第33話 これからの時間

 歩道を急ぎ走る男の子……

 「あ~、間に合わない。

 今日は日曜日だし人も多いし混んでるな。

 そうだ! 車道の端を通れば……」


 男の子が歩道から車道に出ようとした

瞬間だった……。

 「おおっと~少年」誰かが彼の手首を握った。

 男の子が振り向くと、高校生らしき男性が

彼の手首をしっかりと掴んでいた。


 「君、車道に出たら危ないよ。

 気をつけないと、車が来て接触したら

大事故になるよ」

 そう男の子に伝えると彼が微笑んだ。

 

 「ごめんなさい。お兄ちゃん……。

 教えてくれてありがとう」

 と男の子はそう答えた。


 「わかればいいよ。じゃあな!」

 と男性は男の子の頭を撫でるとその場から走り去った。

 

 男性の後ろ姿を見送った男の子は、

鞄からスマホを取り出すと、

どこかに電話をかけ、

  「もしもし、塾長ですか? 想汰です。

  すみません、少し遅れます」と言った。

  電話を切ると、彼はいつも通る歩道を

 歩き出した。



 「朝陽、遅いな~? 寝坊でもしたのかな?」

 待ち合わせ場所に一人で立つ女性……。


 彼女の前を白いスーツを着た男性が通り過ぎる。

 そして、すぐに一台の救急車が通り過ぎた。


 「今、そこで、車が電信柱に衝突したらしくて、

運転手がケガしたみたいだぞ」

 と誰かが言った。


 彼を心配した彼女が、

スマホを取り出したその時、

彼女を呼ぶ声がした。


 「美緒、お待たせ。遅くなってごめんな……」

 と息を切らしながら、彼女のもとに走り寄る彼の姿。


 「朝陽、遅い~」

 満面の笑みを浮かべる彼女……。


 「ごめん! 今日は、一緒に行きたいとこが 

あるんだ」と彼が言った。


 「え~? 何処?」と彼女が聞いた。


 彼は、ニコッと微笑むと手を差し出し

 「それは、行ってからのお楽しみ! 美緒行こう」と呟いた。


 「うん、朝陽」と言うと彼女も

彼の差し出した手をしっかりと握りしめた。


 二人は互いの顔を見ると、

満面の笑みを浮かべ、

真っすぐに延びた道を歩き出した。



 朝陽と美緒……

高校三年生の秋……

その日は、秋風が心地良い快晴の日だった。



~ 夏の夜空に 完 ~




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夏の夜空に 由南りさ @yaku7227

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