）いか、と思（おも）いとどまった。

　唐突（とうとつ）に両手（りょうて）を握（にぎ）られた片桐（かたぎり）が、面食（めんく）らった顔（かお）でオレを見（み）あげる。

　桃花（ももか）と琴音（ことね）が左右（さゆう）から、裏切者（うらぎりもの）を見（み）る冷（つめ）たい目（め）をオレに向（む）ける。

「……あ、済（す）みませんっす。思（おも）わず、心（こころ）の声（こえ）が出（で）たっす」

　オレは、気（き）まずい愛想（あいそ）笑（わら）いでソファに座（すわ）った。

「くぅっ……。最強（さいきょう）の『クイッケン』が来（く）るんじゃ、ダダも捏（こ）ねられないじゃない」

　桃花（ももか）が悔（くや）しげに呻（うめ）いた。ついでに舌打（したう）ちもした。こいつはいつもこうだ。

「ライトニング様（さま）がいらっしゃるんですか？！　凄（すご）いです！　サインって、いただけるのでしょうか？」

　琴音（ことね）が、瞳（ひとみ）をキラキラと輝（かがや）かせて喜（よろこ）んだ。

　　　◇

　最強（さいきょう）の『クイッケン』は、二人（ふたり）いる。

　一人（ひとり）は男（おとこ）で、短剣二刀（ダブルダガー）を扱（あつか）う『光速（こうそく）のライトニング』である。愛用（あいよう）のダブルダガー『死の舞踏（ダンスマカブル）』は、重量（じゅうりょう）が－（マイナス）だと言（い）われる。

　もう一人（ひとり）は女（おんな）で、細剣（レイピア）を扱（あつか）う『華麗（かれい）なるシルヴィア』である。愛用（あいよう）のレイピア『白薔薇（ホワイトローズ）』は、戦車（せんしゃ）の装甲（そうこう）すら容易（たやす）く貫（つらぬ）く。

　二人（ふたり）ともに超（ちょう）有名（ゆうめい）かつ大人気（だいにんき）だ。クイッケンの男（おとこ）はダブルダガー使（つか）いが多（おお）く、女（おんな）はレイピア使（つか）いが多（おお）いのも、この二人の影響（えいきょう）が大（おお）きい。

　ちなみに、美形（びけい）の優男（やさおとこ）『ライトニング』、男装（だんそう）の麗人（れいじん）『シルヴィア』、ドレス美女（びじょ）の『ディメクラ』、この三人（さんにん）で魔狩（まかり）ギルドの広告塔（こうこくとう）も務（つと）める。

「そろそろ、このライトニングが自己（じこ）紹介（しょうかい）しても問題ないかい（ノープロブレム）？」

　片桐（かたぎり）の隣（となり）に、細身（ほそみ）で長身（ちょうしん）で美形（びけい）の男（おとこ）が座（すわ）っている。いつの間（ま）にか、足（あし）を組（く）んで、ソファの肘（ひじ）掛（か）けに肘（ひじ）を凭（もた）れて、座（すわ）っている。

　その男（おとこ）は、煌（きら）びやかでピチピチで急所（きゅうしょ）をプロテクターが守（まも）る、金（きん）ラメのバトルスーツを纏（まと）う。金髪（きんぱつ）ロン毛（げ）で、超絶（ちょうぜつ）美形（びけい）で、透（す）き通（とお）るような碧眼（へきがん）をしている。

　腰（こし）に、不思議（ふしぎ）な曲線（きょくせん）の赤鞘（あかざや）の、二本（にほん）の短剣（たんけん）をさげる。

　誰（だれ）でも知（し）ってる。最強（さいきょう）の『クイッケン』、『光速（こうそく）のライトニング』その人（ひと）である。

「初めまして（ナイストゥミーチュー）、キュートな子猫（こねこ）ちゃんたち。ミーがエスコートするレディは、ユーかな？」

　ライトニングが美声（イケボ）で、超絶（ちょうぜつ）美形（びけい）のウィンクを桃花（ももか）に放（はな）った。

　ドアの隙間（すきま）から嫉妬（しっと）に塗（まみ）れた、歯（は）が割（わ）れ砕（くだ）けそうな歯噛（はが）みの音（おと）が聞（き）こえた。

マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第36話 EP7-3 光速（こうそく）のライトニング／ＥＮＤ