恋心は魔法に暴かれて
焼鳥
恋心は魔法に暴かれて
「本日お越しいただいたのは・・・」
テレビでは日夜魔法少女について持ち上げられ、周りの人も魔法少女についての話題でいっぱいだ。
魔法少女。突如として世界各地で出現した異常な力を持つ生物である『怪人』を打ち倒す者達であり、現代のヒーローだ。
10年以上前からこの怪人に被害が世界で報告されており、現代兵器では無力化は出来るものの倒す事には至っていないかった。しかし数年前に現れた未知の生物、『魔法生物』と呼称されるそれは、少女と契約することで力を与え、怪人を倒すことが出来る存在だった。
それの出現により世界各地で契約した少女、『魔法少女』なる者達が怪人を撃退していき、少なからず治安が元に戻り始めていた。
「雪菜....お前怪我しても知らないぞ。」
「大丈夫大丈夫。落ちても凪が助けてくれる。」
塀の上を歩く女の子と、それを心配する男の子。どちらも制服だ。
怪人が現れても人々の生活は言うほど変わらず、現役高校生である彼らも変わらなかった。
「凪は自分の心配しなよ。この前だって自転車に轢かれてたじゃん。」
「まぁこのようにピンピンしてるけどな。」
俺こと
「お前の方こそ危ない目に遭ってるんだから気をつけろよ。よくニュースとかでお前の名前見るけど、見るたびに不安になるんだから。」
彼女、
彼女はどんな些細な事でも手助けし、怪人を倒し、市民を助ける。やってる事は何でも屋に近いが、両親も止めていない。
二人で通学路を歩いていると、突然彼女の携帯が鳴る。
「あ!・・・怪人警報来ちゃった。凪また先生に伝えといて。」
「またか、ここ最近多いな。」
「キル〜行くぞ!」
彼女がそう声を上げると、どこからか真っ白な生物が現れる。
「雪菜よ、少しは休み事を覚えるキルよ。」
「でも困っている人は見捨てない。絶対に助けるのが私の信条です!」
「凪様、またご迷惑をおかけしますキルよ。」
「いつもの事なんで大丈夫ですよキルさん。」
この生物がキル、雪菜と契約した魔法生物。彼は魔法生物の中でも年齢が高いのか、変身時の服も露出が少ない巫女服で、今時ではない。それが雪菜には合っていたのか、いつの間にか契約していた。物腰も低く、社交的でよく雪菜に振り回されている印象だ。
「俺は先に行ってるよ。先生には伝えとくから、午後には来いよ。」
「了解!じゃあパパッと倒してくるね。」
一瞬淡い光に包まれたと思ったら、魔法少女の服に変わり、そのまま魔法で飛んで行ってしまった。
「あいつ出席日数大丈夫なんかな?」
国の方からそこあたりの制度があるとは聞いてる、それでも不安になる。
「まぁ考えても仕方ない、行こ。」
教室入ると、いつものようにクラスメイトいくつかのグループに分かれて話しているが、いつものように魔法少女の話題でいっぱいだ。しかも大抵その魔法少女、雪菜に関する事だ。
「おはよう凪。雪菜さんは?」
「呼び出しで行っちまった。午後には来るんじゃないかな。」
「またか〜凪が羨ましいぜ。」
雪菜とは同じクラスで、いつも二人でいることは知られいるのか、あの手この手で彼女に近づこうとする人たちで溢れている。
(まぁ雪菜顔良いし、どんな人にも同じ距離感で接してるから勘違いさせそうだよな。)
彼女はこの高校ではどちらかと言うとアイドルみたいな人気だ。道ゆく人に声はかけるし、ファンサービスは欠かさない。
魔法少女は愛される事でより強くなるらしいが、雪菜本人の人間性がそこにマッチしているようだ。
職員室に向かい、日課と言わんばかりに担任に彼女の遅刻を伝える。
「凪、お前にも苦労をかけるな。」
「こんぐらい大丈夫ですよ。怪人を倒せるのは彼女達だけですし。」
「まぁそうなんだが。」
先生の表情がヤバそうのなのを見ると大方察しがつく。
「出席日数ヤバい感じですか。」
「うん...流石にこれ以上は制度でもカバー出来そうにない。このまま行くと夏休みが全て補修になりかねん。」
「あ〜彼女に伝えときます。キルも多分理解してくれると思うので。」
「キル君にも迷惑をかけるな。」
先生もキルの事は知っており、なんならキルに学校の事を教えたのは他ならない先生自身だ。だからキルは高校生活の事を気にするのだが、彼女がああでは無理な話だ。
「私の方でも他の先生に頭下げておくよ。」
「いつも迷惑かけます先生。」
その後は彼女の活動などを伝え、そのまま職員室を後にした。
授業はいつものように行われ、そのまま午後に移る。
「遅れました!」
五限目が始まると同時にドアがバンと開かれ、雪菜が登校してくる。
先生は呆れながらも席に着くように促し、彼女もそのまま座る。
「凪〜今日の授業の奴、後で見せて。」
「いい加減金貰うぞお前。」
「やめて〜万年金欠になっちゃう。」
そんな事言ってるが、彼女の家は宝くじで一等を何回か当てているので、お金には困っていない。しかも当たる日は毎回雪菜に関する何かしらの記念の日なので、多分彼女は幸運体質なのだろう。少しは俺に分けて欲しい。
「疲れてるだろうけど寝るなよ。」
「は〜い。終わったら二人でアイスでも食べよ。」
「お前の奢りな。」
「うぐ...分かった。」
少し不貞腐れている彼女を笑いながらも授業を受ける。
特に何事も無く学校は終わり、通学路の途中にあるコンビニで二人はアイスを頬張っていた。
「ここ最近怪人が沢山出現しててさ~。他の魔法少女も自分の持ち場以外に行く事も増えてるんだって。」
「ニュースでやってたな。活発時期でもあるのかあいつら?」
「分かんない。」
確かにここ最近ニュースや新聞、SNSでよくそういう話を見かける。ゲームとかなら襲撃イベントとかの前触れとかだが、現実では分からない。
「あっ...雪菜お前出席日数ヤバいらしいよ。」
「今する話じゃなくない!?」
「そんな事言われても先生から伝えるように言われし。忙しいのは理解してるけど、夏休みが補習まみれにならないように気を付けろよ。」
「ばいば~い。」
「おうまたな。」
今日は俺が最近ハマっているというよりスカウトされたボクシングの日だ。
事故に遭ったとある日に、轢かれたのにも関わらず普通に立ち上がった俺を見て、ボクシングを経営してる人にスカウトされた。ボクシング自体打たれ強い人は勝ちやすいとかなんとか言われ、俺も体を動かしたかったので快く了承した。
「凪君更にキレが増したね。数か月でここまで仕上がると最早才能だよ。」
「コーチの教え方が上手いんですよ多分。」
「多分は余計だ。」
試合には今のところ出る予定は無く、今も基礎的な技とトレーニングを続けている。
「凪君も見たかい昨日のニュース。」
「なんのニュースですか?」
見せられたのは隣町での怪人のニュースであり、かなり大規模な発生で多くの魔法少女が参加したものだった。
「内容を見るに、怪人側は何か探ってるらしくてね。隣町で起きた事件だから、いつこの町で起こるかも分からない。君も守る手段ぐらいは用意した方がいいかもしれない。」
「ボクシングは守る手段にならないんですか?」
「なるにはなるけど、人を傷つける為に教えてるわけじゃないからね。」
それはそうだ。
時間を見ると既に19時を回っており、これ以上過ぎると晩飯に間に合わない。
コーチと来ているお客さんに一礼し、そのまま家に帰ることにした。
「雪菜も怪人が増えてる的なこと言ってたし、数日は緊急速報受信出来るようにしておくか。」
嫌な予感もするが、それは俺が不幸な目に逢いすぎる故に感覚かもしれない。
それでも一抹の不安がぬぐい切れず、雪菜に『気を付けろよ』とだけ送るのであった。
夢を見ていた気がする。
小さい頃の自分と雪菜が町を駆け巡って遊んでいたそんな夢だったと思う。
でもそんな夢だが何処か不穏だった。
雪菜が行く先々で問題を起こしていた。普段の雪菜ならそんな事はしない。
何かあったのか聞けば、「私魔法少女だから何してもいいの」なんて言う。
「お前そんな事言う奴だったか?しかもお前そんな年で契約してた記憶が無い。」
「してたよ凪。あ~教えてなかったねごめん。」
なんか違和感が大きくなっていく。
雪菜に手を引かれる度に、言いようの無い吐き気と気持ち悪さに駆られる。
「ねえ凪!あそこ人達お金持ってそうじゃない。いいな~私もお金欲しい。」
「何言ってるんだ?お前ん家お金はあるはず・・・。」
気づけば彼女は変身していた。そして杖を視線の先の向けていた。
「ストレイ・カノ...。」
魔法を唱えようとしている。それだけはダメだ、それは超えちゃいけないラインだ。
体が勝手に動く。視線の先の人たちを守るように彼女の前に飛び出す。
シュンと小さい音が響いた。
ポタポタとお腹から血が零れ落ちる。
当然だ。穴が開いてたからそりゃあ出る物出るわ。
「雪菜は....そんな事するやつじゃ・・ない。」
少しで気を抜けば崩れて壊れそうになる。その上でしっかりと彼女を見つめる。
「お前誰だ?」
彼女の顔が崩れ、化け物に変わる瞬間を最後にプツンと意識が切れた。
「なんか嫌な夢を見た気がする。」
時間を見れば遅刻寸前だ。急いで食事を済ませ、玄関に走る。
携帯には『先行くね」と雪菜から連絡が30分ほど前に来ていた。
「後で謝らないとな。」
高校に向かう最中、夢を何度も思い出そうとしたが、ほんの一片も思い出すことが出来ない。本当に意味の分からない夢は何故か覚えているのに、こういう時ほど記憶力は役に立たない。
「イルカ同士が甲子園球場で野球してた夢とかは今でも覚えているのにな。」
それにしても町の雰囲気がどこか変な気がする。表現が難しいが、こうどんよりとした空気が漂っている気がするというかなんていうか。もどかしさで喉が詰まる。
「そんな事考えるよりまずは間に合う事が最優先!」
教室に着くと既にホームルームは始まっており、全員着席している状況だった。
「すみません遅れました。」
そう一言先生に言っても何も返ってこず、不信に思いながらも席に座る。
『視線を感じる』、そう思い周りを見ると、全員が俺の方を見ていた。
「俺になんか用?」
けれど全員何事もなかったように前に向き直る。いくら何でも気味が悪すぎる。
10分休みに雪菜に連絡しようにも、ずっと視線を感じて送ろうにも『見られているのでは?』と疑心暗鬼に陥りそうになる。
【雪菜の方は何か変な事は無いか?】
【別にないよ 特に普通】
【ずっと見られてるとかないのか】
【ないよない 凪は心配症 じゃあ切るね】
彼女の方は特に何もないようで、これは俺の方に問題があるのか?
いくらなんでも分からないことだらけだ。
結局その違和感と気持ち悪さを抱えたまま昼休みに突入した。
「緊急速報!緊急速報!」
突如としてアナウンスが鳴り響く。
「近隣で怪人発生。校内の生徒はただちに教室に集合のち、体育館に集合してください。先生は生徒の確認をお願いします。」
機械音声と共に流れるのは怪人が現れた時のものだ。スマホを見れば何処に現れたかが通知が既に来ていた。
「出た場所ってマジで近所じゃん。」
発生場所は高校から徒歩10分ほどの商店街。高校の生徒の多くがよく使っている場所であり、雪菜と飯を食いに行く場所でもある。
外を見れば雪菜は既に走っており、変身も既に終えている。空を飛べる魔法少女なら発生地点まで数分も掛からないだろう。
「あいつ怪人に負ければいいのに。」
彼女が飛び去った後、教室の誰かがそう口にした。
聞こえた方向に振り向けば、女子達が笑っていた。そしてそれがきっかけに教室のいたるところから彼女の、雪菜の陰口、罵詈雑言が飛び交う。
「お前ら何言ってるんだ....」
なんでそう笑っていられるんだ。なんでそんな楽しそうなんだ。
「凪~今日暇か?あんな女置いて遊ぼうぜ。」
いつも彼女の事で熱く語るクラスメイトがそう言いながら肩を組む。
「やめろ!雪菜をなんだと思っている!?」
振り払いながら周りを見渡す。
その場にいた全員が口では笑っていた。なのに、目が笑っていなかった。
(雪菜は大丈夫なのか!?どう考えても普通じゃない。あいつに何かあったらマズい。)
荷物は机に放置し、教室を飛び出す。
「おやおや?かの魔法少女ともあろう者がこんな簡単にくたばるとは情けない。」
速報よりもいち早く届いた緊急通知を元に場所に向かうが、既に商店街は占拠されており、囲まれてしまった。
「威勢よく立ち向かったのにこの体たらく...これでは魔法少女とは名乗れないな。」
情報にあった杖を持っていた怪人を見つけ、即座に魔法を撃った筈なのに傷一つ無い。情報よりもはるかに強い個体だったのだろうか。
「色々考えるのだろうが無理もない。いるのだろうお前の契約元とやらが。そいつに調べて貰うといい。今お前がどれだけ愛されているかをな!」
「キル....どうなってるの?」
「喋らなくてもいい。今直ぐに・・・・1キル。1は可笑しいキルよ!?」
数値はどれだけ愛されているかを表すもの。それが1という事はつまり。
「一人から、しかも普通の好感度のようだな。」
それは可笑しい、キルの言う通りだ。今までなら日によるけど5000ほどはあった。
それが今は1。何をすればこうなる?
「町の人たちに何かしたの。まさか洗脳!?」
ボロボロの体に鞭を打ちながら立ち上がる。
「そう!その通りだよ魔法少女。君達の力の源が『愛』だということは理解できていた。しかしうちの仲間どもはどいつもこいつも頭に筋肉が詰まっているのか、真正面から勝とうする。そこで私が考えた。」
怪人は高らかに腕を上げ、宣言する。
「君達に対する感情を反転させればいいのだと!」
まるで演説のように怪人は語る。
「都市一つ分の人間は無理でも、小さな市町村程度ならば全てを対象に出来る。」
彼の手元に禍々しい魔力と共に魔法陣が浮かび上がる。
「この『感情を増幅しそして反転』させる魔法でね。」
「人の心を変えたの?」
「その通り。君は鈍感なのか気づいていなかったけどね。」
コツコツと一歩ずつ彼は近づいてくる。
「後は君の心を反転させて、身も心も落としてあげよう。」
「やめて。来ないで!」
足が動かない、喉がどんどん乾いていく、目を開けたくない。
「インヴェート・マインド。」
突き出された手が禍々しく輝き始める。もう避ける事も逃げる事も間に合わない。
(凪!助けて凪。)
心の中で叫んだのは最も信頼し、好きな人の名前だった。
光が視界を包む。
「あれ?何ともない。大丈夫か雪菜。」
「え・・・・え?」
彼が立っていた。
「ボロボロじゃねえか。」
「凪、どうして此処に?」
「そんなん学校のクラスメイトが急に可笑しくなってさ。もしかしたらお前に何かあったのかと思って学校抜けてきた。」
走って来たのだろう。汗まみれの彼の呼吸が荒い。
「もしかしてあの数値の1はもしかして。」
普通に考えれば0になる筈の数値が1だったのは、凪だけが変わらなかったからだろう。
そう思うと途端に足の力が抜けてしまう。
「あぶな!よし雪菜は少し休んで。俺がなんとか時間を稼ぐから、雪菜は応援を呼んでくれ。」
「分かった。」
今の私は無力だ。彼に全てを託すしかなく、キルにもそう伝える。
「貴様、何も変わっていないのか?」
「変わっているところがあるとすれば、クソほど怖いことかな。」
現に怪人を前にして足が震えている。情けないにも程がある。
「違う。あの魔法少女について何とも思わないのか?」
「思わな・・・い?雪菜については好きなだけだが。」
「は?」
「うん?」
変な空気が流れる。
「今『好き』と言ったか小僧。」
「言ったけど。」
「嫌いではなくて?」
「好きだけど。」
怪人は目を丸くする。
(この小僧に魔法が聞いていないのか?しかしこいつから我の魔力を感じる。つまり魔法そのものには掛かっていると見ていい。)
それでも凪はあの魔法少女に好意を示した。
ということは可能性は一つしかない。
(反転だけしなかったのか。)
この魔法を市民に使う時、予め仕込みをした。
夢に介入し、魔法少女に対する負の感情を高めておいた筈だった。だがこの小僧は何らかの方法でそれに打ち勝ち、今に至るのだろう。
「ならば何故私の前に立つ。死にたいのか?」
「死なないように頑張る。」
小僧は笑いながらも我から一度も視線を外さない。
大前提として、怪人の動きは一般人にまず追うことが出来ない。鍛え上げられた人なら避けたり追えたりするのだろう。故に結果は分かりきっている・・・分かりきっていた筈だった。
「うぐ・・・なんと!?」
振るった拳は小僧の顔、左頬にクリーンヒットする。その時点で普通なら殴り飛ばされる。その筈なのに彼はその場から動かず立っていた。
「ぐ・・・ぐあ!!!」
驚きで動きが止まった所を逆に殴り返される。
(怪人の肌は強固だ。殴れば殴った本人もただでは済まない。なのに小僧は平然と殴り返してきた。こいつトチ狂っておるのか!?)
数歩後ずさりしながらも凪を見る。彼の殴ったである片方の拳は青黒く腫れ、血も流れている。
「そこの魔法少女の為にそこまでするとは、相当思い入れがあるようだな小僧。」
「そりゃあそうだろ!好きなんだし、ここで逃げたら男が廃るだろ!!!」
凪は一歩ずつ歩を進める。
「いつも誰かの為に奔走して、貰ったものはずっと大切してくれる。ふと見せる笑顔なんて破壊力抜群だ。時折甘えてくる時なんて死ぬほど可愛いし、誕生日プレゼントあげた時に見せてくれた嬉し泣きなんて一生忘れらない。そんな雪菜に為にここまでするだって?するに決まってるだろ。」
拳が届く距離まで詰める。
「あいつの事は誰よりも好きなんだからな!!」
「はわ.....はわわわわわわ!!!!」
明らかに凪の様子が可笑しいのは言うまでもない。それにしたって、真後ろに張本人がいるなかでそんな事言うなんてもはや『告白』でしかない。
「凪様があそこまで雪菜様思いのお方だった知りませんでしたキルよ。」
普段凪は私にあんな事は言わない。距離感なんて『親友』から一歩も動いていないと思うほどだったからだ。
「凪様は魔法にかかっている筈です。ですが反転してないと考えると.....」
キルは考える。あり得るのあり得るのだが、彼の事なので違う可能性もある。
「凪様は、雪菜様に恋心と親愛の両方が入り混じった状態で接していたのでは?」
彼のこれまでと今の状況を考えるにそれが一番妥当だ。
「いや・・そうだとしてもね!?」
応援は呼んだが、20分ほどかかると言われた。周りを囲んでいる怪人は動く気配が無いので、凪が倒れない限り大丈夫だろう。
「な・・・凪が私の事好きって。」
もう頭が沸いて思考が定まらない。顔も恐らく真っ赤だろう。今そんな事してる場合じゃないのは理解している。でも無理なものは無理だ。
「恥ずかしいよ.....」
可笑しい。何度殴ってもこいつは倒れない。何百年と育った巨木を殴っている感覚だ。凹んだり傷つく、なのに絶対に倒れる事が無い。なんなのだこいつは!?
「そこまでしてお前は魔法少女に何を求める!?」
「笑って欲しいだけだが!」
「もっとこうなんかあるだろ!?」
「まだ付き合ってもない女の子色々求めるのは不味いだろ!!!」
「うぐ・・・正論すぎる。」
こいつの圧力に押し負け、どんどん後ろに下がってしまっている。これ以上魔法少女から離れると魔法の射程から外れてしまう。しかもこいつ、腕がもう腫れまくってるのに殴るのをやめない。バーサーカーか何かかこいつは!?
「好きな女の子を守れないで、いつ人を守るっていうんだ。」
拳を振るう。
「あいつはいつも頑張ってる。じゃあ頑張ってるあいつは誰が守るんだ。」
拳を振るう。
「あいつの隣にいる為に、あいつを支える為に、こうして俺がここいるんだよ!」
拳が顎にクリーンヒットする。怪人も流石に今のは効いたのか、膝をつく。
「まだやるか怪人さんよ。ちなみに俺は割と限界だよマジで。」
お互いに満身創痍になりながらも見つめあう。決着が着くのも時間の問題だろう。
「死んじゃう....恥ずかしくて死んじゃうよ。」
凪はずっと大声で喋っている。つまりそれは雪菜に駄々洩れということで。
「雪菜様耐えてください。聞いている私も凄い恥ずかしいキルよ。」
(しかしこのままでは凪様が死んでしまう。一体どうすれば。)
ピッピと音が聞こえる。これは確か数値が変動するときの音だった筈。
キルは慌てて数値を確認する。
「あれ?先ほどまでは1だった筈では。」
見れば数値はどんどん上昇しており、既に2000を超えている。一体に何があったのか。確かに愛されているほど魔法少女は強くなる。それでも現状彼女を強く出来るのは凪ぐらいなもので。
「その凪様の愛が爆発してこうなっているキルか!!??」
少し目を離しただけで数値3000を超え、このまま行けば今までの最大値を超える可能性すら出てきた。
「雪菜様!今ならあの怪人を・・・・雪菜様?」
「な・・・な・・・・・凪のバカ!!!!!!」
彼女の手元の杖に光が集まる。その光はキルが今まで見てきた光よりはるかに強く、はるかに大きい。まるで全て消し飛ばそうとしてるみたいだ。
「ストレイフ・カノン!!!!!!!!」
「いい加減倒れるがいい小僧!」
「そんな要求の見込めるか!」
互いの拳が届きそうになった時、音が聞こえた。
まるで全てを消し飛ばすほどの爆発が迫っているような音が。
「なんだ?」
「うん?」
互いに音がする方向を振り向く。そこには少女が杖を構え、魔法を既に唱えているのが見えた。
「ストレイフ・カノン!!!!!!!!」
その声が聞こえた時には既に、世界は白で染まっていた。
「いや~君よく生きてたね。搬送されて来た君見た時は血の気が引いたよ。」
気づけば俺は病室のベットの上にいた。
「俺なんでここにいるんだ?」
確か雪菜の事が心配で教室を飛び出し、雪菜が怪人に何かされそうになってるのを見て庇ったことまでは覚えている。でもその後から今現在までの記憶が一切無い。
「意識もしっかりしてるようだから私は席を外すとするよ。何かあったナースコールしてくれ。」
医者はそう言い、部屋を出ていく。皮切りに雪菜が入って来た。
「凪!良かった生きてる。」
「おま・・涙と鼻水で顔が台無しだぞ。」
「でも...」
「わかったわかった。心配かけてすまんかったって。」
話によると俺が雪菜を庇った後、怪人に攻撃され続けた俺を雪菜が魔法で助けてくれたらしい。しかし怪人全員を倒す為に、かなり強めの魔法を使ったので、商店街は滅茶苦茶になってしまったとのこと。現在は国が商店街を立て直してる最中らしく、雪菜は長い休暇を頂いたとのこと。
「凪が治るまでずっと側にいる。」
「お前出席日数ヤバいんだろ。学校行け。」
「でも凪がいなくなったら...」
「俺はいなくならないし、何処にも行かないよ。」
「ずっと側にいてくれる?」
か細い声でそう聞く彼女の頭を撫でながら、彼は答える。
「ずっと側にいるよ。お前が満足するまでな。」
聞きたかった答えを聞けたのだろう。雪菜は泣きながら笑い、
「絶対に満足しないね、そう言われたら。」
そう言った。
雪菜は後日商店街の立て直しを手伝っている他の魔法少女に挨拶に行った。
「皆さんご迷惑おかけします。」
「大丈夫大丈夫。あんな数出てきたら私たちもあのレベル魔法使うしね~。」
「雪菜ちゃんは市民に被害出さなかったんだから大手柄だよ。」
来てくださっている方々は皆良い人で、気さくな方々だ。
「でも~雪菜ちゃんも罪な女よね~。」
「わかる!あんな大胆に告白されちゃって~。」
「あ・・・あれはその....」
「「彼とはどうするの!」」
あの後キルの方から魔法対策を講じるという理由で、あの事件の映像資料が提出された。またあの魔法にかかっている間は記憶が残らないらしく、二次被害は防げたとのことだ。しかし凪の私に対する大胆な告白が露見し、それは瞬く間に全国の魔法少女に知れ渡ったのだった。
「凪のことはその....好きだけど。」
「「だけど!?」」
「凪はあの時の事覚えてないみたいだし....」
「そこで逃げるかな~。」
「あんないい男は直ぐに他の女がついちゃうよ~。」
他の魔法少女達は息ぴったりに煽り散らかす。
「雪菜ちゃんは早くあの男の子ゲットして、結婚しなきゃ!」
恋バナに興味深々の年頃の彼女達にとって絶品の話題に雪菜は逃げる事は許されない。
「な・凪のオオバカ!!!!!!!!!」
商店街に少女の木霊が響いたのだった。
恋心は魔法に暴かれて 焼鳥 @dango4423
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