第13話

お茶会を終えたその日の夜。セレスタは公爵邸の静かな廊下を歩きながら、リュシアンとの距離をどうにか縮められないものかと考えていた。彼と顔を合わせる機会はほとんどなく、今後の婚姻に向けて少しでも仲良くなれればと願っていたが、彼の冷たい態度を思い出してはどうしても踏み込むことができなかった。


そんな思いを抱えながら、ふと外から響いてくる剣の音に気づく。夜の静寂の中で、剣がぶつかる音が明瞭に聞こえ、気になって思わずその方向へ足を向けた。公爵邸の裏手にある小さな訓練場だ。


「リュシアン様……?」



訓練場に近づくと、月明かりの下で剣を振るうリュシアンの姿が見えた。彼の動きは鋭く、まるで獣のような迫力があった。


思わず声をかけてしまおうかと思ったが、彼が一人で剣を振っている姿を見て、ためらってしまう。リュシアンは冷静に動いているものの、その表情にはどこか孤独さが漂っていた。


勇気を振り絞り、セレスタは声をかける。


「お疲れ様です。」


リュシアンは剣を止め、振り返った。その目には驚きが宿り、次第に冷たい表情に戻る。


「....こんな時間に何しているんですか」


彼の声には少しの警戒心が含まれている。


「眠れず少し歩いていたら剣の音が気になりまして……。」


「そうですか」


彼女の言葉に、リュシアンは短く息を吐く。



「見ててもいいでしょうか...?」


すぐに去ろうと思ったが勇気を出して聞いてみる。



「...好きにしてください。」




セレスタはリュシアンから少し離れた位置に立ち、彼が剣を振るう様子をじっと見守っていた。剣の鋭い閃きが月光を反射し、静かな夜を切り裂くたび、冷たくも圧倒的な存在感を放っている。



彼の一撃一撃は、無駄がなく研ぎ澄まされており、まさに完璧な技術と呼べるものだった。


彼の剣術は、魔法を自在に組み込むことで、ただの剣術とは一線を画していた。魔力を纏った刃は力強く、ひと振りで周囲の空気を震わせ、次の瞬間には美しい流れを描いて滑らかに相手を圧倒する。


魔法と剣技の融合は、剣士としての強さだけでなく、その動きに芸術的な美しさすらも感じさせた。



「すごいですね、リュシアン様。」


思わず漏れた言葉には、自然と感嘆の色が滲んでいた。



「無意味な賞賛はやめていただきたい。」


彼の声音は鋭く拒絶に満ちていた。セレスタは一瞬、口を閉ざしそうになったが、ここで引き下がるつもりはなかった。彼女には、剣士としてもまだまだ自分を高めたいという強い意志があった。


セレスタが剣を学び、戦ってきたのはただ誰かに認められたいからではない。王女として自分にできる限りのすべてを極め、さらに上を目指したいという純粋な思いがあるからだった。


セレスタはリュシアンの表情を探るように見つめながら、言葉を慎重に選んで続けた。



「私にとっては、できないことだからこそ魅力的に映ります。私が一度も手にしたことのない力を、あなたは持っているから。」


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