第34話 EP7-1 雷獣

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレたちのらないところで、それははじまっていた。


   ◇


 ビルの谷間たにまかげなかで、二人ふたりおんなにらう。


かあさん、ってよぉ。もう一度いちどだけ、チャンスを」

 一人ひとり二十代にじゅうだいくらいの、たか巨乳きょにゅうおんなだ。

 ブラウスのすそちあがって、おへそえる。たんパンから、ながあしびる。こしには、かわのベルトでまとめたむちをさげる。


「はぁっ、まったく。何人なんにんもの担当たんとうしてきたけど、最初さいしょから最後さいごまで、要領ようりょうわるだったわねぇ」

 もう一人ひとり四十代よんじゅうだいくらいの、どこにでもいる小太こぶとりの主婦しゅふだ。

 地味じみでゆったりしたふくで、かたもののバッグをさげる。したには小石こいしまむ。狭魔きょうまたおすとちてくる小石にている。


 どこかちかくで、キキキィーッと、けたたましいブレーキおんひびいた。

 二人ふたりとも、一瞬いっしゅんだけ注意ちゅういけ、すぐにたがいに意識いしきもどした。


のかかるきらいじゃなかったけど、仕方しかたないのよ。せめてくるしまずにわりなさいな」

 四十代よんじゅうだいくらいのおんなが、どこか同情的どうじょうてき表情ひょうじょうで、にある小石こいしはなした。


 小石こいしがアスファルトの地面じめんちて、コツン、とかたった。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。

 学校がっこうやすみのだから、普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーだ。


「なぁ、桃花ももか秋葉あきは先生せんせいさがすなんて、やめようぜ? ただでさえ捜査そうさ協力きょうりょくさせられてるのに、これ以上いじょうはヤバいって」

 オレはこまがお提案ていあんした。

「なによ、情報じょうほうってきたのは勇斗ゆうとでしょ。ほんの一時間いちじかんまえに、このあたりで目撃もくげきされたのなら、さがすにまってるわ」

 桃花ももかつよ口調くちょう決意けつい表明ひょうめいした。


 絢染あやそめ 桃花ももか魔狩まかりである。オレの幼馴染おさななじみで、十四さい中学生ちゅうがくせいで、桃色ももいろながかみで、華奢きゃしゃで、むねちいさい。

 いつもの私服しふく、ノースリーブにミニスカートにスニーカー姿すがたで、こし自身じしんどうサイズの両刃りょうば大剣たいけんをさげる。


「そりゃまぁ、そうだけどさぁ」

 魔狩まかりギルドのふるぼけたビルをて、真新まあたらしいビルがいの、ごみごみした往来おうらいなかにいる。

 なつのビルがい昼間ひるまに、人混ひとごみの喧騒けんそうと、雑踏ざっとうと、セミのこえじりう。アスファルトとビルかべかえしで、あつい。


 秋葉あきは先生せんせいは、たか巨乳きょにゅうの、保健ほけん体育たいいく臨時りんじおんな教師きょうしだった。セクシーだった。

 狭聖きょうせい教団きょうだんについては、わすれた! おもしたくない! そのはなしわり!


 どこかちかくで、キキキィーッと、けたたましいブレーキおんひびいた。


事故じこかも? くわよ、勇斗ゆうと!」

「おう!」

 おとがしたほうに、二人ふたり一緒いっしょす。

 事故じことかの緊急きんきゅうも、魔狩まかり能力のうりょくふるいどころだ。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 数秒すうびょうだった。数秒すうびょうもなかったかもれない。


 くろ狭間はざまに、稲妻いなずまひかった。雷光らいこうが、横向よこむきに、ジグザグに、桃花ももか貫通かんつうした。


 ……いや、貫通かんつうしたようにえた。はやすぎて見えなかった。よわ一般人いっぱんじん身体しんたい能力のうりょくしかないオレに、見えるわけない。


「くぅぅ……」

 桃花ももかがアスファルトにたおれ、うめく。自身じしん華奢きゃしゃからだ両腕りょううできしめ、小刻こきざみにふるえる。

「……えっ? 桃花ももか……?」

 オレは、なになんだかからなくて、呆然ぼうぜんこえをかけた。


 桃花ももかこたえなかった。ふるえながら、ただうめいていた。


   ◇


 オレたちのらないところで、それはわらなかった。


   ◇


 ビルの谷間たにまかげなかで、巨乳きょにゅうおんな四十代よんじゅうだいくらいの女がにらい、同時どうじくびかしげる。


 たしかに、小石こいしがアスファルトの地面じめんちた。コツン、とかたった。

 なのに、なにきなかった。


 小石こいしえた。教団きょうだんが『狭聖様きょうせいさま』とあがめる狭魔きょうましには成功せいこうしたはずだ。

 でも、巨乳きょにゅうおんなは、この世界せかいにいる。狭間はざままれていない。


「だからぁ、対話たいわもマトモにできないのにぃ、協力きょうりょく体制たいせいなんてムリがあるでしょぉ?」

 巨乳きょにゅうおんなこまった口調くちょうで、ヤレヤレとかたすくめた。


「……くっ」

 四十代よんじゅうだいくらいのおんなは、たじろぎ、まよう。背中せなかけて、す。


 巨乳きょにゅうおんなわなかった。すこかなしげに、いきをつくだけだった。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第34話 EP7-1 雷獣らいじゅう/END

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