第56話
それからは、月子はなるべく目立たない席を手配してもらい、
たまにライブを見に行くようにした。
それでも彼は、あらかじめ彼女の席を聞いているのか、
ライブ中にかならず視線をおくり、すこし安心したような顔をす見せる。
「じゃぁ、私は行くね。明日もがんばってね、2Days」
ライブ終了後に月子が彼の楽屋に顔を出し、
まだ息があがり、汗だくの彼に言った。
いつもは『わかった。ありがとう』と聞き分けの良い彼だったが、
去ろうとした月子の手首をつかんだ。
「・・・ん?どしたの?」
手首をつかみ、息をととのえ目を閉じているアサト。
「・・・今日はそばにいて欲しい」
月子は、今回のツアー中、アサトと一緒に泊まることはほとんどなかった。
交通手段が間に合えば日帰りか、泊まっても彼とは別のホテルに泊まっていた。
「なんでそんなことするんだ?夫婦なのに、ぶつぶつ」
最初、アサトはちょっと拗ねていたが、
「なんかね、ツアー中は、
あなたのステージをずっと待っていてくれたファンの方たちに、全力投球してほしいなって。
私が、滞在先とかに泊まったりしたら、
いくら奥さんでも、気分良くないんじゃないかな、
・・・って思って」
「・・・さすが月子だね。
僕はライブと私生活は、まったく切り離して考えてたから、
ちょっと、おどろいたな。
ファンの気持ちになるって、
僕も口では言ってたけど、実はわかってなかったのかも。
君の気持とか意見を尊重するよ。ありがとう。
わかった。ツアー先では、君を我慢するよ。
禁欲ツアーになっちゃうな、あはは。
でも、プロとしては当然かもしれないな」
ホワイトローズストーリーⅡ(未完) 清藤澪 @emutis0921
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