第14話
「....魅力などと、軽々しく言うものではない。」
リュシアンは冷徹な口調で応じると、再び剣を振り始めた。その動きは正確無比で、剣が空を裂く音が鋭く響き渡る。
その姿に、セレスタは思わず息を呑んだ。彼の背中には、孤独と深い葛藤が影のようにまとわりついている。王女として戦場に立ってきた自分とは違う、彼独自の戦う理由と重圧があるのだろう。
セレスタは、彼の持つ苦悩を理解できるとは思わなかったが、共感しようとしていた。
「訓練はお嫌いですか?」
ふと彼の姿を見て思いついた疑問をおそるおそる尋ねた。
リュシアンは動きを止めず、視線だけをセレスタに向ける。
「訓練など好むものではない。必要だからやっているだけです。」
彼には剣を振るうことに対する情熱がまるで感じられない。彼の剣技に魅力を感じ、さらなる高みを目指したいと思っている自分とはまったく異なるのだと感じた。
セレスタが幼い頃、国を守る王族でありながら、国を守るための最大の力――魔法を使えないと判明したとき、家族が感じたであろう失望の色を、彼女は今でもはっきりと覚えている。父も母も、口にこそ出さなかったものの、優しく頭を撫でるその手の中に、どこか滲むものがあった。
「セレスタは特別よ」と何度も言い聞かせるように微笑んでくれた両親の愛情が、彼女には時折、痛みを伴う鎖のように感じられた。できないことを埋めるかのように向けられる温かな言葉や態度が、ただ彼女を「魔法が使えない存在」として際立たせてしまうのだから。
「私は...魔法を使えないことを理由に、私にできることを放棄したくないと思っています。」
セレスタの声は囁くような声で、でもリュシアンには聞こえてるくらいの声だった。
セレスタが剣を取る決断をしたとき、周囲は皆反対した。女性が戦士になるなどセラフィスでは珍しいことで、さらに魔法が使えない王女となると誰もが無謀だと嘲った。それでも彼女は、他者の期待や偏見に屈せず、剣を振り続けたのだ。
リュシアンはその場で剣を持つ手を緩め、彼女の方を振り返った。その視線には、疑念と困惑が滲んでいた。
「あなたは、魔法も使えないというのに、自分から危険に飛び込むのか?王族なら守られて当たり前の存在。それに対して誰も文句は言わないはずだ」
セレスタはしっかりと彼の目を見据えた。リュシアンの冷徹な視線にも動じず、毅然とした態度を崩さない。
「私には、魔法という力はありませんが...それを理由に守られるだけの存在でいるつもりもないのです。」
リュシアンの手が動きを止め、彼は深い思索に沈むように黙り込んだ。剣を学ぶことの厳しさを、彼は誰よりもよく知っている。
だが、彼の目の前にいるのは、か弱い王女などではなかった。今までの経験が、その背中に確かな意志と覚悟を刻んでいた。
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