変かもだけど助けたいの
大学祭に行った翌日の日曜日、また、あたしは旅に出た。とは言っても、あたしの家の近くの駅から電車に乗り、運転士さんから乗り放題切符を買ってひたすら往復するだけ。片道約二十五分。
いつも、大きな駅に向かう方向しか乗らないので、反対側の景色は興味深い。それに、終点駅は二つあるので、気を紛らわせることができる。
そういえば、この路線、電車としてはカーブ半径が日本最小らしい。
あたしは、電車らしからぬカーブを曲がっていく流れるような景色を眺めながら、昨日、大学祭の帰りに
♪ ♪ ♪
「
「どうして?」
「すみません。両親から口止めされていて……法律上の問題で……このことは、
「信じるけど、あたしたち、まだ付き合っていないから」
「でも、
「そんなことは……」
「
そうだ、はっきりさせないと。あたしはもう、以前のあたしとは違う。
「
少しの間が空いた。なにか、言いにくそうなことを言おうとしている感じ、男子生徒があたしに告る時と同じ空気。
「あの、今だけは甘えさせてください。もし、一線を越えたとしても許してください。絶対に、結婚はしませんから」
一線を越える……すごい覚悟している感が出ている。オーラって本当にあるのかも。
「あの、
「う、うん」
うぅ、もう気迫で押されて、思わず返事をしてしまった。
♪ ♪ ♪
電車が終点に到着した。ここは運動公園になっていて、トイレがある。ちょっと座りづかれていたので、電車を降りてトイレに向かった。
ダメかも。復縁されちゃうかも。だって、受付さんだって、すごく綺麗で優しい人だった。
♪ ♪ ♪
翌週の木曜日、下校しようと階段を降りていたら、
階段を下りている途中のあたしには気が付いていないようだ。
「あの口コミの件、やばいんじゃないの?」
「なんか、書き込み元、特定されているらしいじゃん」
「警察に被害届出されたら、まずくね?」
きっと、
「寺沢に全部、押し付けるのがいいんじゃないかな?言い出したのは寺沢だし」
「頼まれたのは事実だしな。KINEのやりとりも、そういう解釈で不自然じゃない」
下の階から、トテっトテっという足音が聞こえ、
「
「ど、どうしたの?」
「寺沢先輩を助けてください」
「どういうことかな?」
あたしはわざとシラを切った。
「私、薄々気づいていました。悪いのは寺沢先輩ですけど、何とかなりませんか?」
「どうしてあたしなの?」
「以前、SNS騒ぎを片付けた王女様ですから。それに……」
「それに?」
「私、陸上部のマネージャーで、先輩と同じ中学で、ずっと同じ部活で、あこがれの人なんです。悪い人じゃないんです」
あたしはとっくの昔から気づいている。でも、ここで
善人なら間違いなく助ける。でも、あいにく、あたしは善人じゃない。
「ごめん、ちょっと……」
血の気が引いてその場にしゃがみこんでしまった。あたしなら助けない。でも、きっと
その夜、大通り図書館からの帰り、
「グルになっている生徒がね、
「それは
「うん、
「
「そんなことない」
「
「そんなことしたら、今度は
|
「なんとかなるかも」
「どうするんですか?」
「ちょっと残酷だけど、
「そうするとどうなるんですか?」
「相手のKINEでは、『メンバーがいません』とトークに表示されて、証拠隠滅」
「でも、
「スマホを借りればできるよ。ロックされていても。トラブルに見せかけて」
え?
「そんなことできるんですか?」
「
「はい、前にKINE交換してます。音声通話しますか?」
「ああ、頼むよ」
あたしは、平川くんに電話をかけた。
「もしもし?あ、
「平川くんの家に、使ってないスマホで、シムロック解除しているやつある?」
「ないか……じゃあ、俺のを
三分ほどかな、何やら平川くんと
♪ ♪ ♪
そして翌日、授業が終わり、ほとんどの生徒が教室を出るのを見計らって
「
「いつから気づいていたの?」
「保健室の時だよ。四月のこと」
「そんなに前から? どうしてわかったの?」
「あの時、あたしが、『髪の毛を黒く塗られた』って言っただけなのに、『墨汁』って言ったから」
「他にもあるよ」
「なによ」
「図書室でのいたずら。あれ、
「……証拠はないわ」
「そうね。偶然、キーワードゲームの仕掛けを知っていて、さらに偶然、あたしが中学生時代にいじめられていたことを詳しく知っていた人ね。すごい確率」
「そ、そうね」
「そうなると、五人に絞られるわ」
「他に気づいていた生徒がいるかもしれないわよ」
あたしは
「夏休みのイベントの時、あたしが出演するのを知っていたのは、
「そんな……
「他のみんなは、スイッターであたしの写真が炎上したから、『
「あの時、土下座した男の人たちは?」
「あれはサプライズ。予定通りのね」
「それから、
「あれは、私、知らないから!」
「『あれは』、なの?」
「
「でも、学校とは関係のない誰かがやったって可能性だってあるよ」
「そうね。警察沙汰になればはっきりするかも。調べたら特定できるって」
「そうよ。私、中学の時、駅前の塾に通っていたから、色々な学校の子たちと知り合いで」
「駅前のところ、レベル高いもんね」
「
「そう」
「食堂も、この付近で『食堂』っていう名前のお店は一軒だけだったから。ごめんなさい、全部、私です。あの、都合のいいお願いってことはわかっているけど、このことは他のみんなには言わないでください」
「うん、言うつもりだったら、こんな時間に話さないよ」
「その、都合よすぎるよね、こんなに酷いことをしておいて」
「帰ろうか。歩きながら話そ。その方が気持ちも少しは楽になるよ」
「うん」
あたしたちは、下駄箱で靴を履き替え、自転車置き場へと向かった。
「あたし、中学校の時、学校の対応も悪くてさ、すごく辛くて寂しくて」
「そんな思いを
「ひとつお願いがあるの」
「何でも聞くわ」
「パン屋ジョンドで、生クリームパンとチョコラスクを買ってきて欲しいの」
「そんなことでいいの?」
「今日、
「そんな……」
これで、これからの話を断りにくいように流れが変わる。全て
「大丈夫。あの子、口コミの犯人、知らないから。それに、
「そうね。わかった」
「でも、一応、スマホは預からせて。
「ええ、いいわよ。何ならパスコードも教えるわ」
「それはいらない。預かるだけでいいよ」
「じゃあ、行ってくる」
そう言い残すと、
「
「はい。でも、本当にそんなこと、できるのかな」
あたしは
「こっちのスマホのパスコードは、四五六八三七六七三だから」
「了解です」
鈴木君は、二つのスマホを持ち、カバーを外している。そして、クリップを取り出し、伸ばした。
「えっと、四、五、六、八、三、七、六、七、三……と」
鈴木君がこっちを見て、ニヤニヤっと笑った。早くしないと、
「もう、どうしたの? 急いでよ」
「
あ、
「
「え? あの、陸上部の
「もう少ししたら来るから、ちょっと待っていようね」
「はい、わかりました」
「完了です」
五分で終わったみたい……すごく長く感じたから。でも、
少し経って、
「あ、
「ごめんごめん。
「寺沢先輩、初めまして。前回の大会、観てました! うわー、すごくおいしそうです。私、甘いもの好きなんです」
「好きなの選んでね」
「一緒に食べようよ」
「あ、でも……」
そして、スマホを見せると、
甘いものは人の気持ちを柔らかくする、誰かが言ってたっけ。
これで、
そして、
ふわっと、ちょっと冷たい風が吹き、
そうか、西から風が吹いているから、排気ガスのにおいがしないんだ。
あたしは、今度こそ本当に平和な学校生活を送れることを確信した。きっと、この三年間で最高のクラスになるんじゃないかな。
「きゃっ」
ゴロゴロッという、地面まで振動するような大きな音が上から聞こえてきた。
空を見上げると、真黒な雲が広がっている。さっきまでは晴れていたのに。ところどころ光っているから雷雲かもしれない。
「あれ? なんだろう?」
あたしたちは、光に包まれた! もしかして雷の中なの?
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あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
「金髪女子高生とギターと」シリーズはこれで完結です。
できたら、パスコードの謎を解いていただけるとうれしいです。
KINEのくだりは、ちょっとリアルすぎてやばいので、あえて詳しくは書いていません。実際に、テスト(ワタクシ、ガジェットギークでもあります)してみました。
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それではまた!
金髪女子高生とギターと⑤最期の通学路 綿串天兵 @wtksis
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