第15話
「それは――誇りか、それともただの無謀か?」
彼の問いには、皮肉が滲んでいたが、セレスタは怯むことなく真っ直ぐに答えた。
「どうでしょうか。...ただ、私は自分の力を信じたいだけです。」
その答えを聞くと、リュシアンはわずかに眉を寄せ、再び剣を構え直した。彼の瞳は冷ややかだったが、どこか測りかねるような色も混じっている。
「ならば、試してみるか。」
静かにそう言いながら、彼は剣を彼女の方に向けた。月明かりに照らされた剣先が鋭く輝き、緊張感が一気に場を支配する。セレスタは驚いたが、すぐに表情を引き締め、そっと一歩前へ踏み出した。
「……私と、ですか?」
「自分の力を信じたいと突き進んできたその結果を見せてみろ。」
彼女の覚悟を試そうとしているのか、それとも単に彼女の決意を侮っているのか。セレスタにはわからなかったが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「わかりました。では、お願いします。」
セレスタは訓練用の剣を手に取ると、静かに腰を落とし剣を構えた。リュシアンが求めているのは覚悟の証明――それならば、彼に自分がただ守られるだけの存在ではないことを見せるまでだ。
リュシアンは彼女の構えを見て、ほんのわずかに口元を歪めた。それが嘲笑なのか、感嘆なのかは分からない。
リュシアンの剣が音もなく動き、鋭い風を切ってセレスタに襲いかかる。彼の剣筋は完璧で、一切の無駄がない。だが、セレスタも同じく一歩を踏み込み、その鋭い一撃を見事に受け止めた。
剣と剣がぶつかり合い、鋼の音が夜空に響き渡る。互いの剣圧がぶつかり合い、火花が散るような感覚が指先に伝わってきた。リュシアンの瞳がほんの一瞬、驚きの色を帯びる。
リュシアンが軽く目を見開いたその表情を、セレスタは逃さなかった。彼の冷徹な視線に、初めて別の色が混じる――それは好奇心、そして興味。だが、彼はすぐにそれを押し殺し、表情を引き締めると再び攻撃を仕掛けてくる。
セレスタもまた、彼の鋭い剣に応えた。二人の間で繰り広げられる攻防は、まさに息を呑むような美しさを伴いながら、研ぎ澄まされた技巧の応酬だった。リュシアンの攻撃はどれも的確で容赦なく、セレスタは気を抜けば即座に打ち倒されてしまいそうな緊張感にさらされていたが、それでも彼女は一歩も引かなかった。
セレスタは一撃一撃を重ねていく。彼の鋭い刃に対し、自分のすべてを懸けて立ち向かうことで、自分の信じてきた「力」を示すのだ。
やがて、ふたりの攻防はしばらく続いたあと、リュシアンが一歩後退し、剣を下ろして戦いを終わらせた。リュシアンの表情には以前の冷淡さが薄れ、わずかに温かみを帯びている。
「...ただの見せかけではなかったようだな。」
その言葉は、彼女の努力を評価するものだった。
セレスタは少し驚き、心の中で小さな喜びを感じた。
「ありがとうございます。」
彼女は思わず微笑みながら、リュシアンを見つめる。
リュシアンはその微笑みに戸惑いを感じつつも、口元にわずかな笑みを浮かべた。セレスタとの戦いを通じて、彼女の中にある情熱や真剣さを理解し始めたのだ。彼女の姿は、ただの戦士としてではなく、一人の人間としての輝きがあった。
戦場で輝く王女は隣国の冷徹魔法騎士団長に溺愛される ぜぶら。 @eagleeye
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