第35話 EP7-2 ピ……雷獣

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 桃花ももかしろ患者衣かんじゃいて、病院びょういんしろいベッドにすわる。桃花ももかにしてはめずらしい光景こうけいである。


 ガラガラと、病室びょうしつのスライドドアがいきおいよくいた。

「あっ、あああああっ! 絢染あやそめさんがっ! おお大怪我おおけがをなさったといたのですがががっ!!!」

 琴音ことねいきおいよく、病室びょうしつはいってきた。

 あ、いや、あわてふためいて、ドアのかどにゴンッっておとでおでこをぶつけた。いたそうにうずくまった。


 真奉しんほう 琴音ことねは、オレと桃花ももかのクラスメートである。銀縁ぎんぶちまるメガネに灰色はいいろながかみみにして、小柄こがらむねおおきい人見知ひとみしりの女子じょしである。フリルやレースがいっぱいのキュートな私服しふくこのむ。


「わざわざ様子ようすてくれたんだ? ありがと、琴音ことね琴音ことねもバナナべる?」

 桃花ももかうれしげに、バナナをした。

 桃花ももかともだちがすくない。

たいしたことないってさ、真奉しんほうさん。桃花ももかはゴ……丈夫じょうぶだから」

 そなえつけのまるイスにすわるオレも、かるこたえた。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。

 学校がっこうやすみのだから、普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーだ。


「こんなの、怪我けがうちはいらないわよ。もうなおりかけだし、ほら」

 桃花ももかが、患者衣かんじゃいすそおもいっまくりあげて、おなかせる。

「あっ、あっ、絢染あやそめさんっ?! えてしまいます! えてしまいます!」

 琴音ことねが、ずかしそうにかおにした。つよつぶって、真っ赤な顔を両手りょうておおった。

 桃花ももか人付ひとづいの距離感きょりかんがおかしい。


   ◇


 オレは、桃花ももかはらをジッとつめる。

 なおりかけの火傷やけどがある。数時間すうじかんてば、あとのこらずえる。


 身体しんたい能力のうりょくたか魔狩まかりは、治癒ちゆ能力のうりょくたかい。とくに、単純たんじゅん身体しんたい能力のうりょくが高いウォリアとクイッケンは、傍目はためにも異常いじょうなほどたん時間じかん自然しぜん治癒ちゆする。

 桃花ももか怪我けが心配しんぱいなんて、するだけムダってことだ。毎回まいかいのことながら、心配しんぱいしてそんした。


勇斗ゆうとえた?」

 桃花ももか神妙しんみょうかおで、意味深いみしん口調くちょういてきた。

えなかったぜ」

 オレも神妙しんみょうかおで、意味深いみしん口調くちょうこたえた。


 桃花ももかがドヤがおでニヤつく。

「アタシは、えたわよ」

 オレはあせる。えなかった視覚系しかくけい能力者のうりょくしゃなんて、よわ一般人いっぱんじん以下いかである。幼馴染おさななじてきにも、なんだかけたがする。

「……ふっ、あまいな。えないってことが、見えたぜ」

 こっちもドヤがおで、見栄みえった。

「くっ……」

 桃花ももかくやしげにうめいた。こういうところも、桃花ももかはチョロい。


   ◇


「で、どんな狭魔きょうまだったんだ?」

「えっとね、狭魔きょうまとしてはちいさな、ネズミみたいなヤツだったとおもう。ちいさないてきて、つめ大剣たいけんふせいだけど、電気でんきがビリビリッてしたのよ」

 桃花ももかが、めずらしくむずかしいかおこたえた。


 電気でんき、ネズミ。即座そくざに、ひとつの名前なまえおもかんだ。……いや、かんがえるまでもなく、ダメだ、それはダメだ。


 その思考しこうにこびりついて、はなれない。一旦いったんこう。べつのことをかんがえて、思考しこうをリセットしよう。


 桃花ももかすごい。

 完全かんぜん不意討ふいうちで、あの一瞬いっしゅんで、あのスピードで、狭魔きょうま反応はんのうできた。攻撃こうげきふせぎ、姿すがたまで目視もくしした。

 身体しんたい能力のうりょくたかさだけでなく、場数ばかずおおさにもよるだろう。


 オレは、深慮しんりょかさねながら、ゆっくりとくちひらく。

「いや、まさか、ありないとおもうけど……。ピ……雷獣らいじゅうじゃないか?」

 あぶなかった。してしまうところだった。

 桃花ももか琴音ことねもビックリした。

 魔狩まかりなら名前なまえくらいはいたことがあるだろう。それがあらわれたとけばかならおどろく、そんな狭魔きょうまだ。


   ◇


「それって、あれでしょ? 何年なんねんまえあばれた『最上さいじょうまがつ』でしょ?」

「さささささっ、最強さいきょうちかかたくなったと、うっ、うわさいていますがっ」

 琴音ことね狼狽うろたえるのも無理むりはない。桃花ももか他人事ひとごとみたいにいて、琴音ことね見習みならって狼狽うろたえたほうがいい。


事件じけん記録きろくんだことあるぜ。被害者ひがいしゃおおくはなかったけど、討伐とうばつ失敗しっぱいしてる。退治たいじするまえあらわれなくなって、それっきりだったはずだ」

 オレは、おぼろげな記憶きおく手繰たぐった。知識ちしき武器ぶきだ。能力のうりょく使つかかただ。


「……つぎは、けないわ。相手あいてが『最上さいじょうまがつ』だろうがなんだろうが、ね」

 桃花ももか一歩いっぽ退かない強気つよきで、決意けつい表明ひょうめいした。

「おいおい、やめ」

「わわわっ、わたしなんかがおやくてるかかりませんけれど! お手伝てつだいさせてくださいっ!」

 オレはめようとした。たしかにめようとした。

 でも、途中とちゅう琴音ことねが、桃花ももかを、両手りょうてにぎった。

「ありがと、琴音ことね勇斗ゆうと

 桃花ももかが、もう片手かたてで、オレのにぎった。


 おいおいやめとけよ、と茶化ちゃかして誤魔化ごまかせる雰囲気ふんいきじゃなくなっていた。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第35話 EP7-2 ピ……雷獣らいじゅう/END

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