第7話
あの日、と一成はこちらを見ずに語り出す。
「俺も小さいなりに両親の異変を感じてはいたんだ。
だが、気づかぬフリをして、この家に来た。
それは、恐ろしい現実から目を背けようとしたからだけじゃなくて。
俺は……
お前に釣られて此処に来たんだ」
はい?
「お前と遊べると聞いて、俺は不安を押し殺して此処に来て、こんなことになってしまった。
お前に釣られたばっかりに、俺は両親を失った。
全部お前のせいだ」
と一成はとんだ言いがかりをつけてくる。
「……考えてみたら、俺の人生、お前一色だな。
お前のせいで、親を止めずに家を失い。
お前を不幸にしようとつきまとい。
まるで、熱烈にお前を愛しているかのようじゃないか」
「熱烈に愛してるんじゃないのか」
とドアのところから声がした。
今年、高三になる弟の慎太だった。
「ケーキもらったから食べないかってさ」
と母親からの伝言を伝えてくる。
一成はそれには答えずに言う。
「慎太、俺がこいつを好きとかあるわけないだろう。
こいつ、初めて俺に会ったとき、なんて言ったと思う?
『いっせいが結婚して、子どもが生まれたら、二世なの?』って。
何故、俺がそんな阿呆なこと言う女を熱烈に好きになると思う?
こいつに初めて会ったその日から、そのマヌケな発言とか。
今みたいにおもりのついたサボテンで俺の腹を温めようとする阿呆な行動とか、頭に焼きついて離れなくて。
ほんと勉強の邪魔だし、仕事の邪魔だし、時には夜も眠れなくなるし」
はいはい、ご馳走様、と言いながら、慎太は部屋を出て、階段を下りていく。
「おかーさーん、二人とも、今、忙しいから、ケーキいらないってさー」
と下に向かい、叫ぶのが聞こえてきた。
いや、いるいる。
いりますよ、ケーキ! と私は行こうとしたが、その手を一成がつかんでくる。
私を見上げ、言ってきた。
「杏里。
俺は、今はお前だけを恨んでいる。
俺の思考を鈍らせるし。
俺の判断も誤らせるし。
お前の存在が常に俺の人生すべてを支配している」
責任とってもらおうか――。
一成は私の手を引き、顔を近づけ、言ってきた。
「お前には、二世を産んでもらう。
小さなときに暗示にかかったせいで。
もう俺の頭の中では、俺の子どもの名前は、二世なんだよ」
手を握られたまま、一瞬沈黙したあと、私は言った。
「……でも、中西二世って変じゃない?」
「待て。
なんで、中西だ。
高徳寺二世だろうが!」
と一成が反論してくる。
ああ、そうか。
「でも、高徳寺二世って、なんか偉そうだよ。
高徳寺次男にしたら?」
「長男なのにか……?」
いや、二の代わりなんでなんとなく……。
「ああ、でも、女の子かもね」
「……じゃあ、
「音の響きは可愛いけど。
女の子の名前にしては、
「待て。
そもそも、お前が言ったんだろっ、二世って」
と二人でハンモックに腰掛け、揉め始める。
親に言われて、また呼びに来たらしい慎太がまた下に向かい、叫んでいた。
「おかーさーん、この二人、やっぱり来そうにないーっ」
一成は、今日も明日もその先も身体を鍛え続け。
ピンチのときには、なにを置いても駆けつけてきてくれるのだろう。
「でもさ。
よく考えたら、二世って、名前の方につけるんじゃないの?
高徳寺一成二世」
「余計ややこしいだろうが……」
だから、私は、今日も明日もその先も――
逃げることなく、この人に呪われ、復讐されつづけるだろう。
たぶん、一生――。
完
イケメン王子の容赦なき復讐 櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん) @akito1
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